昼間私はゆめに飛んでもないことをしでかした。

 そのことをゆめは責めはしたけれど、許してくれもした。

 それはいい。

 いや、許してくれたからいいという問題ではないけれど。でも、ゆめとの関係は一応区切りはついた。

 問題なのはそこじゃない。

 今回の問題はそれじゃなくて、私自身の問題。

 この私が! 彩音と同じことをしたのよ! それがショックじゃなかったらなんだっていうの!? 

 はっきり言って私は彩音のそういうところを(私にはあまり手を出さないことも含めて)心よく思っていなかったのに、その私が彩音と同じく恋人の「そそる姿」に我慢できなくなって浅ましく手を出してしまったのよ。

 ゆめが私に対してどう思うか以前に自分で自分のことが信じれない。

「……はぁ」

 私は意外なほどにショックを受けていることに驚きながらベッドの上でため息をつく。

 ただし

「なんなの、さっきからため息ばっかついて」

 私のベッドではなく彩音のベッドの上で。

 ゆめはあの事を彩音に話すことはなく夜になり、さっさと寝入ってしまった。

 それは普段通りのことでゆめがどの程度あの事を気にしているのかわからないが、少なくても私は心を切り替えることも出来ずかといって一人でいるのも気が滅入って、ある意味私を落ち込ませる原因のベッドへともぐりこんでいた。

 ベッドは大きいから特に窮屈な思いをすることもなく、また彩音の必要以上に私を気にすることもしないでいてくれたが、流石にこうしてため息ばかりをついてると気になるらしい。

「なんか悩みなら聞くよ?」

 その優しい響きに、複雑で生暖かな視線を送る。

「……別に、悩んでるんじゃなくて落ち込んでるだけ」

「ゆめとなんかあったん?」

「っ。なんでそう思うのよ」

 一瞬、ばれたのかと心がひゅっと縮みあがった。

「だって、ゆめなんか変だったし、あんたはそんなだし」

「変、だった? ゆめ」

「え? 変でしょ。なんか妙にあたしに近づいてこないし、美咲の方ばっか気にしてる感じだったし」

「…………」

 それは気づかなかった。いや、余裕がなかったというべきかもしれないけれど。彩音の話からすればゆめが気を使っていた、ということなのかもしれない。

 だとすれば

「………はぁー」

 私はその事実に再びおおきくため息をついた。

 何してるんだか。

 ゆめの方が被害者なのに気を使わせるなんて。

「また盛大に落ち込むねぇ」

「……うっさい。落ち込んでるってわかるなら、慰めようとか思えないの?」

 落ち込むに決まってるでしょうが。

 まぁ、でもとりあえずここにいてよかったとは思うわよ。少なくても一人でいるよりも言葉のやりとりをしている方が多少は心が楽にはなるから。

 情けない話それを求めてきたんだけれど……

「慰める、ねぇ」

 彩音の言葉がどこか邪に響くのを遅まきに感じながら、気配が傍まで寄ってきたこと気づくと、

「んっ……」

 いきなり唇を奪われる。それから軽く舌を触れ合わせてすぐに離した。

「こういうこと?」

 確かに恋人が落ち込み、ベッドまでやってきて慰めろと言われればそれは間違いではないかもしれない。

 ただそれは今の私には体以前に心が拒絶してしまう。

 だから私はもう一人の愛すべき彼女の顔を見つめながら

「………はぁ〜〜〜」

 と盛大なため息をついてしまう。

「え? なに? なに?」

「あんたがそんなだから私は………」

 言いたいことはあるけれど、それをいう資格は今の私にはなくて……もう一度、私の反応に困っている彩音のことを見つめると。

「………はぁ」

 困惑する彩音をさらに戸惑わせるため息をつき、無駄に彩音のことを困らせる夜を過ごすのだった。

 ……まぁ、それでも抱きしめてもらいながら寝入ったのはよかったけれど。  

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