「でね、絵里ちゃんたらひどいんだよ!」
練習後の帰り道。
宣言通りに私は穂乃果と寄り道中。
希から聞いてたおいしいパフェの喫茶店で、向かい合って座りながら穂乃果の話を聞いている。
「デートしてたのに私のこと三回も希って呼んだんだよ」
最初は穂乃果と絵里のことを聞くつもりなんてなかったし、穂乃果も多分そのつもりだったんだろうけど、気づけば絵里のことを話しだしていた。
「しかも、それに気づいてないんだよ。私がびっくりしてたのに、絵里ちゃんはなんで私がそんな顔するのかわからないって顔するんだもん。ひどいって思わない?」
「それは……さすがにひどいわね」
というよりも、残酷っていうべきなのかも。
好きな人が自分のことを他の名前で呼ぶっていうだけでも悲しいのに、それを無意識にされた日にはたまらない。
「ほんとうに、さ……絵里ちゃんは希ちゃんのことしか見てなかったってことなんだよね」
「…………」
途端に穂乃果の様子が変わる。
さっきまでは思春期の子供が親の悪口を言うような口調だったけれど、今は恋に破れたか弱い女の子の表情。
(……今まで、泣いてなかったのかもしれないわね)
そういうのに疎そうだし。
「あは……は」
話をしながらもパフェを取る手を止めてなかった穂乃果の動きが止まる。
「っ……ぁ……は……んっ」
私に隠れるようにうつむいて、けど頬から雫が落ちるのが見えちゃってる。
「……………」
私はそんな穂乃果に声は書けなくて、ただ向かい側から隣にうつって
「穂乃果」
妹をあやすように優しく頭を撫でた。
「にこ、ちゃん………」
涙に濡れた目でこっちを見る穂乃果。その瞳は何かを言いたげではあったけど
「なんも言わなくていいわよ。好きなだけそうしてなさい。誰にも言ったりなんかしないから」
今はただ黙って泣かせてあげたくて、私はそういうと再び穂乃果の頭を優しく撫でるのだった。