秋も深まり私たち受験生にとっては大きな転機を迎える時期が来ていた。
それは言うまでもなく受験の事。
本格的に志望校を決めなければいけない時期で、自分と目標や理想と現実を見比べて時には妥協も考えなければいけないような時期。
幸いにして私は現状の力と当初の目的とで乖離はなく予定していたレベルの大学を志望できる。
勉学に関しては順調だと言っていいはずだけれど、私はそれに関係しているが別のことで落ち込んでいた。
「はぁ……」
そんな私は秋空の下、紅葉している木々を眺めながら寮の周りをうろついていた。特に何かすることがあるわけではなくて気分転換というか、気を散らせたかった。
何せ今は
(……せつなさん、怒ってたな……)
恋人とケンカ中なのだから。
きっかけは些細なこと。
大学の志望校を伝えたことだった。その大学とはせつなさんが今現在通っている大学で、それを電話で伝えた時の事。
同じ大学を受けると伝えた時、せつなさんはあからさまにというわけではないけれど多少嬉しそうな声をしていたのを覚えている。そのことが私も嬉しくて、最後にあの一言を言ってしまった。
「これでせつなさんとまた同じ学校ですね」
私はせつなさんがそれを喜んでくれると思っていた。いや、本当は喜んではくれているのだと思う。でも、以前からせつなさんはこうも言っていた。一緒の大学に通いたいからなんて理由で選ぶなと。
私が伝えた瞬間、せつなさんは叱責するように「それが理由じゃないわよね?」と聞いてきた。
今思えばせつなさんは私を心配してのことだったのだと思う。それを理由に私が選択肢を狭めたのではないかと。だから、あれはむしろ私を想っての言葉だったはずなのに、私はせつなさんが喜んでくれるものだと勝手に想像して、第一声がそれだったことに落胆し、恥ずかしいことに怒りも感じて、言ってはならないことを言った。
せつなさんは私と同じ大学に通いたくないのか、と。
それがいかにせつなさんの逆鱗に触れたかは言うまでもない。後は売り言葉に買い言葉。気づけば喧嘩に発展し、この数日、メールも電話もしていない。
「……はぁ」
私はため息をついた後空を見上げた。綺麗な秋晴れだけれど私の心までは照らしてはくれず先ほどからため息をついてばかり。
「…………本当にそんなつもりじゃなかったのに」
せつなさんと一緒の大学に行くということが動機の一つだったことは否定しない。けれど、それを第一に考えたりはしていない。
それは散々せつなさんから言われたことであるし、私自身もそれは正しいと考えていた。
ただ私は今のところ将来の姿というものをこれだという形が見えておらず、この大学でなければだめというものも見つからず、レベルを考えた結果せつなさんと同じ大学になったということ。
せつなさんだって私が本気で一緒にいることを目的で選んだとは思っていないだろうけど……タイミングと言えばいいのかとにかくめぐりあわせが悪かった。
ただ、悪いのはせつなさんのだろうけれど自分が間違ったとも思っていなくてごめんなさいの一言が出てこない。直接顔を合わせていれば別なのかもしれないけれど、仲直りできるとわかっていても謝罪の電話というのは難しいものがあった。
「はぁ」
そんなわけで私はため息をつきながらとぼとぼと寮へと向かって歩いている。
「え………?」
と、寮の入口近くで私は信じがたい人物を見かけた。
普通に考えればここにいるはずのない人。すでにこの寮にいることがおかしいといっていい人。
その人は私に気づくとおいでと手招きをしてくる。
(……え?)
私?
その人がここに来ること自体はおかしいことではあるけれど珍しいことではない、でも私に会いに来るという考えれなくて私は狼狽したままその人に近づいていく。
「こんにちは、水谷さん」
そこにいたのはせつなさんのお姉さん。
朝比奈 ときなさんその人だった。