薄暗いベッドの上。
「あ、っん……ふぁ、あ……」
部屋に響くのはくぐもった嬌声。
ベッドに横たわる絵梨子は上半身には何も身に着けていなく、下半身にもシンプルなショーツを穿いているのみ。
「ん……とき、なぁ……」
艶めいた声で恋人の名を呼ぶが、その相手は目の前にはいない。
自分以外は誰もいない部屋で胸に手を這わせはぁはぁと荒い息を漏らしている。
「ね、ぇ……ときな、もっと……ん、じらさないでよぉ…胸、もっとして………」
一見すれば自慰をしているようだが、声に出す言葉は具体的で妄想の中の恋人に話しかけているようには思えなかった。
「え……? んっ……そんな……さっきからずっとこっちばっかり……なんて」
肌を朱色に染めながら絵梨子はうっとりとした声でときなにさらなる愛撫を求めた。
この場にはいないときなに。
しかし
「んふふ、だーめ」
電話の向こうにいるときなに。
「そんなぁ、いじわるぅ……」
「ん、それよりも自分の事だけじゃなくてちゃんと私にもしなさいよ。っん……ぁ……次は、どうしたいの?」
「ぁ、それ、じゃ……指なめて」
「了解。うふふ、私がしてるところを想像しなさいね。んっ……あむ、チュ……ちゅぱ、っ、ぢっゆ……ゆぅぅ」
電話の向こうから耳元に響いてくる水音。
(ときなが指、舐めてる……)
電話の向こうと自分と同じように裸体をさらして、いやらしい音を立てながら指を舐めている。
(んっ……)
その想像に胸の奥がきゅっと切なくなった。
「んぅあ……あゅぁっ」
ときなに言われるままに字自らの胸に触れる絵梨子はときなの姿と声と、音に反応して動きを激しくする。
(……こっ……ち……も)
ずっとそうさせられ続け別のところに刺激が欲しくなった絵梨子は手を下へと下げて行こうとするが……
「ぁちゅ。……ん、だめよ、えりこ」
「っ!!?」
電話の向こうから聞こえた声にびくっと手を止めた。
「今、別のところしようとしてたんじゃない?」
「そ、そんなことは……」
「ダメって言ってるでしょ? お互いがするって場所以外しちゃダメって」
「そ、そうだけど……でも…ときながさっきから意地悪ばっかりするから」
「あ、そんなこというってことはやっぱり別のところしようとしてたんでしょう」
「ぅ……」
あっさりと誘導に乗り認めてしまう絵梨子。
これがこのエッチのルール。
電話越しに相手をどうしたいかを伝え、それを相手にさせる。
見られているわけではないのだから律儀に守る必要はないのかもしれないが、互いにそれを破ることはない。それは相手を裏切る行為になるから。
(……想像するのは楽しい、けど)
直接触れ合うのが一番うれしいことではあるが、制限はあるものの想像の中でするのも興奮を煽るものではあった。
目の前にいないからこそ好きな姿を想像できる。声と音だけだからこそ、姿を自由に頭の中で描くことができる。
それは新鮮なものではあったのだが、失念していたのは
(ときなが意地悪ってこと)
普段する時もそうだが、ときなは意地悪なのだ。言葉で煽るのも、焦らすのもいつものことでそれは姿が見えない今も変わらない。
「ほら、ちゃんと胸をしなさいよ」
「うぅ…ぁ」
電話の向こうから聞こえてくるときなの調子の乗った声。それに従い絵梨子は自らの胸を攻める。
「優しく揉みながら、そうね。次は手のひらで押してみて。それから乳首を摘まんでひねってみるの」
「う、うん……っふぁ…あ、ぁ……っふああ」
ときなの言うとおりに手を動かしていくと甘い痺れに自然と声が漏れ、体の火照りが増していく。
見られているわけじゃない。しかしときなの言うとおりにしているといつも以上にときなに見られているような気もして羞恥がます。
「んっ、は……ぁ、ふああ、ああ」
