「つっ、かれたねー」
時は春爛漫。
「……うん」
「あとは明日片づけをすれば大体終わりね」
まだ見慣れていない家具や、部屋の隅に積まれた段ボールの山に囲まれながら大きなリビングに設置したテーブルとソファに陣取ってあたしたちは今日のことをねぎらう。
そう、ここは大学生となったあたしたちの新居。事前に相談していた通り、3LDKの部屋を三人で借りてそれぞれ一人部屋を持つことになった。
午前中にやってきたけどまずは共有で使うリビングやキッチンなんかを整理してから、次は一人部屋の引っ越し作業をしていたらすっかり夜になっちゃった。
「とりあえずご飯にしましょ。すぐ用意するから」
「あ、手伝うよ」
「いいわよ。そんなに凝ったものにはしないから二人で休んでなさい」
「そ。じゃ、お願いする」
なんてこれから当たり前になるような会話をしてあたしはお茶を淹れてゆめと飲むことにする。
「眠そうだね、ゆめ」
「……むぃ。疲れた」
「まぁ、今日はごはん食べたらお風呂入って寝ちゃいなよ」
「……むぅ」
なんて会話の中でもゆめはすでに意識を途切れさせちゃいそうで、あたしはごはんの用意が出来たら起こしてあげるからと促すとその場で横になってすぐに寝息を立て始めた。
「可愛いねぇ」
そっと眼鏡をはずしてあげて、まじまじとその寝姿に見入る。整った小さな顔と薄ピンクの唇。穏やかに寝息を立てて上下する平坦な胸。
とても大学生には見えない美少女があたしの前で無防備に寝ている姿はなんとも庇護欲を感じるし……他にもいろいろな感情が沸き上がる。
「可愛い可愛い」
とりあえず頬を撫でるだけで満足をして今後はエプロン姿で台所に立つもう一人の恋人のことに視線を移す。
トントントンと小気味いいまな板の音を響かせながら美咲は心なしか嬉しそうに準備をしている。
美咲はゆめとはまた違う美しさを持つ。ゆめは可愛いって言った方が似合うけど、美咲は綺麗っていう言葉が似合う。
料理をするためにまとめられている長い髪はとても繊細で、いい香りがしてベッドの上に散らばっているのなんか大好きだし、ふっくらとした唇の感触はとても心地いいのを知ってる。
「どうしたのよ?」
そんな唇があたしに問いかけてきた。
「んー、なんか美咲が料理してくれてるの見るの幸せだなーって思ってた。なんか一緒に暮らしてるんだなってさ」
「っ……べ、別に私たちは前から一緒に住んでたでしょ」
「そうだけど、改めて実感したっていうか嬉しいなって思ったの」
エプロン姿の美咲があたしたちのために料理を作ってくれてるっていうのがたまらなく幸せに感じる。
隣でゆめが寝てて、美咲が料理を作ってくれててなんというか
「なんていうかさ、結婚してるみたいだよねー」
美咲っていう妻がいて、ゆめっていう妻でも子供でもある存在がいてほんとそんな感じ。
「ば、馬鹿言ってないで手伝いでもしなさいよ」
「えーさっきはいいって言ったじゃん」
「そろそろできるから食器の準備とかしなさいってことよ」
美咲は怒ったように言ってきてるけど、顔が赤くなっているのは怒ってるからじゃなくて照れだっていうのがわかるあたしははいはいと答えながら美咲の手伝いを始めるのだった。