ご飯を食べ終えるとゆめはお風呂に行って、美咲とあたしで片づけをしてまたご飯を食べた場所でお風呂から戻ってきたゆめとお茶をしてる。
「あれだね、とりあえず引っ越してきちゃったけどごはんとか片づけの当番とか決めておいた方がいいかな」
「そうねぇ。そういうの決めないとゆめとかさぼりそうだし」
「……なんでそうなる。私だってちゃんとする」
「あ、確かに。ゆめってできる割にはしないからね」
「…………むぅ」
あたしたちにステレオで責められてゆめはちょっと不満そうだけど事実ではある。ゆめは甘やかされてきたのもあるのか積極的じゃない。特にあたしに対してはあたしがゆめの面倒を見るのが当たり前というような態度をとるときもある。
冤罪かもしれないけど、ひかりさんが小さいころなんでもゆめのためにしてきたのが原因になってるんじゃないかって思う時もある。
「まぁ、それも明日以降徐々に決めていけばいいでしょ。学校が始まるまでにはまだ少しあるんだしゆっくり慣れていきましょ」
「……うん、今日は疲れた」
美咲が入れてくれたいい香りのする紅茶を口にしながらあたしたちは談笑する。それもまた幸せな一幕。
こんな感じでその後は中身のない会話に花を咲かせていたけれど、ゆめだけでなくあたしも美咲も疲れがあってすぐに目をこすりだす。
「とりあえず今日はお開きかしらね」
「だね」
「……眠い」
簡単にカップを片づけると各々部屋に戻ろうとするけれど、それじゃあと部屋に戻ろうとする二人を見て
(あっ……)
「あ、あのさ」
つい声をかけてしまった。
「なに?」
「…ん?」
「あっ……えーと」
なんだか二人が部屋に戻っていって一人になるのが寂しく感じてつい声をかけちゃったけど、部屋に戻るなと言えるわけはなくて頭の中で必死に言い訳を考えて、出てきたのは
「今日くらい、三人で寝ない?」
そんな誘いだった。ずっと美咲とは一緒だったし、いろいろ考慮して一人一部屋ってことにはしたけど、改めて一人になるのって、その……なんていうか寂しい」
「……彩音は変態」
「え?」
「そうね。疲れてるから早く寝ようって話なのに、三人でなんて」
「あ、いやいや! そういうんじゃなくて、ただ寝ようってだけだよ! あたしのベッド大きいのにしたしせっかくだからいいじゃん」
「なに焦ってんのよ」
「……焦ると逆にあやしい」
「ほ、ほんとに違うってば」
「ふふ、わかってるわよ。そうね、彩音がしたいならそうしてあげるわ」
「……彩音は寂しがり」
「うっ……」
自分でもこんなこと言うなんてちょっと子供みたいだなって思わないでもないけど、思っちゃったんだから仕方ないじゃん。
少しでも一緒にいたくて三人で住むんだから、一緒に寝たくなったっておかしくないじゃん。
なんて、それを口にすると余計に言われてしまいそうだから黙っておくけれど、実はたふだあたしが一番に行ってしまっただけっていうことには気づかないで初めての三人での夜を迎えることになるのだった。
八畳の部屋にクローゼットと小さな机と一人で寝るには大きなベッドのせいでスペースは大体埋まってて少し手狭に感じる部屋。明らかにベッドが大きいんだけど、他二人の部屋がそういうわけじゃなくてあたしのベッドだけ。
理由はまぁ……一応秘密ということで。
その大きなベッドの上で三人身を寄せ合って横になっている。
「いいわね。こういうのも」
左手には美咲。
「……ぬくぬくする」
右手にはゆめ。
二人の美少女に囲まれて眠りにつくと極上の睡眠がとれそうな気分。
美咲なんてお風呂上がりで柑橘系のいい匂いがするし、ゆめは寄り添ってくる体が子供みたいに暖かい。
好きな人の体温でも香りでも、それだけで幸せに満たされる。
でも、それだけじゃ足りなくて
「ね、二人とももっとこっち来てよ」
二人をもっと近くに感じたくてあたしはそう声をかける。
「……ん」
「なによ。彩音の部屋にいたときはあんまり一緒に寝てくれなかったくせに今日はだいぶ甘えんぼじゃない」
「いいじゃん今日くらい」
「ダメだなんて言ってないわよ」
楽し気に言いながら美咲はぐっと体を寄せるとあたしの腕をつかんで抱きしめる。
力強く抱かれると美咲の柔らかな腕に肢体を感じる。
「……むぅ。私がいるのを忘れるな」
ゆめはあたしたちが二人の世界を作ってたのが気に食わないのか、少し声に不満を乗せながら美咲と同じようにあたしの腕を抱く。
ゆめは美咲とは明らかに違う感触。平たく言って、胸の柔らかさを感じられないっていうのもあるけどそれだけじゃなくてゆめはちょっと筋肉質でもあるからしなやかさも感じる。
「忘れるわけないでしょが」
本気じゃないんのはわかってるけど、こんな少しの会話だけでも嫉妬するんだからゆめはほんと可愛いよね。そして嫉妬してくれることに想いの強さを感じて嬉しくもなるんだけど。
「……忘れてなくても目の前でいちゃいちゃされたら怒る」
「いちゃいちゃってほどでもないでしょ」
「そうよ。いちゃいちゃっていうのはこういうのを言うんだから」
「へ? ……んっ!?」
頬に美咲の手が触れたからと思うといきなり視界が変わって、美咲の顔がうつったかと思うとそのままキスをされた。
「っ、ん、ちゅ……ちゅ……ん〜〜」
柔らかな唇が角度を変えながら何度も合わさってくる。とろけてしまうような感触ですごい気持ちよくはあるんだけど、
「っ……!?」
今度は逆側に引っ張られた。
「……なに、してる!」
「なにってキスよ。彩音の部屋に住んでたことはこうやって毎日寝る前にキスしてたから」
「いや、してないでしょ」
まぁ、するときもあったけど。
「……ずるい」
そしてこのお姫様は物事を自分に都合いいようにとらえるんだよね……。
「……私とも毎日する」
「だから毎日はしてないんだけど……」
「……そうなのどうでもいい。私とは毎日する」
「あら、なら私とも毎日しなきゃね」
「なんでそうなる」
「……いいから私にもキスしろ」
低く唸るような声でゆめはそれを要求してくる。もちろんあたしとしては嫌なわけはないんだけどここで折れると、本当に毎日させられそうな気がする。
「……む……んっ」
ゆめの方を向いたままどうしようかと悩んでいるとゆめはあたしの体を引っ張ると、強引に口づけてきた。
「ん……ふ……、む…ちゅ」
ゆめのキスは美咲とは違って数秒重ねた後にもう一度、同じようにしてくる。
それから唇の周りを征服でもするかのようにちろちろとなめあげてくるのが少しくすぐったい。
「……っはぁ……こ、これでいいんでしょ」
「……まだだめ」
「そうよ」
「え?」
「彩音からしてきてないじゃない」
「……うん」
「き、キスはキスだからいいでしょうが」
「……だめ」
「だーめ」
二人であたしの手をぎゅっと握りしめ耳元で囁かれる。そもそもこのままじゃ動きを封じられててできないんだけどたぶんすでにそういう話じゃなくなっていて……
「わかったよ、すればいいんでしょ。すれば」
結局、三人で穏やかじゃない夜を過ごすのだった。