ときなからもたらされる刺激のすべてが心地よくその分
(……んっ)
切なげに絵梨子はうちももをすり合わせた。
「ね、ねぇ……ときな……」
体の中がさらなる刺激を要求している。勝手にしてはだめといういいつけは守っているもののさすがに限界が近づいてきていた。
「仕方ないわね。いいわよ、しても」
「…んっ……ときなも、一緒に」
「えぇ……もちろん」
ときなの許しを得、絵梨子は指をショーツにかけようとすると
「あ、そうそう。下着はつけたまましてみて?」
タイミングを見計らったようにここでもときなの意地悪がはじまる。
「え? いい、けど……なんで?」
「なんとなく、そっち方がやらしい感じがしない?」
実際に見えていないのにと思わないでもなかったが、ときなの言っていることはわからないでもなかった。
見えていないからこそ、限られた情報の中で自分の好きな姿を想像する。それが思いのほか興奮を煽ることをしっているから。
「わかった……じゃあ、ときなも、ね」
「ふふ、いいわよ」
ときなに言われたように絵梨子はショーツを穿いたままゴムを引っ張り手を差し入れる。
そこはすでに湿り気を帯びており、蒸れた熱を感じながら絵梨子はゆっくりと手を動かし刺激を与えていく。
「んっ……ふぅ……ぁ」
「あ、ん…ああ、んぅ」
互いのくぐもった喘ぎが電話から伝わる。いつもは自然と溢れてしまう声を今は意識してあげる。
音だけが二人を繋げる手段だから。
「ん、これ……いい、かも。ああ、っん」
ショーツをつけていることもあって多少窮屈には感じるが、圧迫感が普段と異なる刺激をもたらす。なにより、自分と同じように弄っているときなの姿を思い浮かべると背筋に快感の電流が走る。
(ときなが……んっ……こんな、風に)
自分の股間を見つめるとときなの姿が具体的に想像できる。
形の良い胸と、吸い付きたくなるようなお腹、つい手を伸ばしたくなるくびれ、張りのある腿に……手を入れることで伸びるショーツと染み出た愛液。
「あっああ、っんっ、ね……指、入れてもいい、でしょ?」
自分でしてることよりもときなを姿を想像することで絵梨子の興奮は高まりそれをふくらませることへの許可を求める。
「んっ……仕方ないわね。いいわよ…ふぁ」
(……あれ?)
ときなの返答を受けた絵梨子は半ば朦朧とした頭である疑問符を浮かべた。
目の前にときながいたらときなの雰囲気に惑わされて気づかなかったかもしれないが、声を聞いた声だけが情報源の今、あることに気づく。
「えりこ? どうか、したの?」
ときなの声がいつもより上ずっていて、さらに余裕がないことを。
「………………」
あえての沈黙。ときながどんな反応を見せるのかが気になって。
「ねぇ、どうしたのよ。絵梨子」
声にはさまざまな情報が乗る。ましてそれが最愛の恋人のものであればそこにある情報を正確に読み取れてしまう。
「……ときな。ちょっと手、離してみて?」
「え?」
「だから、ショーツから出してみてって言ってるの」
「な……んでよ」
「いいから言うとおりに。そういう約束でしょ?」
「…………っ」
(……やっぱり)
この反応で確信する。今絵梨子よりも先を求めているのはときなのほうだ。
「それでショーツの上からお豆、触ってみて? 私も一緒にするから」
「……っ……わかった、わよ」
「ふふ、いいこ」
宣言通りに絵梨子も自分の手をショーツに這わせ、その上からクリトリスを刺激する。
「んぁ……ぁっ…あん」
ときなの喘ぎは小さく、先ほどよりも艶はない。代わりに物足りなさを感じるような声が乗る。
「ね、ぇ……どう? ときな……?」
「どう、も……ない、わよ……ん」
ショーツの上、それも包皮に包まれた状態での刺激は得られる快感では先ほどよりも小さい。それが次を求める呼び水となって、格好の焦らしとなる。
