この日は結局学校をお休みすることになった。
昨日ほとんど眠れていないこともあって、冬海ちゃんが部屋を出ていくと私はいつの間にか眠ってしまっていて、起きたのはお昼前のこと。
「……………」
朝と同じくぼーっと靄のかかった頭で天井を見つめる。
「…………わかん、ない」
ポツリ、と呟く。
頭に浮かぶのは蘭先輩の事。
(あの人は一体なに?)
お人形さんみたいに綺麗で、みんなの憧れで……千秋さんの………?
(……何?)
千秋さんと……キスを、エッチなことをしていた。でも、見られたからって私にまであんなことするなんて普通じゃない。
普通の恋人ならあんなことは……
「っ………」
思い出すと顔が赤くなる。体が熱くなる。
「わ、かんない」
朝に話した時は最初、いい人なのかもって思った。昨日のことは本当にびっくりしたけど、それは自分のためじゃなくて他の人のためだったのかもって思えたから。
けど、次の瞬間には昨日みたいな目で、手つきで私の体を………
「んっ………」
体が、熱い。
蘭先輩が触れたところが。
……昨日のことと、今日のことを思い出すとその感覚がはっきりと蘇ってきた。
本当に嫌だった?
蘭先輩の声が耳に響く。
嫌。本当に嫌だった。怖かったの。
でも
「………ぁ」
胸が熱い。ううん、
(気持ち……)
「っ!!?」
気持ちいいって思った瞬間。
(わ、わたしってば何、考えてるの?)
抵抗、しないんだ。
再び、蘭先輩の声。聞こえないはずのその声がはっきりと耳に響く。
どうして、やめてくださいって言えなかったの?
気持ち良かったから、でしょう。
今度は本当に言われたことじゃない。でも……そういう声がはっきりと聞こえた気がする。
私と千秋に胸もあそこも弄られて気持ち良かったのよね。
違う。違います。
違う、のに。
「ふ…ぁ……」
手が、胸に触れていた。
「っ……ぁん」
鮮明に思い出してしまった体が疼いてる。駄目だってわかってるのに、いけないことなのに……手が、止まらない。
パジャマの上から胸を優しく揉みし抱く。
痺れるよう甘い感覚。知りたいと思っていたことじゃないけど、知ってしまった今は……
「ふぅ……んぁ」
ベッドに体を潜り込ませながらくぐもった声をもらす。
何やってるんだろうって、本当に思っているのに……昨日のことが、今朝のことが知らない気持ちを私に教えてくる。
「あふ…ぁ…ぁ」
手のひらで胸を包み込んで恐る恐る力を込める。
「んんっ……あ……くぅ、ん」
胸の先が熱くて指先を当てると背筋に昨日感じたような快感が走った。
「だめ、なのに……だめなのにぃ……」
理由のわからない涙が頬を伝って、それでも疼きに体を動かされて手の動きが止められない。
「…っ…ん…ぅ……ん?」
けれど、恥ずかしさのせいか、ただ慣れていないだけかはわからないけど、蘭先輩や千秋さんに触れられた時のような甘い官能は無くて、痛痒いようなもどかしさを感じちゃってる。
「っん、く」
疼きが羞恥心を超えて私は手をパジャマの下にいれるとブラの下に潜り込ませた。
「ふあ……固く、なって……ん」
自分の事とはいえ、肌の触れ合いがもたらす刺激に私の胸が正直に反応してる。
「あぁ…ん、ふぁ……っぁ」
声が止まらなくて、それに呼応するように手の動きが激しくなっていく。
「ぁ………」
そして、私の体に起こっているもう一つの変化に気づいちゃった。
(濡れ、て……)
「っ…………」
わ、私何してるの!?
ようやくそこで自分が何をしてたかに気づいちゃって私は手を服の下から出す。
「……ぅ…………は、ぁ」
濡れた瞳をぬぐって、濡れた吐息を吐きながら呼吸を整える。
(何? 何してたの? 私、何を……)
自分のしちゃったことが信じられない。そういうことがあるっていうことくらいは知ってた。でも、こんなのは初めてで……しちゃいけない、ことで……
(けど………)
けど?
けど、って何?
どうして逆接の言葉が続いちゃったの? 何を言おうとして……
(違う……違うわ。こんなの……違う)
私は、【そんなこと】を考えてなんか
コンコン
「っ!!!???」
思考の沼に捕らわれる私の耳にノックの音。
(だ、誰!?)
ものすごく驚いた。だ、だってさっきまで私は……
「鈴、起きてる?」
ドアの向こうから聞こえてきた声に更なる驚き。
「っ!!?」
なぜなら、返答の待たずに部屋に入ってきたのは一番どんな顔をして会えばいいのかわからない人。
一番会いたいとも、会いたくないとも思っていた千秋さんだったのだから。