ブクブクブクブク。
絵梨子は熱い湯船に体を沈め、手足を投げ出していた。
(か、完全に遊ばれてる……)
結局ときなに押し切られ、のこのことお風呂に来ている絵梨子は一通り髪や体を洗った後はほとんど口まで湯船に付けときなと自分のことを考えていた。
ときなと付き合ってもう一年半を超える。最初のうちは何事も自分がリードしなくてはと思っていたし、実際その通りだった気がするが、いつのまにか立場が逆転してしまうことが多くなってしまっている気がする。
それが悪いこととは思わないのだが、自分は教師でしかも年上で導く立場にあるということも事実で、それを考えると今の関係はあまり面白くないような気もしていた。
「でも……」
(ときなってたまに、すごく可愛くなったりもするのよね)
いつもはたまに生意気にすら感じるときもあるが、たまには年相応かそれ以上に初心なところも見せてくれて、そういうギャップがまたたまらないと絵梨子は考えている。
ただ、最近ではそういうことも少なくなって来てしまったのは寂しい限りだ。
(そういえば……)
そんな中ふと、夕方のことを思い出す。
「……………奥さん、か」
ただ投げ出しているだけだった体を浴槽の縁に腕と顔を乗せ、絵梨子は何かを考え込む。
「………あと、半年」
それはタイムリミット。ときなと毎日一緒にいられる時間の終わりまでの期間。
二人の関係がそこでおわりなんて思ってはいないけど、それを寂しく思ってしまうのはどうしようもないことの上、別れを経験している絵梨子にとって、不安がなくなるわけもなかった。
今こうしていることも、想い出作りの一環ではあるが、ただ漠然と二人の楽しいや、嬉しいだけじゃなく、何かを必要な気がしていた。
二人を繋ぐ決定的な、何かが。
「……………」
それは絵梨子の中で小さな形を作っている。でも、まだそれは未完成。はっきりとした形もなく、絵梨子自身どんなものにするかを決めかねている状態でもあった。
(……今はまだ、いいわよね)
いつか近いうちにそれを形にしてときなへと届けなくてはいけない。でも、今はまだ目の前にいるときなとの時間を大切にしよう。
それが二人の未来へとつながると信じているから。
そう思い絵梨子はときなが待つ場所へと戻っていくのだった。
(あ、パジャマ着ちゃってる)
部屋に戻ってきた絵梨子はベッドにいるときなを見てそんなことを思ってしまった。
「そんなに残念ですか、パジャマ着てるの」
「へ!?」
開口一番に心を見透かされてしまった絵梨子はお風呂の中で少しは持ち直していた気持ちをいきなり揺らされる。
「そ、そんなこと思ってないわよ」
「ふーん。でも、見るからに残念そうな顔してましたけど?」
「そ、そんなことないってば」
湿った髪を乾かしてしまうんじゃというほどに絵梨子はかぁっと熱くなって、ときながいるベッドへと向かった。
(し、しっかりしないと。私だっていつまでも、ときなに流されっぱなしじゃないんだから)
「んっ……」
「え!?」
お風呂で思った決意をもう一度固めながらベッドへと座った絵梨子だったが、ときながしてきた予想外のことにまたその気持ちを揺らされてしまう。
ときなは絵梨子の髪を取ってそれを自分の鼻先に持ってきた。
「な、何してるの?」
「いえ、お風呂あがりの先生はいい匂いだなと思いまして」
「そ、それならときなだって同じシャンプー使ってるでしょ」
「シャンプーの匂いが好きなんじゃなくて、先生の香りが好きなんですよ。私は」
「…………」
ずるいと思った。
年上としてしっかりしようと思ってもときなはすぐにそんなの打ち砕いてしまう。
でも、そんなときなはとても楽しそうで生き生きとしていた。普段、学校でいるときのすまし顔じゃなく、絵梨子にだけ見せてくれる本当の姿。
自分がときなの特別なんだって、思える瞬間。
それが嬉しくて、またときなを好きになってしまう絵梨子は
「ときな」
油断しているときなに口付けをして、
二人の愛を確かめ合うのだった。
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