「ねぇ、彩音ぇ……お願い」
熱っぽく潤んだ瞳。
「彩音が、私のこと、だぁい好きっていう証いっぱい欲しいの」
魅惑的な唇からつむがれる愛のこもった言葉。
「だから……して」
まるで今していることの不安を表すかのようにあたしのパジャマを小さく掴んでおねだりする美咲はまるで別人に見えた。
(美咲……)
「……ってわけ、なんだけど……」
夜、ゆめも帰って、夕飯も食べて、お風呂も入って、明日の用意もして、いつもなら後は寝るだけっていうとき。
「……ふーん」
あたしはベッドの上で美咲に尋問されていた。
壁を背にしてあぐらをかくあたしを美咲は容赦のない目つきで迫ってくる。
「だ、だからさぁ、あたしにやましいことなんてないわけ」
「そうかしら?」
「な、何がよ」
「仮に、そのゆめを襲ったのは彩音の言ったとおりだったとしてもそもそもどうしてゆめのこと酔っ払わせようとしたのよ」
「だ、だからそれは、酔っ払ったゆめが面白いから、美咲にも見せてあげようかな~って……」
「ふ~ん」
あたしの嘘は言ってないはずなのに美咲はいまいち信じてくれてないというか、その漆黒の瞳を細めて疑いを強めてきた。
あー、もう。なんでこんなしつこく疑ってくんのよー。嘘いってないじゃん。
美咲はあたしの横に手をつくとさらに体を近づけて、顔なんてもう目の前に持ってきた。
「な、なによ」
なんどもこんな風に間近で見つめられたことはあるけど、特にこういうときには胸の鼓動が止まらなくなる。
なんつか、雰囲気がね。
「本当はゆめのこと誘ってたんじゃないの?」
「っ!?」
あたしの頬をくすぐるその声にあたしは図星をつかれたわけじゃないのに心を震わせた。
「ん、んなわけないじゃん!」
「そうやってムキになるところが怪しいのよね」
「なによ、あたしのこと信じられないわけ?」
そんなわけないとわかってはいてもわざわざあたしはそんな言い方をした。
「……そういうこというのずるいわよ」
美咲は少しいじけたような様子を見せるとあたしから体を引いてベッドからも降りた。
「ま、今日は彩音の言うこと信じてあげるわよ」
背中でそういうとベッドから離れてあたしの机の前に歩を進めた。
そして、あるものを見つめる。
「…………ね、これもらってもいい?」
なぜか少し考えたあと、昼間ゆめに無理やり食べさせようとしたチョコレートを一つとって問いかけてくる。
「ん、ま、いいよ。もうゆめ食べてくれないだろうし」
「じゃ、もらうわね」
あたしが答えると美咲は手に持っていたひとかけらを口に含む。
「ん、あむ……ふぅん。ゆめはまずいとか言ってたけど、結構おいしいじゃない」
「ま、ゆめって、見た目どおり味覚もお子様だからね」
「もう一つもらうわね」
美咲は気に入ったのか、一つ、また一つとどんどんチョコを食べていく。最初は気にもしてなかったけど、どんどん美咲が食べていくのを見ると、ちょっと気にもなってくる。
「ちょっと、あたしの分も残してよね」
高かったんだから、ゆめにあげるつもりだったからゆめが食べるのならともかく美咲に全部食べられちゃったらあたしは損するだけになっちゃうじゃん。
「…………」
美咲は動きは止めたけどなぜか何にも言ってこないでなんだかいつもとは違う雰囲気の背中を見せてくる。
「? 美咲?」
あたしが不思議に思って声をかけてみると
「……ふぇ、ごめんなさい~」
「っは!?」
おおよそ美咲からは想像できない言葉が飛んできた。
「だって、おいしかったんだもん~」
「あん?」
「……ひっく」
「?」
美咲の様子に戸惑っていると美咲が不安になるようなしゃっくりをする。
「ちゃんと謝るからぁ」
やけにおおげさにふらふらしながらあたしがいるベッドに戻ってくる。
(へ、ま、まさか……?)
いや、でも……えっと……え?
なんだかあのときのゆめにそっくりなような……?
