初めて友だちを慰めるという経験をしてから数日後。
後日、美咲と喧嘩してたということを聞いて、仲直りした彩音と美咲に慰めた時のことをからかわれたがそれも嬉しかったとまだそんな余韻を残しているゆめは、今度は彩音の家に初めて招待されていた。
初めて来た彩音の部屋に緊張するゆめはせっかく手作りだというクッキーにも手を出さずたまにジュースに口をつけながらテーブル前にちょこんと座っているだけだった。
「ねね、ゆめ」
そんなゆめに着替えを終えた彩音が話しかけてくる。
「……………なに?」
「一回聞きたかったんだけどさ、ゆめってあんまり学校だと話しかけてくれなくない?」
「……うん」
「あ……」
彩音は特に深い意味もなく切り出した話題だが、ゆめがあっさりとうなづいて空気を重くする。
「え、えと、なんで?」
この話題は彩音も気にしてはいたものの、ゆめの性格なら仕方ないかとも考えていて深く聞くつもりはなかったがゆめが素直に答えてしまったため、話題を継続してしまう。
「…………だって、彩音と話すことなんてないから」
「へ……」
しかも、ゆめは持前の人づきあいのへたさを披露する。
(………なんで、彩音驚いてるの?)
ゆめからすれば自分がほとんど話題をふれていないというのは自明のことで彩音もそれをわかっているものと思っていたが、彩音の反応に疑問を抱く。
「え、えーと、じ、実はあんまり話かけないほうがいい、とか?」
「……なんで?」
彩音は彩音でゆめの言葉に驚いていたが、ゆめはいきなりそんなことを言われ彩音の比ではないほどに驚く。
(……そんなのやだ)
ゆめにとって彩音のいない学校生活などすでに考えられない。顔には出さないものの、彩音が失う不安に心が苛まれ
「……私、もっと彩音と話ししたい」
素直は気持ちを伝える。
「え、っと? で、でも今話すことないっていったじゃん」
「……うん」
「ど、どういうこと?」
「……私からは話せることない。でも、彩音が話しするの好き。聞いてるだけでも楽しいし、嬉しい」
まだまだゆめのことを把握できていない彩音は混乱するのみだが、ゆめは心にある気持ちを素直に伝えていく。
「……だから、彩音と話せなくなるなんて、絶対やだ」
「……はぁ、なるほどね。そういうことですか」
そして、彩音はやっとゆめの言っていることが理解できた。話すことがないというのはあくまでゆめからという意味で、基本的には彩音と話しをしたいと思っているということ。
ちゃんとゆめは彩音のことを大切な友だちと思っているということを。
(……なんか、彩音楽しそう)
ゆめをまた一つ理解できた彩音は、ちょっと呆れながらも楽しそうな笑顔を浮かべる。
(……彩音が笑ってると、嬉しい)
友だちが笑っていると嬉しいという当たり前のことにゆめは驚きを感じつつ、同じ気持ちの彩音をじぃっと見つめる。
すると彩音はにこっと素敵な笑顔を浮かべてからゆめに近づいてきた。
「けどさ、あたしもゆめともっと話したいから、ゆめからももっと話しかけてくれると嬉しいな」
「……でも、話すことない」
「別になんだっていいの。お腹減ったーとか、授業退屈だったとか、今日暑いねとか」
「……………そんなのでいいの?」
「そりゃいいよ。つか、あたしってだって結構そんなこと話してるでしょ」
「……うん」
「ゆめ、あたしと話すの楽しいって言ったじゃん。あたしも同じ、ゆめと話すの楽しいの。何を話すかじゃないの、誰と話すかが大切なわけ。だから、ゆめもどんなことでも話しかけてきてよ。……って、微妙にはずいなあたし」
彩音がどこでも聞きそうなセリフを言って、照れたようなそぶり見せるがゆめはそんな彩音を半ば尊敬を込めた瞳で見つめる。
(……彩音、かっこいい)
テレビも漫画も、小説もほとんど見ないゆめにとって彩音の姿は偉大だった。そして、それはゆめの心にすんなりと入ってくる。
「ま、まぁ、そんなわけだから、ゆめももっとあたしに話しかけてきてよね。あたしももっとゆめと話したいんだからさ」
「………うん」
そして、ゆめは彩音への気持ちを高めるとともに友だちとしてまた一歩進んでいくのだった。