「……澪、相談がある」
珍しくゆめが澪の部屋を訪れた日。
乱雑にものが散らかる部屋で、澪がゆめのために開けてくれたスペースに座るとゆめはいきなりそういってきた。
「相談?」
自分はベッドに座りながら澪はどんなことだろうと好奇心を隠して問いかけた。
「……うん」
「どんなこと?」
「……彩音にプレゼントをあげる」
「わぁ、素敵だね。何かの記念日とかなの?」
「……そういうわけじゃない。ただ、プロポーズされたからお返しに何かあげようと思っただけ」
「へぇ、そうなんだ。………え?」
相手がゆめということでそんなに大した理由があるわけではないと思っていた澪はワンテンポ遅れてゆめの言葉の意味を理解した。
「ぷ、プロポーズ?」
「……うん」
「彩音ちゃんにプロポーズされたの?」
「……うん」
澪からすれば驚くべきことなのだがゆめは当然だとばかりに頷く。
(彩音ちゃんがプロポーズ……)
その言葉から澪はすぐに頭の中に様々なことをよぎらせる。
プロポーズの言葉は? 場所は? 何かきっかけがあったの? なんて答えたの?
などという一般的な疑問から。
かっこよくとかかな? それとも、サプライズ的な? あ、けど彩音ちゃんならなし崩し的にとかもありえそう。
ゆめちゃんはどう答えたの? 意味が分からなくて首かしげちゃったり? それとも真っ赤になって照れて見たり? 感極まって泣いちゃったりとか。
それでそれで、プロポーズの後は? やっぱりキスはしたよね。それからそれから……
「……澪?」
「えっ……あっ!」
具体的な妄想をしてはしたない顔をする澪だったがゆめの怪訝な声で現実に引き戻される。
「ぷ、プレゼントだったね、えと……」
(いけない、いけない。妄想したり、形にするのは後でもできるんだから今はゆめちゃんの相談にのってあげないと)
「うーん。やっぱり喜んでもらいたいし、彩音ちゃんの好きなものをあげるっていうのがいいよね」
だが、澪もまた現実での経験はなく当たりさわりのないことを言うしかできなかった。
「彩音ちゃんの好きなものって言ったら何かな?」
「……私」
「えと……違くて」
「……違わない。彩音が一番好きななのは私」
もちろん澪はそういう意味で聞いたのではない。だが、ゆめはその独特の思考で彩音の好きなものを答えた。
「えーと……そういう意味じゃ…………」
贈り物をする上での好みということを伝えようとしたが、澪はふと口をつぐんだ。
(……そうだ)
そして、心の中で抑えきれない笑いをもらす。
「じゃあ、ゆめちゃんをあげよう」
「………?」
澪の(澪にとって)画期的、かつ実用的な提案にゆめは首をかしげた。
「……どういう意味?」
「だからね、ゆめちゃんのことをプレゼントするの」
「………??」
「えーとね、だから……」
このままでは埒が明かぬと察した澪はゆめの方に体を乗り出し、耳元に顔を寄せると
「……………っていうことだよ」
妄想の内容をゆめに吹き込んだ。
「……うに!?」
ゆめはその衝撃的な内容にかぁっと顔を赤く染める。
「……そんなの、恥ずかしい」
澪の提案からしてゆめの反応は常識的なものだ。いくらゆめが変わっていると言っても、ゆめはあくまで純粋な少女だ。澪の提案を受け入れるのは簡単なことではない。
が、
「でもきっと、彩音ちゃん喜んでくれると思うな。彩音ちゃんそういうの好きそうだし」
「……確かに、彩音は変態」
彩音のためという魔法の言葉があればゆめが動いてくれるのは承知している。
「じゃあ、決まりだね。ゆめちゃんをプレゼントしよう」
そして、澪は嬉々としてそう言った。
すでに心の中でその光景を想像しながら。