え、でも美咲、って。
いや、でも目がとろんってなってるような……でも、ただ潤んでいるだけな気もするし。でも、ほっぺは赤くなってて……その、あのときのゆめ、みたく酔っ払ってる、ような……
「ごめんなさぃ~、だから私のこと嫌いにならないでぇ」
まるで子供みたいに美咲は甘えた声を出してベッドにあがってくると、さっきとはぜんぜん違う雰囲気でさっきと同じようにベッドに手をついてあたしに懇願してきた。
「ちょ、な、なんでんな話になんの」
「だってぇ……私って、いつも彩音のこと困らせてるから、ほんとは彩音私のこと嫌いなんじゃないかなって」
え? え? 酔っ払ってんの? ゆめと同じでこんなお菓子程度で酔っ払っちゃってんの?? だ、だってそうでもなきゃあの美咲がこんなことするわけ……
潤む瞳に、熱のこもった甘い吐息、それにこの言動。
見た目だけを見ればそう見えるんだけど……
「……どうして何にも言ってくれないの? やっぱり、彩音、ほんとは私のこと……ヒク」
あたしが美咲の異変にどう対処すれば迷ってる間に、美咲はその間を肯定と受け取ってしまったのかさっきから不安そうだった顔をさらにゆがめて泣きそうにすらなった。
「き、嫌いなわけないじゃん、っていうか別に美咲に困らせられてだってないし」
「だって、アレのときとか」
「……アレ?」
「えっ……んむ」
不穏当なことを口走ろうとした美咲の口をあたしはあわててふさいだ。
「拍手のおまけでもないのに、んなこというなっつの!」
「……ぅー」
あたしの天の言葉に美咲はまるでゆめみたいにしゅんとなった。
「え、え~と、話を戻すと……その、あれは……そ、そりゃちょっと困らせられたりもするけど……でも、あたし、だ、って……その、美咲が好きで、……したい、って思う、からする、わけで」
あぁああ、あたし何言ってんのよぉ。こんな恥ずかしいこと言わされるなんて、なんか色々するよりもこっちのほうが恥ずかしいよ……。
「本当?」
「美咲に嘘つくわけないっしょ」
「……うれしい」
今まで不安そうだった美咲の顔に安堵の笑みが浮かんだ。大切な人から好きっていう言葉をもらえたっていう安心に体が勝手に反応したかのような嬉しそうな笑み。
「ねぇ、じゃあ私のこと好き?」
「好きだよ……大好き」
「……じゃあ、キスして」
「へ?」
突拍子もなく言われた台詞に素っ頓狂な声をあげてしまうあたし。
「彩音が私のこと、好きって証が欲しいの」
(…………………)
容赦なく自分が言って欲しいこと、して欲しいことを要求してくる美咲にあたしはどこか違和感を覚えた。
「ねぇ、彩音ぇ……お願い」
熱っぽく潤んだ瞳。
「彩音が、私のこと、だぁい好きっていう証いっぱい欲しいの」
魅惑的な唇からつむがれる愛のこもった言葉。
「だから……して」
まるで今していることの不安を表すかのようにあたしのパジャマを小さく掴んでおねだりする美咲はまるで別人に見えた。
(美咲……)
あたしは、あたしの中にあるある勘を働かせた。いや、たぶん勘というよりも美咲をわかっているあたしだからわかるものを感じたあたしは
「ん、ちゅ…あむ。ちゅ」
唇をあわせて、軽く舌先を触れ合わせるとすぐに唇を離した。
「はぁ、これでいい?」
「……もっと」
「だめ」
「……やっぱり、彩音って私のこと……」
「ふぅ、美咲、もうバレてるから」
「っ。……え? なんのことぉ?」
その一瞬肩を震わせたので確信できたから。
「そこまでした美咲に免じてキスはしてあげたけどさ、これ以上は付き合ってらんない」
「………………………」
美咲はさきほどとはうってかわって、冷静な表情になるか小さく「なんだ」と呟く。
「バレてたの」
「ちょっとあからさますぎ。つか、らしくないし」
「そ。あーあ、残念。たまには彩音にせめられてみたかったのに」
「そんな理由だったんかい……」
つまり、ゆめの話を聞いて真似してあたしをいいように操ろうとしたってわけね。
性質わるすぎ……。
「ふふ、ま、でも好きって言ってもらえたのと彩音からキスしてもらえたのでそれなりには満足ね。次からはもっとうまくやるわ」
そう言っていたずらっぽく笑う美咲にあたしはまた次があるのか……と疲れを感じると共に結局怒ることすらしなかった自分にあきれるのだった。
なにこれ?w なんというか、積極的な受けというか弱気責めな感じにしたかったんですけどただ変なだけ。まぁ、えーと美咲も酔っ払うなんて経験なかったからどうすればいいのか自分でもわからなかったということでw
彩音は美咲が演技してるってわかってたくせにキスするとか、なんともラブラブです。こうして二人でラブラブしてるとゆめが蚊帳の外に思えてきますけど。……まぁ、おまけだからいいやw ゆめはゆめでちゃんと彩音と色々してますからねw
時に、あっちを期待させてしまってたらもうしわけありませんw というか、わざとですけどw
一応以前のバレンタインの続きなので、一つ前のとリンクというか、バレンタインその後の美咲版ということなので最初は同じようにしました。
にしても、これは全然彩音×美咲じゃないですね……美咲としては一度くらい彩音に攻められてみたいと思っていると思うのでいつか書きたいとは思っています。