夕飯の準備までを終えるとあたしはなずなちゃんの家を後にした。

 聞きたいことはあれど、まだ体調が悪いのは事実だし、家庭教師の領分ではないのも本当。

 ましてなずなちゃんに好奇心で聞けるわけもなく大人しく帰ってきたあたしは。

(どうしよっかなー)

 今日の顛末を二人にどう伝えるべきかを悩んでいた。

 どうだったかって話をするっていうのは朝、家を出る前に約束はしてた。

 でもそれは病状とかそういうのであって、小学生の女の子とその母親と一緒のベッドで寝ちゃいました。

 なんてことまでをいう必要があるかと言えば多分ないんだよね。

 一時の気の迷いでやましい気持ちを抱いちゃいましたっていうのなら謝らなきゃいけないけどそれは微塵もないわけだし。

 それに今後二人がそれを知る機会があるとは思わない。

 黙っておいてばれることはないから黙っておくのも一つの手ではある。

 ……ただ、あたしはそれを選びたくはない。だって万が一、二人が知ったら嫌だって感じるはずだから。

 恋人が知って悲しむことを隠しておきたくはない。

 「アリサ」さんのこともあるから伝え方が難しいのが難点だけど。

 こんな風にどうやって話そうかと悩み、帰ってきたあたしは二人が作ってくれたご飯を食べて、片づけはあたしがして、

 話す機会を探したまま時間は過ぎて、

「あの……どしたの? 二人とも」

 結局寝る時間になってしまったのにあたしのベッドにはあたし以外の人間が二人いる。

「それはこっちのセリフなんだけど」

「……何を隠している」

 中央に座らされ左右から恋人たちが圧をかけるようにしてくる。

「帰ってきてからずっと何か言いたげだったじゃない。いつまで経っても言い出さないから優しい私達が聞きに来てあげたのよ」

「……さっさと言え」

「なるほどね」

 今の時点では余裕をもって頷いたけど、内心は焦ってる。

 浮気とは思われてないはずでも、隠してたっていうことにやましさを持ってると勘違いされてもおかしくはない。

「先に言っておくけど、浮気とかじゃないから」

「……それは私達で判断する」

「そうね、当人に違うって言われたところで信頼なんてできないし」

 本気で浮気するなんて思ってもないだろうけど、本人の言葉でっていうのは美咲とゆめからしたら当たり前か。

 「アリサ」さんのことを言えば理由にはなる。でも、詳細もわからずに憶測をいうのはよくないことな気がする。

(そうなるとあたしが積極的に二人とねちゃったってことになるんだよねぇ……)

 二人に嘘をつきたくはない。でもアリサさんのことも言えないとすると。

「……ふぅ。まぁあんたが話せないっていうならとりあえず今日のところはいいわ」

「へ?」

 頭を悩ませるあたしに意外な言葉がかけられる。

「浮気を隠してってうわけではないでしょう。それならとりあえず勘弁してあげるわよ」

「え、と……いいの?」

「いいわよ。正直、浮気じゃないなら何を悩んでるのとは思うけどね」

「……………」

 もっともだよね。やましいことがあるわけじゃないのに話せないっていうほうが変だし。

 美咲が自己完結したようで、あたしを通り越してゆめに視線を送る。

「……美咲が言うならそれでいい」

 ゆめも美咲が追及しないのに自分がっていうのは言い出せないのか、そう言って。

「……代わりに今日はこのまま三人で寝る」

 代替を要求してきた。

「あぁそれなら私も言おうと思ってたことね。拒否権はないわ」

 こうしてあたしが二人に話せない罪悪感を他のもので埋めてくれるんだからほんとあたしはいい彼女を持ったよ。

「……ちなみに、本当に浮気じゃないのよね」

「……もしそうなら絶対に許さない」

 両側から腕をぎゅっと掴まれてステレオに囁かれるのは迫力がありすぎるけど。

 今は二人の優しさに甘えさせてもらおうと腕を払いのけて改めて二人を抱くのだった。

 

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