「ほら、ゆっくりしてみて。ぎゅって推してみたり、撫でまわしてみたり」
「ふぁ、あ……っんん、あ」
「ね、こういうのもいいでしょ」
「いい、けど……んっ」
「けど、なぁに? 他にして欲しいならちゃんと言ってくれないとわからないわよ? んぁあ、っ、いい」
挑発の言葉を送った後にわざとらしい嬌声をあげときなを煽る。
「……っ……」
ときなは絵梨子が自分を焦らしているのがわかっているが、ここ最近の関係上絵梨子に「おねだり」をすることが憚れて言葉が続けられない。
「ふ……あ、っあ。きもちいぃ……」
「え、絵梨子……」
だが、ときなの我慢はすでに限界近くに達していた。本当は先ほどからもっと強い刺激を求めていたのだ。それが叶うどころか、焦らされるようなことをされては余計に抑えが利かない。
「……も、っとさせてよ……こんなんじゃ……だめ」
「もっと激しくして、気持ちよくなりたいんだ?」
「っ……そ、うよ……え、絵梨子だってそうでしょ」
「そうね、でもこんな風に我慢してるときなも珍しいから、その方が楽しいかしら?」
「わ、かったわよ……」
その声に絵梨子は性的な興奮とはまた別の興奮を頂点に達させていた。
羞恥に頬を染め上げながら絵梨子へとおねだりをするその顔がはっきりと浮かび、それがさらなる快感につながっていく。
「させて……こんなんじゃ、せつないの。絵梨子のことと一緒に気持ちよくなって……イキたい……だから」
「じゃあ、一緒にしましょ」
あえてときなの言葉を遮って許しを与えた。
「もう自由にしましょ。お互いがしてくれるのを想像しながら、一緒に、ね」
「………うん」
その言葉を皮切りに絵梨子もときなもショーツをずりさげると、完全に脱ぐのももどかしく足首にひっかけたまま中指と人差し指を膣口に突き入れ、親指で皮のめくれたクリトリスを弄る。
「ふああ、ぁんっ、いい、……絵梨子、きもち……いい」
「えぇ……ときな、わたしも……っはあぁっ……あ」
風船の中に空気が張りつめていくように体の中に絶頂へと導く快感がたまっていく。
「ね、胸……も……」
「え……ぇ」
肩で携帯を耳に押し付けながら空いた手で胸を握り締めるように揉む。
『っんあ、ぁあっぅああ、ふああ』
どう相手を気持ち良くするかということではなく、本能的に感じるやり方を求めそれが恋人の喘ぎとあいまり快感がたまる。
シーツが皺となり染みと増えていくのに比例して二人の限界も近づいていく。
「ふああ、ぁつあ、絵梨子……あ、えりこ……、わたし…………そろ、そろ……っはあ」
「いいわよ。わたしも、もう少し、だから……イッて、ときなのイク声聞かせて」
「ぁ、っああ、は、ずかしいこと……いわない、でよ……ふああ」
恥ずかしいという思いは確かに存在してもそれ以上に恋人との行為に興奮しときなは
「ぁあぅ、いく……くる……きちゃ、ぅ……イッ……っく………ぁああっふあああ!!」
絵梨子よりも先に達し、その声こそが絵梨子の快感を爆発させる最後の刺激となり
「ふぁあ、っああ、んぁあ、ときなぁぁん……っくぅ……イク……イクっ……イ、くぅ……うあぁあ」
絵梨子もときなにワンテンポ遅れて絶頂へと達した。
「あふ……はぁ、……あ……はぁ」
(きもち、よかった……)
声というスパイスがあったとはいえ、していること自体は自慰行為であったが直接肌を重ねたような多幸感があった。
(これ、いいかも……)
それに久しぶりにときなに対して優位に立てたことにも感じてはいけないお優奈充足感を得るが
「…………お、覚えてなさいよ」
ときなが悔しそうに言って通話を切ってしまったことに
(……今度会う時が楽しみかも)
その期待を感じずにいられなかった。