「あっちゃー、雨降ってるや」

 ある日の夕方、学校から帰ってきて一人で適当に雑誌を読んでいたあたしは、窓を叩くその音で、雨が降ってることに気づいた。

 あたしは読んでた雑誌をベッドに置いたまま窓から外を見つめる。

「二人とも大丈夫かなぁ」

 今日はゆめがお泊りに来る約束だし、美咲はまだ学校から帰ってきてない。今日は天気予報で雨が降るなんていってなかったし、二人とも傘を持ってないかもしれない。

「んー、お風呂でもわかしとこうかな?」

 風邪とか引かれたらやだし。あの二人って風邪引くとそれをいいことに変な要求してきたりするしなぁ。

「ふんふーん、と」

 なぜか鼻歌交じりにお風呂でお湯を汲み始めたあたしは、適度に温度を調節して大丈夫ってなるとそのまま部屋に戻ろうとした。

 と、ちょうど階段を上ろうとしたその時。

「………こんにち、は」

 小さくドアが開かれたかと思うと、外の雨音にかき消されちゃうかのような声が聞こえた。

「あ、ゆめいらっしゃい。あーあ、見事に濡れちゃったね」

「………うん」

「でも、ちょうどよかった、今お風呂沸かし始めたからさ、お風呂入っちゃいなよ」

「……うん」

「あ、でも、とりあえずタオル持ってくんね」

「……ありがとう」

 と、びしょぬれになってるゆめを玄関に残してさっききたばかりの脱衣所で大きなタオルを取ってすぐにゆめの元に戻っていった。

「はい、これ」

 あたしが取ってきたタオルを渡すとゆめはすぐに髪や制服を……

「あ、っていうか制服なんだ」

「……うん、着替えるの面倒だった」

「ふーん」

 つか……いいなぁ。

 びしょ濡れなゆめ。

 髪や制服は肌に張り付き、ところどころから雫を滴らせている。

 しかもゆめが制服だったっていうのもはなまるな感じ。

 だって、ゆめの制服って基本白でお腹とかちょっと透けちゃってるし、全部が肌に張り付いてるわけじゃなくて所々っていうのが逆にそそるっていうか……

 しかも

「……むぃ」

 ふとももに張り付いたスカートが気持ち悪かったのかスカートを持ち上げるところなんて思わぬ僥倖だった。

「……? 彩音?」

 何も言わずに体を見られてたって言うのが気になったのかゆめは体を拭くのを中断してあたしのことを見てきた。

「あ、何でもない。何でもない、ぜんぜん気にしなくていいから」

 あたしはほんのちょっとだけやましいって気持ちもあったせいで過剰に反応してしまう。

「…………」

 と、ゆめはそれを敏感に察知したのかあたしに背を向けて体を拭くのを再開した。

(……ぅう、やっぱあたしって信頼ないのかねぇ)

 あ、でも後姿もいいかも。それにふとももに雫が伝ってるのとかも……

(って!!)

 うぅ、これじゃまた変態って言われちゃうって。

 実際はぜんっぜんそんなことないんだから、勘違いされるようなことは避けないとね。

「あ、っと……あ、あたし着替えとか用意してくるね。適当なところでお風呂いっちゃっていいから」

「……うん」

 と、どうにも落ち着かない心であたしは部屋に上がっていった。

「……んーと」

 部屋に戻ると言い訳したとおりにゆめのお着替えを用意する。ゆめが泊まるのはよくあることで、あたしの部屋にはゆめの下着とか服とかが少量ながら用意してある。

「これがいいかなぁ」

 ゆめの部屋だったらゆめに来てもらいたい下着とか服とかを選ぶところだけど、さすがに選ぶっていうほど量はないから適当に一式を選び取ると

「お……」

 下のほうで脱衣所のドアが閉まる音が聞こえた。ゆめがお風呂に行ったらしい。ここですぐ行くと脱いでるところを覗いたとか言われちゃいそうだし、少ししてからにしようかな。

「ただいまー」

 と、そんなことを考えていたあたしの耳に今度は別の声が聞こえてくる。

 あたしが出迎えに行くまでもなく、声の主、美咲はとっとっとと軽い足音を立ててこっちに向かってくるのがわかった。

「ふぅ、まいったわね。雨降るなんて聞いてないわよ」

「おかえり、大変だったね」

「折りたたみはあったけどちょっと濡れちゃったわよ、まったく」

「そりゃお疲れさん」

 部屋に戻ってきた美咲は言葉のとおりちょっとは濡れてるみたいだけどさっきのゆめみたいに滴るってほどでもなく服が肌に張り付くってこともない。

「タオルとってくれな……? なんでゆめの下着なんか持ってるの?」

 ただタオルを欲していただけであろう美咲は、あたしを少し見ただけであたしが持ってるのがゆめの下着だって気づいたみたいで当然の疑問をぶつけてきた。

「あ、ゆめも結構濡れちゃっててさ、今お風呂はいってんの」

「………ふーん。お風呂に、ね」

 なぜか美咲は髪を軽く掻き揚げてあたしから顔を隠した。

「……私も入ろうかしら。お風呂」

「え、あ、じゃあゆめが出たらいいんじゃない。って、美咲」

 あたしが至極まともなことを言ったのに美咲はそれにかまわずあたしのそばに来るとタンスから自分の着替えを取り出した。

「美咲?」

「私も一緒に入らせてもらうわ。ゆめとなんて久しぶりだし」

「え、って……ゆめがいいって言ってないでしょ」

「まぁ、その辺はうまくやるわ。ゆめのも私が持ってってあげるから、彩音は近づかないこと。それじゃ」

「あ、美咲……?」

 話もそこそこに美咲はあたしからゆめの着替えを取り上げると部屋を出て行って、すぐに階段を下りる音が聞こえる。

 あたしはなんか美咲がいつもと違う気がするなって思いはしたものの、まぁ美咲のことだからと深くは考えないのだった。

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