「はるかさん、抱っこしてください」

 久しぶりの放課後の保健室デート。

 保険の先生は職員会議に行っちゃって、二人きりになった途端先輩は耳を疑うようなことを言ってきた。

「え、えーと」

 抱っこって言われたような? でも、聞き間違いだよね。さすがにそんなのはおかしいし。でも、何を聞き間違えたんだろ。

「はるかさーん。だっこですよ、抱っこー」

 聞き間違い。聞き間違い。

 ベッドに座ってた先輩が両手をこっちに向けたりしてるけど聞き間違いのはず。

「もーはるかさんってば、聞いてますー?」

「っ!?」

 せ、先輩が顔を覗き込んでくる。たまに先輩はこんなことしてくるから困るけど、今はそれよりも。

「な、なんで抱っこなんですか」

 これのほうが問題。

 先輩が変なことを要求してくるのは珍しいことじゃないけど、これはさすがにあり得ない。

「昨日ゲームしてたら、してほしくなっちゃって」

「っーー」

 ま、またそういう理由!? 

 先輩がそういう人なのは今更だけど、そんな理由なのと一体どんなゲームなのって気になったり呆れたり。

「あ、ちなみに何を勘違いしてたかは知りませんけど、はるかさんが考えてるような幼児プレイ的なやつではないですよ」

「っ!! そ、そんな考えてません」

 正確に意味はわからないけど、なんとなくはわかる。だから、先輩の思惑通りに顔を赤くなんかもしちゃったりするけど、頭の冷静な部分がもしかしたらって考える。

 と、それはどうやら予想通りだったみたいで。

「お姫様だっこ、です♪」

 先輩は満面の笑顔でそう言ってきた。

「な、何言ってるんですか、こんな、学校で」

 学校でとかは関係ないけど、ついそんなことを口走って

「あれ? 学校じゃなければいいんですか? なら、今すぐ私の部屋行きましょうか?」

 わざわざ逃げ道をつぶされちゃう。

「ぅ………」

 私は早くもあきらめムード。

 だって、こういう時の先輩って容赦ないもん。何か言っても必ず反論されちゃうし、私は口げんかをして勝ったことがない。

「わ、わかりましたよぉ……」

 なら言うとおりにするのが一番早いっていうのはもうそれなりに長くなった付き合いでわかるから私はそうやって言うと、わーいと大げさに喜ぶ先輩の背中と膝の裏に腕を回して、

「んしょ………」

 先輩の体を抱きかかえた。

 同年代と比べての小さな先輩の体は私でも持ち上げられることはられるけど、やっぱり結構きつい。

 それに

「そ、そんなに見ないでくださいよ」

 先輩が嬉しそうにこっちを見てくるから恥ずかしくなっちゃう。

「だって、嬉しいですもん。ふふっ。やっぱり一度はされてみたいものですからね、お姫様だっこって」

 それは……ちょっとわかるかも。

 私だって女の子だもん。正直言って、されてみたいって思うこともある。

 ……でも、それは先輩には期待できないかも。想像すると笑っちゃうというか、ほとんど想像すらできない。

「それと……」

「え?」

 そろそろつらくなってきたなって思ってた私の首に急に先輩が腕が巻き付いてきたかと思うと体を起こして

 ちゅ。

 キス、された。

「これも、憧れですよねー」

 にんまりと幸せそうに笑う先輩。

(っ……せ、先輩って)

 先輩って………

 やっぱり可愛すぎ!

 

 と、今日も私たちはラブラブで幸せだった。

 

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