ある日の午後。

 あたしは、あるものを渡すのにゆめを呼び出していた。

「ふふふ」

 そのあるもの、机に入れておいたお酒の入ったチョコレートを見つめてあたしは妙な笑いを浮かべる。

 これは、バレンタインのときにゆめにあげて、ゆめが酔っ払っちゃったときのやつ。今日はまたそれをゆめにあげるつもり。

(べ、べつにゆめに襲われたいわけでも、あたしが誘ってるわけでもないから!

 と、どこの誰に言い訳しているのかわからないけど、とにかく今日は美咲にあのゆめを見せてみるのもおもしろいと思って策略をめぐらさせているわけ。

 ま、美咲はさっきコンビニ行って来るって今はいないけどそろそろ戻ってくるだろう。

 あたしは、そわそわとしながら二人を待った。

 ピンポーン。

 しばらくすると、チャイムが押されて来客を告げてくる。

 どうやら、ゆめがさきに来たらしい、美咲ならチャイム押したりしないから。

「はいはーい、いらっしゃいゆめ」

「……うん」

 すでに玄関に入っていたゆめを出迎えて部屋へと連れ込んでいく。

「……用ってなに?」

 部屋に来たゆめは自分の定位置、あたしのベッドに座るといきなり本題。

 無愛想な顔であたしを見上げてくる。

(んー、美咲がいないけどいっか)

 とりあえず、食べさせるくらいならね。

「んー、実はゆめにプレゼントがあんの」

「……なに?」

 あたしがプレゼント上げるっていうだからもう少し嬉しそうな顔してよね。今さらだけど。

「しかも、なんとチョコ」

「……チョコ」

 ゆめお姫様の好物だと知るとやっとここでゆめは瞳を輝かせて口元を小さく緩ませる。

 あたしは机においてあった箱を取るとゆめに差し出した。

「ほい、これ」

「……………」

 しかし、なぜかゆめの反応は鈍い。

「あれ? どしたの?」

「……それ、いらない」

「え!? な、なんで?」

「……苦い」

「だ、だってこの前はバクバク食べてたじゃん」

「……この前は彩音のこと怒ってたからあんまり気にしてなかった」

 そ、そんな。ここでゆめが食べてくれなきゃ、あたしの策も徒花じゃないの。っていうか、あたしもこれそんなにおいしいと思わないからまるっきりお金を無駄にしたってことになるし。

「ま、まぁいいじゃん。とりあえず一つくらい食べなって」

 あたしはとりあえず、箱を開けてゆめに差し出してみるけど

「……いらない」

 ゆめは子供が興味ないおもちゃを見たかのようにプイとそっぽを向いた。

「そんなこと言わないでさー」

 あたしはめげずにゆめの視線の先にチョコを持っていくけど

「……いい」

 これ。

(……うーん、どうしよ)

 完全に予定外。まさかゆめがあたしからのプレゼントしかも、甘いものを受け取らないなんて。

 仕方ない、ここは。

 あたしは、箱をテーブルの上に置くと、一つチョコをとる。

 食べさせちゃえばこっちのものってことで。

「ほら、ゆめあーん」

「……いらない」

 あたしはゆめの口元にチョコを押し当てようとするけどゆめは当然のように拒絶する。

(あー、もうとにかく食べてもらわないと話が進まないっての)

「いいから食べなって」

 フルフル。

「……しつこい」

「ほら、食べたらおいしいって、きっと」

「…………」

 あ、ゆめが怒ってきた。無表情の中にもどこかいやそうな顔をしてあたしを見つめるけど、もうあたしだって引けない。

 むぅ、こうなったら

 あたしはゆめが逃げないようにチョコを持ってない手でゆめを押さえて無理やりにゆめにチョコを食べさせようとする。

「……や、だ」

「ほらほら、観念しちゃえ」

「……やめて」

 チョコがいやというよりも、あたしに無理やりさせられるというのが気に食わないのかゆめはじたばた抵抗してくる。

「ちょ、ゆめあんま暴れないでよ、っと?!

