パチパチパチ
風流を感じさせる音。
パチパチパチ
聞いているだけで不思議と心にほんのりと暖かなものが宿るような音。
「ふふふ、綺麗ですね」
そんな線香花火を手にもち、私たちはしゃがみこんでいた。
「……はい」
パチパチとまるで光の花みたいに火花を散らせるそれは確かに綺麗だし、日本人だなぁっていう感慨も沸き起こってきたりする。
だけど……ちょっとだけ物足りない。
「んー、えい!」
「あっ!?」
私が少し不満そうに花火の火を見つめていたら先輩がいきなり妙なことをしてきた。
「えへへ、私のとはるかさんのがキスしちゃいましたね」
「へ、へんな言い方をしないでくださいよ」
くっついたせんこう花火は一回り大きな火の玉となりさっきよりも大きな火花を散らす。
夏の夜。
どこからか聞こえてくる虫の声。
それに線香花火。
なにより好きな人との時間。
嬉しいは嬉しい……
ただ……
「ん? どうかしたんですか? はるかさん」
「い、いえ! 何でも」
さっきから花火よりもちらちらと先輩を見ていた視線を先輩に気づかれる。
「そうですか? ふふ、ちっちゃいのもよかったですけど、こうして大きなのも良いですよね」
「は、はい」
花火に視線を戻す先輩とは異なり私は一瞬花火に目を移したけどすぐに先輩を見つめなおす。
(先輩なら……言ってきてくれてもいいのに)
花火よりもはるかさんの方が綺麗ですよ。
って。
月並みすぎるし、なんだかよく考えると花火と人間って全然比べる対象でもないような気もするけど……
(女の子としてはやっぱり言われてみたいの!)
なのに先輩ってば。たまに、ゲームとかのよくわからない例えを言ってきたりしてくるのに。こんなムードだってある夜には何も言ってくれないなんて。
先輩ってば常識ないんだから。
……常識の問題じゃないような気はするけど、とにかく……もぅ〜〜
不機嫌なわけじゃないけど、不満は確実に溜まっていっていて……
「ふふふ、でも花火っていいですよね。やっぱり綺麗なものを見るっていうのは気分いいですし」
「………別に」
「? はるかさん?」
「……花火なんかよりも先輩のほうが綺麗です」
「はへ!?」
って!!! あれ!!!!??
あれ? い、今わ、私、え?
(な、なななななな、んであんなこと)
微妙に不満を抱えていた私は気づかぬうちにとんでもなく恥ずかしいことを口にしてた。
大体言いたかったんじゃなくて言われたかったのに……ってそうじゃくて!!
うう……なんか先輩が私よりも花火ばっかりに気を取られていたせいで変なことを口走っちゃってた。
あぁぁぁ、ど、どうしよう。恥ずかしすぎ。しかも、なんだかいじけたようになんて、さっき自分で花火と人間は比べる対象じゃないなんて思ったのに、花火に嫉妬でもしちゃったっていうの!?
そりゃあ目の前にいるのに先輩が私のこと見てくれなかったらやだけどでも……
「はーるかさん!」
「ひゃん!?」
急に背後から感じた人肌のぬくもり。確かめるまでもなく先輩に抱きしめられているみたい。
「ふふふ〜。はるかさんってば、ほんとにもう……たまりません!!」
「な、なんだって言うんですか!!??」
「いえいえ、でーも、はるかさんの方だって綺麗ですよ。花火なんかよりも、世界中のどの宝石よりも、どんな美しい景色よりも、はるかさんが世界で一番綺麗です」
「も、もう〜な、何言ってるんですかぁ〜」
うぅぅ、言ってもらいたかったのにいざ言われると恥ずかしい。
でも……
(やっぱり嬉しい)
好きな人に綺麗って言ってもらえるのは女の子としては最高の幸せの一つだって思うもん。
「…………………あむ」
「ひゃああああ!!!??」
一人で幸せの中をたゆたっていた私の耳に暖かくて湿った感触。
「な、何するんですか!?」
「あ、いえ、我慢できなくなっちゃいまして」
「だ、だからっていきなりみみたぶ噛まないでください!!」
「うふふ、だって目の前にこんなおいしそうなものがあったら我慢できないじゃないですか。それじゃ、もう一口」
「あっ……ひゃん!!」
またパクっとされちゃった私は、やっぱり先輩は一筋縄じゃいかない人だって体に刻み込まれちゃうのだった。