寮のお風呂は人数に対してからすると広い。

 ホテルや銭湯みたいに色んなお風呂があるわけじゃないけど、数十人が入れるスペースは優にある。

 浴槽の端から端ならその人が何をしているか、わからないっていうくらいの広さはある。

 そう、例えば

「っ、や、めて……千秋、さん」

「……声、抑えないとダメだよ鈴」

 人に見られていたらとてもできないようなことをしていても、気づかれないのかもしれない。

 

 

 こんなことになったのはほんの数分前の話。

 ほんの少し前までは日々の疲れを癒すために何も考えずにお風呂に体を預けていた。

 ここ最近、心の疲労はもちろんだけど、体の疲労も相当なものだった。

 蘭先輩とするときや、昨日の瑞奈先輩に呼ばれた時もそうだけど、冬海ちゃんにばれない様に冬海ちゃんが寝てから部屋を出ていって、朝も起きる前にはベッドに戻る生活。

 ほとんど眠れずに一日を過ごすことだってあった。

 そんなわけで疲れを感じながら体を漂わせていると、不意に千秋さんから声をかけられた。

「……昨日の夜、何してたの?」

「え?」

 最初は、そんな問いかけ。

 昨日の夜。

 瑞奈先輩に呼ばれて蘭先輩の部屋に行ってた。

「えと………」

 それを正直には答えられない。それは単純に瑞奈先輩と関係を持ったっていうことを知られたくないっていうのもあるけど、それ以上に昨日は……予想外の人がその場所にいたから。

「……答え聞かなくても言ってるけどね」

「っ!!」

「お姉さまのところにいたんだよね」

 【お姉さま】。それを千秋さんが口にすることはこれまでほとんどなかった。というよりも、そういう場で以外じゃ初めて聞いたかもしれない。

「昨日、お姉様と会うはずだったんだ」

「っ!!」

「久しぶりに二人きりでしてもらえるって約束してたのにさ」

 千秋さんは淡々と話しているように聞こえた。クラスで雑談を交わしているような軽やかな口調。

「そういう約束しても断れることは初めてじゃないから、悲しかったけど仕方ないかなってあの部屋で一人で過ごしてたんだ」

 その普通みたいな言い方が逆に怖くて……

「そのまま寝ちゃって、気づいた時は明け方になっててさ、何となくお姉さまの部屋に行ってみようかって思ったんだ。別に会えるって思ったわけじゃないよ。本当にただ何となくだっただけ」

「……………っ」

 無意識に、千秋さんから距離を取ろうとして腕を取られた。

「びっくりしたよ。まさかお姉さまの部屋から鈴が出てくるとは思わなかったからさ」

「あ、の……」

「しかもさ、三人でしてたんだよね? 瑞奈さんとお姉さまの三人でさ」

「それは……」

 私が望んだことじゃないなんて言っても聞いてもらえるわけがない。

「驚いたよ。鈴がそんな人だったなんて。初めて会った時には全然思わなかった」

 怖い。声は明るいのに、悪意と敵意に満ちていて私を竦ませるには十分すぎた。

「鈴はさ、誰でもいいんだね」

「ちがっ……」

 う! って続けようとする前に

「っ!!!?」

 千秋さんに唇を奪われていた。

 

 

 それをきっかけに千秋さんは私の体をまさぐってきた。

 湯船の下に手を隠してまずは胸を揉みし抱く。

「っ、や、めて……千秋、さん」

「……声、抑えないとダメだよ鈴。いくら人が少ないっていったって気づかれちゃうよ」

「っ………」

 確かに今お風呂の中に人は少ない。体を洗っている二人組と、ちょうど反対の端に一人いるだけ。少し話しているだけなら気づかれないかもしれないけど、何か特殊なことがあればすぐにばれちゃうだろう。