 ボスっ。

 ゆめが暴れるせいで、ゆめをつかんでるあたしもバランスを崩してベッドにゆめを押し倒す形になった。

 ベッドの上であたしはゆめの体に乗り上げて、腕はゆめの片手を押さえている。

 構図としてはなんだかまずいような気もするけど、ここは好都合。

(ふふ、これでゆめも逃げらんないっしょ)

「さ、ゆめ、観念しなさい」

 あたしは楽しそうに舌なめずり。

「…………やめて」

 ゆめのあたしを見つめる目にかなりの怒気がこもっていると同時に、どこか不安そうでもあって、これで涙でも浮かべてたらこのまま襲っちゃいたくなるくらいにそそられるよね。

 ま、怒るのは仕方ないかも知れないけど。なんでチョコ程度でこんなことされるのかわけわかんないだろうし。

「……ん、ふあ…」

 ゆめはあきらめ悪く身をよじるけど無駄。

あたしは体重を乗せている上に腕も抑え付けてるせいでほとんど動けもしない。

「だーめ、逃げらんないよ」

 にしても、ゆめってほんと華奢。こうやって密着させるとなおさらわかる。

 体はあたしが覆いかぶさるだけで覆えちゃうし、抑え付けるのにも感触が軽い。あー、にしてもゆめってほんとぺったん。実は胸があたしの胸と触れ合ってるけどぜんぜんゆめからはふにっと微妙な柔らかさしかつながってこないよ。

 ま、ゆめはこうだから可愛いってのもあるけど。

「……んぅ…離して…」

 さって、じゃあそろそろゆめにしてあげよっか。

 あたしはゆめが逃げられないように押さえる手に力を込めて、チョコを……

(って、あれ?)

「彩音……なに、してるの」

 あたしがチョコを持っていた手に違和感を感じていると背後から乾いた声が聞こえてきた。

「なにって、ゆめがおとなしくしないか……ら?」

 最初は気づかずに答えていたあたしだけど次の瞬間冷や水をかけられたかのように我に返る。

「み、さき」

 あたしはぎぎぎと効果音が聞こえてきそうなくらい不自然に顔を美咲に向けた。

 あれ? なんかすごいまずい展開じゃない?

「えっと……おか、えり……?」

「おかえりじゃなくて、なにしてるのって聞いてんのよ」

 うっ、美咲怒ってる。

 あれ? っていうか、あたし何してたんだっけ?

 よし! ちょっと状況をよく考えてみよう。

 あたしは今ゆめをベッドの上で逃げらんないようにゆめを組み伏せてて、極めつけはゆめが……うっわ半泣き……

「え、あ、あ、あたしなにやってんの!?

 完全にゆめのこと襲ってない? 少なくても美咲から見たらそうとしか見えなくない?

??!!

 急に視界が変わって体に衝撃を受ける。

 どうやら、美咲にゆめの上から突き飛ばされたらしい。

「ゆめ、どうしたの? 何があったの? 彩音に何されたの?」

 美咲はゆめを起こすとあたしとゆめの間に体を入れてゆめをあたしからガードする。

 ゆめはそんな美咲に子猫みたいにすがりつく。

「……彩音が、ひどい。わたし、何度もやだっていったのに……」

 ちょ!? ゆめ、その言い方は明らかに誤解が生じるって。

「……なのに、彩音やめてくれなかった」

 ほら、美咲の目がどんどん怖くなってきてるじゃん。つか、完全に怒ってる……

「彩音、どういうつもりなの?」

 鷹が獲物を狩るような目であたしを射抜く美咲。

 はっきりいって、怖い。

「い、いや、違う、違うんだって! 美咲が思ってるようなことじゃないって! いや、ね、ちょっと美咲が思っているように見えた、かも、しんないけど、さ…」

「ちょっとも何も、私の目には嫌がるゆめをあんたが無理やりベッドに押し倒しているようにか見えなかったわよ」

 ちょ、声の調子といい、この雰囲気といい、まじに怖すぎ。

 漫画とかなら後ろから黒いオーラが出てきてるよ絶対。

「そういえば、おもしろいもの見せてあげるとか言ってたわよね。何? これがそうだっていうの?」

「い、いや、ねだからそのためにっていうか……って違う、違う。そ、そうチョコ、ゆめにチョコ食べさせようとしただけなんだって。それがちょっと無理やりになっちゃっただけで……」

