表があれば裏がある。
誰だって秘密を抱えるものだし、人に見せられない見せたくない一面を持っているもの。
それは時には予想もつかないことだってあり得る。
誰にでも優しいって評判の子が、人のいないところじゃ悪口ばっかり言ってるかもしれない。親友だって思ってた子が、実はなんとも思ってくれてないかもしれない。不良だって思われてる子が本当は優しい子かもしれない。なんでもできて強いって思っていた子が実はすごく脆いのかもしれない。嫌われていると思っていたのに好かれているかもしれない。
そんな風に人に思われている一面とは違う面が人にあるのは当然だって思う。
人は誰かを見る時、そこに自分を投影する。
こうだったらいいなっていう自分の理想を人に押し付ける。
それは悪いことなわけじゃなくて、仕方のないもの。
本当の意味での客観なんてなくて、人は全部自分というフィルターを通してしか人も、物も見ることはできない。
そこに齟齬が生じるのは当然のこと。大切なのは、思っていたのと違う姿を見た時に自分がどう受け入れるかっていうこと。
裏切られたって思って、その人との付き合いをやめてもいいし、違う一面を知れたって喜ぶこともあるかもしれない。
それを決めるのはいつだって自分のはず。
だけど……
裏を見てしまうことで戻れない道に踏み込んでしまうことだってあるんだ。
（何が、起きてるんだろう……？）
半ば思考の停止した頭で私はそれを思った。
今起きていることは私の理解の範疇を超えていて、何も考えられない。
薄暗い室内。
部屋に漂う甘い香り。
柔らかなベッドに腰を下ろす私。
「確か、貴女は転校生さんだったわね」
そんな私を見つめる碧眼。
落ち着いた澄んだ声。見るものの心を奪う、流れるような金の髪。
存在そのものが芸術品のような女性が意味深な笑みを浮かべながら私に問いかける。
「…………」
私は何も答えられなくて、目を背ける。
直視なんて、できない。
彼女は普通の格好をしていないから。ほとんどの肌は露出され、身に着けているのは豊満な胸を隠す花柄のブラとショーツだけ。
「あれ？ 間違ってないわよね、千秋」
私が答えないでいると彼女は隣にたたずむもう一人の女の子に声をかけた。
「はい……そう、です。お姉さま」
色素の薄いショートカットの髪とやや中性的な顔立ち。
私の同級生である千秋さんは頬を赤らめながら、聞きなれない言葉を口にする。
彼女は薄緑のパジャマを身に着けているけれど、前開きのボタンは外されちらちらと肌が見えている。
「あ、の……わた、し」
何を言えばいいのかわからなくて私は掠れた声を出すことしかできない。
「緊張してるのかしら？ 大丈夫よ、別に覗かれたのを怒ってるわけじゃないわ」
彼女は優しくそう言ってくれるけれど、その顔には私の知らない感情が乗っている。
「ただ……」
（っ……）
彼女の笑顔にある、私を圧する何かが表に出てきて私は身を縮こませる。
「困るのよね、こういうのを言いふらされたりしたら」
「っ!!」
彼女は言って、千秋さんに口づけをした。
「ん…ちゅ…あ……」
「あ………」
それは私が今こうしている原因を作った光景。私が覗いてしまった彼女たちの裏の、顔。
クチュクチュと舌が絡み合うその淫靡な姿に私は心を奪われ、体を動かせなくなってしまう。
「私たちだけならともかく、私たちのせいで他の子にまで迷惑がかかっちゃうのは申し訳ないのよ。それに、こういうのを全然しらない子だっているんだしね」
キスを終えると何事もなかったかのように会話を続ける。
「わ、たし……誰にも、いいません」
何を求められているのかはわかって、どうにかそれを口にすることができたけど
「うん。そうしてくれると助かるわ」
一瞬の安堵。
「でもね」
そして、変質した空気に体をすくませた。
「千秋」
「……はい、お姉、さま」
呼びかけられた千秋さんが冷静な声で答えて
「あ…っ」
私の後ろに回って体を押さえつけられた。
「言葉だけの約束ってあんまり信じないのよ」
「あ……の……」
本能的な危険を察して、逃れようとしても千秋さんに完全に腕を取られて動けない。
「わたし、本当に……」
「えぇ、私も信じたいわ。でも、言ったでしょ。言葉だけじゃ信じられないって」
「じゃ、あ……どう、すれば……」
呆然と言葉にするけれど……答えを聞くことが恐ろしい。
「それはね……」
彼女が私に手を伸ばしてくる。
「っ!!」
パジャマのボタンを外されて、服を肌蹴させられた。
その衝撃に彼女を見つめると目があってしまう。
吸い込まれそうな青い瞳。そこに灯る情欲の炎。
（…………綺麗）
私は何をされそうになっているのかわかってもそう思ってしまい
「同じ秘密を共有すればいいのよ」
迫ってくる彼女の唇を避けることができなかった。
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少しこの始めようとしているシリーズについて書かせていただきます。
まずはっきり申し上げておきますと、素直に十八禁で行きます。これまでは中途半端にそういうものを期待させては主におまけとしてしか書いてきませんでしたが、メインのシナリオの中にエッチシーンを入れていく予定です。多分一話に一回以上はそういうシーンが入ると思います。
また、メインのキャラは決めていますが、それ以外のキャラとの関係も持っていきます。
女子校の寮を舞台とした十八禁百合は実はずっと前から書きたいと思っていたものなのでしっかりとかきあげていきたいです。
本格的な連載はおそらく年明けからになると思いますが楽しんでいただけるものになるよう頑張りますのでどうかよろしくお願いします。
……実は以前連載していた「わたしの世界の付き合い方」はこういう方面の話をメインでやろうとしていたのですが……その時はまだ度胸がなく結果中途半端なものにしてしまったという後悔があるのでこっちは自分の中の歯止めをかけずにやっていくつもりです。
正直、趣味丸だしな作品になると思います。