「……ん……む、ぃ……んっ」

 あたしの目の前でよくわからない光景が広がっている。

 よくわからないっていうよりも異常とまでは言わないけど非日常な光景。

「……む、みゅ……んっ」

 あたしの可愛い可愛い恋人ちゃんが自分で自分の体にリボンを巻きつけようとしている。

「…………っぁ……う……ん」

 ただ、自分の体に巻くというのは意外に難しいみたいでゆめはベッドの上で緑色に金色のラインの入ったリボンに絡まりながら悪戦苦闘中だ。

(……なんでこんなことになってるんだろうねぇ)

 かれこれ数分こうして眺めてるけどいまいち状況が呑み込めない。

 ここに来たのはゆめからの呼び出し。

 プレゼントがあるから一人で来いなんてことを言われて、のこのこやってきたあたしはこの光景を目にした。

 目が点になってたあたしにゆめはちょっと待ってろなんて言ってくるから素直にこうして待ってるわけなんだけど。

「……むぁ…う……ぁ」

 っていうか、これはあれかな? やっぱり。

 あたしもゆめや美咲に鈍い鈍いと言われ続けてきたけどあたしだってそんなことはないんだよ。

 少なくとも今ゆめが何をやってるかくらい想像がつく。

 やっぱこれはあれだよね。

 プレゼントはわ・た・し。

 ってやつ。

 なんでこんなことしようとしてるか知らないけど、まぁゆめは時々突拍子もないことしてくるしね。

 あたしとしてはそれを楽しませてもらおう。

(にしても……)

「……むぅ……にゅ……い」

 こんなちっちゃい子が自分で自分を縛ろうとしてるところを見てると……なんだか……

(いやだめだめ)

 あたしは自分の中に芽生えた邪な気持ちを雲散させる。

 妙なことをしようとしているように見えるけどこういう時のゆめは真剣。ちゃかしたりなんかするのは悪いし、なにより機嫌を損ねる。

 まぁ、怒らせるだけなら可愛いからむしろいいんだけど。

 なんてことを考えながらあたしはゆめの準備が整うのを待つ。

(けど、最終的にはどうするつもりなのかな?)

 リボンを結んでプレゼントっていうのはナイスな展開だけど、あたしはそれをどうすればいいんだろう。その後のこととか何も考えてないような気がするなぁ。ゆめって結構そういうこと多いし。

「………彩音」

「ん? なぁに?」

「………手伝え」

 ゆめは飽きたというか、諦めたというか不機嫌な様子であたしを呼ぶ。

(あたしへのプレゼントをあたしに手伝わせるんかい)

 突っ込みたくはあるけど、嫌なわけはない。

 あたしは素直にベッドに上がるとゆめからリボンを受け取る。

「で、これをどうすればいいんですかな。お姫様」

「……私に結ぶ」

「ふむ、なるほどね」

 どうやら予想通りでいいみたい。

 ちょっといたずら心も芽生えちゃうけど、ここはゆめの言いなりになろう。何か深い考えがあるのかも知らないし。

 あたしはそう心から思ってゆめの体にリボンを結んでいく。

(ほっそいねぇ)

 もう数えきれないほど抱きしめてるけど、こうしてリボンを巻きつけていくとなおさらそう思う。

 軽いし、腕をこうバンザイなんてさせてぐるぐるってするのも簡単だし……

 さて、これで手首のところを結べばゆめは動けなくなっちゃうわけだけど

「……彩音。何してる……」

 不意にゆめの不機嫌そうな声が耳に届く。

「何って……っは!」

 ゆめの声で我に帰ってあたしは今を確認してみる。

(ふむ……)

 ベッドに倒されるゆめ。ワンピース型の制服姿で、本来その上に結ばれるべきリボンはそこになく、代わりにばんざいをさせられた腕に巻きつき、手首で結ばれている。

 簡単に言えば、縛られているって言った方がいいね。

(これは……)

 まずいね。なんでこんなことになってるかわからないけど、とにかくまずいね。

 いや、決してあたしが意図的にゆめを縛って身動きできなくしたわけじゃないんだよ? なんか気づいたらこうなってたの。決してあたしの意志とかそういうんじゃないわけ。その辺をよろしくね。

 さて、言い訳はこのくらいにしておいてこれからどうしよう。

 ごめんって謝ってちゃんと結びなおすのが無難だし、そうすべきなんだろうけど。

 そんな普通じゃつまらないよね。

「え? だって、ゆめが縛って欲しいって言うから、今日はそういう趣向なのかなって思って」

 だって、改めて見るとやばいよこれ。

 小学生にも見える童顔の美少女ちゃんがベッドの上で手を縛られて身動きが取れない状態。

 この状況を見られただけでも普通なら警察呼ばれちゃうほどだけど、あたしなら許されるんだよ?

「……そんな意味じゃない。早く解け」

「えー、いいじゃん。せっかくだしもう少し色々させてよ」

「……わけわからないこと言ってるな。いい加減にしないと怒る」

「ん、怒ったってどうするつもり。何にもできなくない? まして、こうしたら」

 足は縛られてなかったけどあたしはゆめのふとももあたりを跨いでベッドに座る。これで本当にゆめはなんにもできない。

「……うに………」

 抜け出そうと体をよじるけど、そんなことくらいじゃ逃がさないよ。

「さてと」

 このまま眺めるのも楽しそうだけど、せっかくなんだしそれだけじゃね。

「……みっ!? あやね……」

 あたしはゆめの服の下に手を潜り込ませていくとゆっくりと服をずりあげていく。

「……んっ、く……ぅ……ん」

 時折お腹を指で撫でたりなんかもして、ゆめは恥ずかしいのか、くすぐったいのか熱っぽい声をもらして体を震わせる。

(……ふむ)

 ゆめの反応もさることながら、こういう風に脱がしていくのもグッとくるものがあるね。今までもこんな風にしたことはあったけど、縛られてるっていう状況がこれまでとは違ったものを感じさせてくれる。

「……あ、やね……やめ、て」

「っ!!」

 涙目のゆめ。

 ゆめはなかなか泣かないし、こういう時でも上から目線で命令口調が多い。

 そんなゆめが瞳を潤ませてやめてと懇願する。

 この状態になってようやくあたしは何をしてしまっているかを気づいて手を止める。

 好きあってる相手なんだからこのまま続けても怒らせこそすれど、嫌われたりすることはないかもしれないし、ちょっと強引なことをしてどこまで自分が受け入れられるかとかを試すって言う考えもあるかもしれない。

 けど、たとえ最終的にゆめが許してくれたとしても好きな人を泣かせるなんていうのは恋人のすることじゃないよね。

 あたしはそう思い直して、ゆめの拘束を解くと

「ごめんね」

 ほっぺにキスをする。

 そして、この後改めてプレゼントなったゆめを堪能するのだった。

 

 

(なんてことが起きたりしてないかな〜)

 と、ゆめに自分の好みの展開を吹き込んだ澪は自室で二人を想像して頬を緩ませていた。

プレゼント3

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