 けど

「んっ、あ……ぁ」

 千秋さんは容赦なく乳房に手を当て私に快感を与えてくる。

「っ、はぁ…あっ…ああ」

 ふくらみの外側から優しく絞る様に力を込め、早くも反応を示してきた乳首を指ではじき、摘まむ。

 あまり波が立たないよう緩慢に、でも的確に私の中の欲を刺激する。

「っち、あき、さん……だめ」

 どうしてこんなことをされるのかわからなくて私はか細い声をあげて千秋さんに訴えかける。

「……そんなこと言って、感じてるんでしょ」

「ちがっ!」

 乳首を弾かれた。

「本気で嫌なら大きな声を出せばいいのに、なんでそうしないの? 気持ちいいんでしょ?」

 違う。違うわ。

 本当に嫌なの。声が出せないのは気持ちいいからでも、千秋さんにされているからでもなくて、ばれるのが怖いだけ。

 千秋さんに迷惑がかかっちゃうのが嫌なだけ。

「ほんと、いやらしい子なんだね。鈴は」

「っ……」

 蘭先輩のものになったときに同じことを言われた。けれど、本物の千秋さんに言われるは全然違くて、背筋にピリッと電気が走る。

「ほら、はっきりしなよ。こうされるのがいいんだろう?」

 千秋さんの手が私の胸を責めるたびに体が揺れて暖かなお湯が体に当たる。

 その熱とはちがう熱さが体の内から広がっていって肌が染まっていく。

「だ、だめ……お願い、千秋さん……こんな、の……」

 体は反応しちゃってる。でも、こんなの認めていいはずはなくて私は拒絶の言葉を吐く。

「強情なんだね。なら、こっちもしたほうがいいのかな?」

 そういって千秋さんは指を下に滑らせていって……

「だ、っ……」

 めと、続ける前に

「……ふーん」

 千秋さんが呆れたように声を出した。

「感じてないって言ってたくせにね。これは、どういうことなのかな?」

「っ……」

「お湯はこんなにぬるぬるしてないと思うけど?」

 挑発的な言葉に私は顔を真っ赤にして千秋さんの視線から逃れた。

 こうなるともう言葉だけの抵抗なんて無意味になる。

「あむ……」

 体を寄せた千秋さんに耳たぶを優しく噛まれ、

 じゅぷ。

 指を私の中に突き入れられた。

「あ、っぁ、……んっ……はぁあ」

 千秋さんの指が往復するたびに、暖かなお湯が中に入ってきて撹拌される。今までにない未知の感覚に頭がびりびりとしびれる。

「鈴はこうされるのが好きなんだよね」

 一本だった指を二本に増やして千秋さんは私の膣壁を掻くともう本能を抑えきれない。

 動かしやすいようにわずかに足を広げて、千秋さんを受け入れる。

「ぁん、っ…ぁっぁ…っふあ!」

「だから声抑えなって、ばれちゃってもいいの」

「っ……んっ……ぁあ」

 そんなのはわかってる。わかってても

 背中からまわされた手が胸を弄って、どんどんぬめりを増すアソコが官能の嵐を私にmもたらしてくる。

 気持ちいいってそう思っちゃう。

「ちあ、き、さん……んん!」

 ついさっきまでは否定的な意味で好きな人のことを呼んでいたのに、今は情欲を抑えきれずに呼んだ。

(もっと……)

 言葉にしないで瞳で訴える。

 もう、抵抗が少なくなってきている。いけないことだってわかってても、好きな人からもたらされる快楽にあらがえない。

「…………」

(っ!!? え……?)

 そんな千秋さんに侮蔑的な目をされた。

「ほんと、変態だね。鈴は」

 手を止めずに千秋さんは冷たく言い放つ。

「お姉さまのものだなんて言ってたくせに、ほんとは誰でもいいんだ。瑞奈さんでも、私でもさ」

「そんっ、違っ……ぅんっ!」

「嘘つき。こんなに乳首固くしてるくせに。指だって締め付けられていたいくらいだよ? それに……」

「ひゃん!」

「クリ、こんなにして」

 お風呂の中でさらけ出されたそれは、千秋さんの親指で刺激されるだけじゃなくてお湯の波にも微弱な快感の波を送ってくる。

 それがまた私の心を揺さぶっていく。

「……どうして、お姉さまは鈴のことを気にするの? 鈴は誰でもいいくせに、どうして私からお姉さまを取ろうとするの?」

「そんな、ことは……」

 してない。全然そんなことをしてないけど、蘭先輩が千秋さんよりも私のことを優先するのは事実な気がする。

 昨日の瑞奈さんのはどうしてか知らないけど、三人でする時も私のことを蘭先輩は私を見てることが多い気がする。

「鈴がどう思ってるかじゃないよ。……私にとって大事なのはお姉さまが私よりも鈴のことを優先するっていう事実だけだから」

 それは、そうなんだろう。

 私が何をどう思ったって、千秋さんには関係のない話。

「おかしな話だよねぇ。鈴はこんなにエッチでいやらしくて、お姉さまじゃなくてもいいくせに……お姉さまは鈴のことを気にするんだから」

(そんなこと……私に言わないで)

「今だってさ、そんなことどうでもいいからもっとしてって思ってるんでしょう?」

「っ………」

 違うけど、否定もできない。疼いてしまった体が、絶頂を求めている。

「図星なんだ」

 意外そうにしながらもその言葉には軽蔑の色が滲んでいる。

「っ………」

 私が抵抗できない理由、もっとって望んでいる理由。それは千秋さんが想像しているものとは全然別物だけれどそんなことを今さら言えるわけはなくて黙ったまま熱にうなされた瞳を向けるしかなかった。

 でも、私の見つめる千秋さんの瞳も潤んでいて

「………なんで、あんたみたいなのをお姉さまは……」

 多分悔し涙。

 私に蘭先輩を取られてしまったと思い込み、本気で哀しみを抱いている。

「………取らないでよ……私には、お姉さましかいないのに……お姉さまがいればそれでいいのに」

 両手を私からは引いて千秋さんは震えた声を出した。

「千秋……さん」

 どうすればいいのかわからなくて私は名前を呼ぶことくらいしかできなくて。

 でも、千秋さんは何も答えてはくれなくて、

 しばらくしてから

「………………………友だちになれるって思ってたのに」

 そう言って、そのまま私から離れて行った。

(千秋、さん……)

 残された私は火照ってしまった体と冷めた心を抱えながら、結局千秋さんを追うことすらできず……私には情欲の猛った体だけが残されるのだった。

 

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