「はむ……はぐ、あむ」
……ゆめが嬉しそうにパフェをほおばっている。
「……ふふ」
隣を見ればすでにシフォンケーキを食べ終えた美咲が面白そうにゆめの食べっぷりを眺めている。
「……………」
対して私は……このお店で一番安いデザートのアイスクリームをさっさと平らげて、ゆめのことをなんとも言えない気持ちで見つめていた。
「ゆ、ゆめ〜、そろそろお腹いっぱいじゃないの?」
「……まだ、大丈夫。だから、おかわり」
「……りょーかい」
ゆめはすでに三杯目のパフェを食べ終えて、さらにはおかわりをよこせとおっしゃる。このままじゃこのお店のパフェの種類を全部いっちゃいそうな予感。
ってそもそも、奢るとは言ったって普通一杯だと当然思ってたけど、その旨をゆめに伝えてみると、
「……彩音。奢ってくれる、いった」
「いったけどさー、普通最初の一杯だけっしょ?」
「……うそつき」
「奢ったんだから嘘はついてないのですが……」
「……お金、ない」
「ぅえ? マジで?」
「……彩音に奢ってもらうつもりだった。だから、持ってきてない」
「はぁ……わかった。約束は約束なんだし奢るよ。お好きなだけどーぞ」
お好きなだけどーぞ。
どう考えてもコレがいけなかった。
ゆめが甘いもの大好きだなんて知ってたし、そもそも見た目に反してよく食べるのも知ってる。
でも……これはきつい。
お金はもちろんなんだけど、なんていうかクリームたっぷりのパフェをどんどん平らげていくさまは見てて、正直気持ち悪くなるというか、見てるだけなのに胸焼けでもしてきそう。
「おまたせいたしました」
と、店員さんが笑顔で苺のパフェを運んできた。
底のほうはクリームやらアイスで埋もれててどんなのかわからないけど、上はアイスのうえにたっぷりの生クリーム。それに苺ソースがかかって目に鮮やか。あとは、ポッキーと凍った苺のスライスがささっている。で、天辺にはちっちゃなサクランボ。
「そういえばさー」
ゆめが勇んでスプーンを握り締める前に刺さっているポッキーを奪ってほおばる。
「んー?」
すると美咲ももう一本残っていたポッキーを同じように食べてあたしの言葉に答える。
ちなみにゆめはあたしの言葉には耳をかさずに早くも食べ始める。
「サクランボの茎を口の中で結べるとキスが上手いっていったけどさー」
「言うわね」
「あれって、ちっちゃいころは何でかわかんなかったよね」
「ふっ、ま、そうね」
「………………?」
好物を食べているときにはあたしたちの話にすら反応しなくなるゆめがめずらしく手を止める。
「どったのゆめ? さすがに気分でも悪くなった?」
「……どうして?」
ゆめはキョトンとしたまま首をかしげた。
「なにが?」
「……どうして、キスがうまいの?」
「えっ……? ゆめ、それまじでいってんの?」
それとも冗談、いってるつもり?
反応に困って美咲に目配せしてみても、あたしと同じような顔をしている。ゆめはたまにわかりにくい冗談いうときはあるけど、そんときはすぐに冗談だっていうし、なによりゆめの顔が冗談いっているようには見えない。
「……教えて」
「えー、えーとそんなことより早くパフェ食べないと溶けちゃうぞ、っと」
「……いいから教えて」
なんでこんなに引き下がってくんのよー。
「……美咲はともかく、彩音が知ってることをわたしが知らないなんて、おかしい」
……なに、さりげなくとんでもないこと言ってくれるの。
「ま、まぁ、大人になればわかるよ」
そんなことをこんなところでいえるかっての。
じぃ。
ゆめが彩音はいいから教えてって。っていう目で美咲を見ている。
「……ゆめがもう少し大人になったら、ね」
美咲も当然いえなくてあたしと同じようなことでごまかす。
「……年はいっしょ」
「いや、そういう意味じゃなくて」
じぃぃ。
「ぅ……」
そんな目で見てこないでよ。子猫がえさ頂戴っていうような目で……
「あ、あとで、おしえたげる、から」
「……あとって、いつ?」
「え……ゆめが大人になったら、とか?」
なにこの堂々巡りは?
ぷーっとゆめが頬をサクランボみたいに紅く染めて怒る。かわいーって言うべきがおこちゃまというべきか。
妙な空気が漂った中あたしと美咲は困り顔で水を飲んだり、外を見つめたり。
「……もういい。今日は、彩音のお金がなくなるまで食べる、もん」
いじけた素振りを見せながら、しっかりとスプーンを握り締めてがつがつとパフェに食いついていく。
っていうか、今までは遠慮してるつもりだったんですかゆめさん……?
あっというまに、上部のクリームとアイスを平らげて、下にあるクリームとコーンフレークの層にまで達した。
もう四つ目だっていうのにペースはおちないどころかさっきの、キスの件のせいか上がってる気がする。
……変、変なんだよ。ゆめって、おかしなところでおかしなことしたりいったりするの。
高校生にもなってどうしてキスが上手ってことになるのかもわかんないとか、常識に欠けてるっていうか、そんなこと気づいたら知ってるもんなんだってば!
でも、ゆめってこういうときはしつこいっていうか、あきらめが悪いっていうかで、あたしたち以外に聞ける人間はいないはずだけど、親とかに聞いたりするのもそれはそれでおもしろ……まずいだろうし。
まぁ、ここじゃ無理だけどそのうち教えてあげようかね。
「……おかわり」
それまでにあたしが破産してなければねー。
妙な心配を抱きながらあたしは、すでにあたしたちへの怒りを忘れたような笑顔で好物を食べるゆめを見つめるのだった。
−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−
本編もですけど、おまけもまったく蛇足というか……今回もゆめメインのおまけですね。このおまけ候補としては、キスのことちゃんと教えるのや、ゆめがもっと駄々をこねるけど結局教えないとか、美咲が敵に回って「彩音に教えてもらえば」とけしかけるのとか、あげく実演で教えるとか色々考えたのですが、なんていうか無難というか、やりすぎない程度のものになってしまいましたね。
でも、教えないということは先が作れるということでもありますから、どうなるかは未定です。