「みきちゃーん」
「どーしたのゆかちゃん?」
「あのね。みきちゃんて、ちゅーしたことある?」
「ちゅ、ちゅう!? な、ないよぉそんなの」
「みきちゃんも? わたしもね、ないの」
「え、えと、ちゅーがどうかしたの?」
「このまえね、ママとパパがしてたの。どうしてちゅーするのって聞いたら、ゆかが大きくなればわかるっておしえてくれないの」
「ふ〜ん? 私もわかんないなぁ」
「うん。だ・か・ら」
「?」
「ちゅ〜、してみよ?」
「え? えぇっ!?」
「うん、ちゅー」
「で、でも、そういうのって好きな人とするんじゃ……」
「みきちゃんってわたしのこと好きじゃないの?」
「す、好きだけど……でも」
「わーい。ん〜」
ちゅ。
「!! な、何するの!?」
「え? だってみきちゃん、わたしのこと好きっていってくれたよ?」
「で、でもやだって言おうとしたの」
「えー、じゃあ、やっぱりわたしのこときらいなんだ……」
「そ、そんなことないよ! 好き、大好きだよぉ」
「わーい。じゃ、あこんどはみきちゃんからして?」
「えぇ!?」
「うぅ、やっぱりわたしのこと……」
「す、好きだってばぁ、も、もぉ、今日だけだからね」
「わーひ」
「…………」
「はやくー」
「うぅ……」
ちゅ、ぱ
「こ、これでいいよね?」
「だーめ、ちゃんとお口にしてっ」
「だ、だってゆかちゃんもほっぺだったのに……」
「いいから、だめなの」
「わ、わかったわよぉ……」
ちゅ……
「!!!?」
ニュル
「あー、みきちゃんにげちゃだめ。やっぱりみきちゃんて……」
「ゆ、ゆかちゃんのことは大好きだけど……こ、こんなの変だよぉ……ベロで舐めるなんて……」
「やだ?」
「やだとかじゃなくて、お、おかしいもん。こんなの」
「でも、こういうちゅ〜もあるんだって」
「そ、そうなの? む〜、やっぱりちゅーなんてわからんないよー」
「そぉ?」
「? ゆかちゃんはわかったの?」
「う〜ん、と……さぁ? ねぇ、みきちゃん」
「な、なに?」
「また、しよーね!」
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「おっはよ〜、美貴」
「おはよう。めずらしいわね、結花が先に来てるなんて」
いつも遅刻しそうになるまで私のこと待たすくせに。
「そんなことより、ね、ねっ」
月曜日の朝だっていうのに結花はやけにハイテンション。
「どう? どお?」
「どうって………?」
なんか、胸を張って体を強調しようとしてるみたいだけど……なにかあるようには見えない。
「ごめん、わかんない」
「もぉ〜、ブラジャー着けてきたんだよ!」
結花はそういってふくれっつらになるけど……
「……そんなのわかるわけないでしょ! 大体その胸のどこに必要なのよ!」
朝っぱらからこんなくだらないことに頭を使ってしまった自分が情けない。
「っ! な、なによ美貴だって大差ないじゃない。どうせ美貴なんてブラしたこともないんでしょ!?」
「……っ! そ、そんなのどうだっていいじゃない!……まったく結花はいつもそうやって……」
「むー……」
「うー……」
そして、私たちは遅刻に気づくまでくだらない言い争いをするのだった。
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「はぁー、遅れる〜」
私はため息をつきながら小走りに結花との待ち合わせ場所に急いでいた。
(私が寝坊するなんて……)
確かに昨日は遅く寝たし、朝は朝でずれてないかとか気にしちゃって結花より遅れるなんて屈辱。
「結花、おまたせー」
ランドセルを揺らしながら走っていくとやっと結花のところについた。
「おはよ〜、美貴。ん……?」
「お、おはよう……」
ハァハァと息を整えている私は、結花が私の胸をじぃっと見つめていることに気づいていない。
「ね、美貴ちょっと顔上げて」
「え、なに?」
思考のうまく出来ない私は言われるままに顔を上げると……
グイ
と、服を引っ張られて中を覗き込まれた。
「きゃぁぁぁあああっぁあ!!」
いきなりのことにパニックになった私は張り裂けるような金切り声を上げて結花を突き飛ばした。
「な、なにするのよっ!!」
「あいたたた、美貴の胸がいつものと違う気がしたから、もしかして〜? って思ったんだけど……えへ♪ やっぱりブラジャー着けてきたんだね」
「く、口で聞いてよ」
「でも、それサイズちょっとあってなくない?」
「!!??」
私は胸を見られて赤くなった顔が収まることがないままさらに羞恥に頬を染めた。
(パッと見でわかっちゃうなんて…)
結花の言ってるのは正しい。合ってないなんて自分でも嫌というほどわかってる。
この前結花がブラつけ始めたのを聞いて、対抗心とかいうか、劣等感というか、取り残されるような気がしてしまって誰にも内緒で買いにいってみたけど種類もいっぱいあるし店員さんに聞くのもなんだか恥ずかしくて適当に、無難な色に、サイズなんてこのくらいかな? と思うのを買ったはいいけど……
「もしかして、今日遅れたのって昨日の夜に似合うかな〜とかやってたから?」
「……私の部屋にカメラでも仕掛けてないでしょうね」
あまりに的中していて苦し紛れにいったけど、まさにその通り。
寝る前に、鏡の前でドキドキしながら着けてたら、似合うかなとか、結花が気づくかなとか、つけてみたらどう考えてもサイズが合ってないな……とか思っちゃって全然眠れなかった。
「やっぱりあたり? 私も初めてつけたときは美貴にどう見られちゃうかな〜とか考えてたら一睡もできなかったもん。ね、こんど一緒に買いにいこっ。かわい〜色でお揃いの。ねっ」
満面の笑みをする結花に、なんとなくこれからもこんな風に振り回されるような予感を感じながらも私は
「うん」
と無邪気に頷いた。