彩音のことは愛している。
心の底から。
生まれた時から一緒にいる分ダメなところもいいところも知り尽くしている。
それでもいまだに新しく好きだと思うところを発見するし、惚れ直すこともしばしば。
私も彩音も生きて行けば変わっていくし、新たな面を発見するのは当然のことと言えるのかもしれない。
ただ……この件については…どうすべきだったのかしらね。
まぁ、どんなことになっても結果は変わらないのかもしれないけど。
◆
彩音のことは知らない面もあっても、全てを知ってるといっていい。
だが、もう一人の恋人であるゆめについてはいまだにわからないことも多い。
基本単純な人間ではあるし、物事もはっきり言えば顔にはださなくても感情は表に出しやすい。
ただ、何を考えているかわからないことは多い。
「……それ、本当?」
今もそのわかんないことを話されて真贋を見極めているところ。
「……うむ」
夕飯も終えてすることもなくソファで二人だらだらとしてた私とゆめ。
特に意味なく私の膝で丸くなるゆめを撫でていたら、妙なことを言ってきた。
「……そういえば、彩音が美咲が小っちゃくなったらいいと言ってた」
「…………」
難しい判断だ。
彩音の妄言はさることながら、何故ゆめがそんなことを言ったのか。
ソファで膝枕をして頭を撫でてる。単純にそれが小さな相手にだからできることで、言いだしただけかもしれない。
なので特に意味がないかもしれないが、自分が小さいから彩音の好みだというマウントかもしれない。
まぁマウントならマウントでもそんなゆめを可愛いと思うだけでいいが、私としては彩音の思惑が気になるところだ。
「ほかにはなんか言ってた?」
「………んー」
髪を撫でながら視線を落とすとゆめは眠たげに身を捩る。
「……なんかお姉ちゃんって呼ばれたいとかも言ってたきがする……ふ、ぁ……あふ……」
「お姉ちゃん?」
なんか大分話がおかしなことになってる気もするが
「……んぅ……」
ゆめがそのまま寝入ってしまい、結局どういう話だったのかわからずじまいだった。
◆
「…ふむ」
お風呂から上がったあたしが部屋に戻ると、ベッドが膨らんでいた。
顔も出してなくて、どっちがいるのかはわからない。
いない時にベッドに入ってくるのは珍しいことではないから気にせず、
「ゆめー、今日はどしたの」
と、ベッドで布団をめくると。
「ぁ……」
予想外の相手でしまったという気分になる。
かけ布団のしたにいたのは美咲で、一瞬ゆめと勘違いされたことにむっとした顔になった後。
「もう、お姉ちゃんってばゆめと間違えるなんてひどいんじゃない?」
甘えたような声で言われて、頭が真っ白になった。
「へ??」
「どうしたの? お姉ちゃん? 早くベッド来て?」
「えぇ……と?」
何が起きてるんだろ。めちゃくちゃ異常な状況なんだけど。
布団から出た美咲はベッドにペタンと座り、首をかしげていつもより高い声をだす美咲は……なんといえばいいのか。
いや、何? まじで。
「もう、彩音お姉ちゃんてば。ほら」
と両手を広げてあたしを受け入れるような仕草の美咲。
「???」
わからない。美咲が何をしているのか。
わからないまま乗ってもよかったんだけど、それより先に
「こういうことがしたかったんじゃないの?」
すん、と美咲が落ち着いて冷静な声を出してきた。
「うぇ…え、ほんとなに?」
とりあえず話ができる状態になったとベッドに座って美咲と向き合う。
「で、まじなんだったの。今の」
「彩音がこういうプレイがしたいのかなって思ったんだけど。お姉ちゃんって甘えられたかったんじゃないの?」
「ん……?」
やっぱり何を言ってるかわからないままに記憶の糸をたどるとわずかに心当たり。
「もしかしてゆめになんか聞いた?」
「そうよ。彩音がお姉ちゃんプレイしたいって」
「……それ、あんたが曲解してるでしょ」
なんとなく事態は飲み込めた。ゆめとそれっぽい話は昼にした。
ただ、まぁこれはあたしたちの中でよくあることなんだけどあたしがゆめにする話をゆめは美咲に隠したりもすれば、都合のいい所だけを言ったりするし、美咲は美咲でそれを自分の解釈をする。
まぁそれはそれであたしたちなりのコミュニケーションで楽しいといえば楽しいが。
「そお? 彩音ならこういうことしたいんじゃないかと思って」
あたしは何故か二人に変なイメージを持たれてておかしなことにもなる。
「あのねぇ……」
と呆れたいところだけど、今回の件については。
「…………」
心当たりがないわけではなくてつい口を噤んだ。
「……で、ゆめが言ってたのほんとはなんだったの?」
美咲はそれを察したのか、目を細め問い詰めてくる。
「あー、いや。大したことじゃないんだけどさ。アニメで幼児化しちゃうってのを見てたから、小さい頃の美咲可愛かったなーとか、アニメみたいに幼女になった美咲にお姉ちゃんって甘えられなかったなとかゆめと話しただけ」
「……………」
あ、美咲が呆れた顔してる。
これは多分予想よりひどかった時の反応だ。
「だって、小さい頃の美咲めっちゃ可愛かったじゃん。そんな美咲にお姉ちゃんって甘えられたいって思うのはおかしくないでしょ? ね?」
「……………」
「別に無垢だった時に美咲にいけないことを教えたいとかそういうんじゃなくて、ただちっちゃい美咲にお姉ちゃんって呼んでもらいたいっていう純粋な気持ちだって」
語るに落ちるというやつなんだろう。美咲が何も言ってくれないのが気まずくて…余計なことばかりが口を突いた。
「はぁ……」
「う……」
「今の私は?」
「へ?」
「今の私は可愛くないの?」
「え、…あっ。め、めっちゃ可愛いし、今の美咲が一番だって」
「軽薄な言葉ねー」
「う……」
そこまで怒ってるわけじゃないけど、怒ってはいる。こういう時は……
「……ん」
美咲の方から答えをくれた。
目を閉じて唇を上向ける。俗にいうキス待ちといった感じだ。
「はい…」
優しく肩を抱いて、唇を合わせる。
「っはぁ。…言っとくけど、今のあたしにとって一番かわいくて大好きなのは今の美咲に決まってるからね」
ほとんど顔を離さず偽りのない気持ちを伝える。
「ふぅ、ま、ひとまずそれで許してあげるわ」
美咲も満更ではない顔をしてくれ。
「……んっ」
再び、私たちは一つになった。