「チョコ? どこにそんなのあるっていうのよ?」

「ほ、ほら、ってあれ?」

 確かに摘んでいたはずのチョコの一つまみが

「何にもないじゃない」

 ない。あたしの手はチョコのパウダーですこし汚れているだけで、手の中には何もなかった。

「さ、さっきまであったんだって」

 もしかしてベッドに倒れこんだときにどっかに落としたの? うっそ〜、まじで? 言い訳のしようがなくないじゃん、これじゃ。

「大体そうだとしても、なんでゆめを押し倒す必要があんのよ」

「そ、それは、ゆめが食べようとしないから……」

「食べようとしないのを無理やり食べさせる必要がある?」

「……………」

 正論過ぎて何にもいえない。

「はい、ごめんなさい! あたしが悪かったです」

 もうあたしが謝っておかないと収拾つかないっていうか、あとあと何されるんだかわかんないし。

「ふぅ、ゆめ、この馬鹿どうする?」

「……………別に」

「別にって、いいの?」

「……そんなに怒ってないから」

「さっすがゆめ、あたしの愛はちゃんと伝わってたんだね」

 あたしは美咲の後ろを回るとゆめに向かって感謝の抱擁をしてあげようと、

「……っ」

したのに避けられた。

「ゆめ?」

 また手を伸ばしても……

 サッ。

「……なんで逃げんの?」

「……また、押し倒される」

「美咲がいんのにんなことするわけないでしょが」

「……二人きりだとするの?」

「そういう意味じゃないっての」

「…………ま、ゆめが心広くてよかったわね。まぁ、私は今度アイスでも奢ってもらうから」

「なんで美咲にそんなことしなきゃなんないの」

 いきなり話に入ってきたかと思えば意味不明なことをいいおって。

「怒りを静めるにはお供え物は基本でしょう。言っとくけど、私、彩音が思っているよりは怒ってるわよ?」

 ……そんな怒られるようなことしてないでしょが。当のゆめだって許してくれたんだし。

 あたしが腑に落ちない顔をしていると美咲はゆめから見えない位置であたしの背中をつねると、あたしの耳元に顔を寄せて

「夜、ちゃんと話聞かせてもらうから」

 小さくそう呟いた。

 あたしはそれを聞くと、軽い気持ちでゆめにいたずらしようとしたことを後悔するのだった。

 

 --------------------------------------------------------------

 続きません。たぶん。

 もっと短く彩音にゆめを襲わせるつもりでしたけど無意味に長くなっちゃいましたね。あと、あっち方面を期待されていた方には期待はずれでごめんなさいw シチュエーションとしてはそれなりに気に入ってかけたので、彩音がゆめを押し倒すところもっとちゃんと書けばよかったというのが心残りです。なんとなく彩音はゆめを攻めるイメージなので、あ、別に変な意味じゃないですよ?w それで、彩音はゆめに攻めるけど思わぬ反撃でふにゃっとなっちゃうイメージ。あ、変な意味じゃないです。とまぁ、戯言はともかく今回はなんだか場つなぎ間が強くて全体がすごく適当になってしまっている気がします。一日で書いたせいもあってか、すごく浅いです。

 ま、外伝はおまけといってしまえばおまけだからいいと逃げられないこともないですけど……

 あ、美咲がどんな風に彩音のこと怒ってたり、夜どんな話をするかはご想像にお任せしますw 

 では、あとがきというか言い訳も長くなってきたのでこの辺で。

 

1/3

戻る