ゆめはお風呂に入ると、まずは髪を洗う。

 今日もいつものとおり、鏡にその華奢で平坦な体をさらしながら、イスに座ってその行為を行う。雨に濡れたこともあって念入りに髪を洗ったところで、

「ゆめ、入らせてもらうわよ」

 ドア越しに美咲の声が聞こえた。

「……?」

 何のことか一瞬わからなかったゆめはそのまま髪を洗い流して、念のためと思ってドアのほうを振り返った。

「……っ、美咲……」

 その視線には一糸纏わぬ美咲の体があって、ゆめのことを見下ろしていた。

 ゆめは若干恥ずかしそうに身構えはしたものの、ことさら体を隠そうとはせず自分の背後に座り込んだ美咲を不思議そうに思うだけだった。

「もう体洗っちゃった?」

「……んーん」

「そう。じゃあ、私が洗ってあげるわ」

「……ふぇ?」

 体をひねって、何を考えてるかわからない美咲と会話をしていたゆめだったが、突拍子もない美咲の提案にさすがに首をひねる。

「…みゃ!?」

 が、美咲はそんなゆめにかまわずボディソープのつけたスポンジをゆめの背中に当てた。

「ふふふ、いいじゃない。たまには、こうしてあげるのも」

「……う、ん」

 美咲が何故いきなりこんなことをしてくるのか、ゆめには想像がつかないが、彩音と違って美咲は変なことしてこないだろうという安心感というか、思い込みがあってゆめはおとなしく正面を向いて、鏡越しに美咲のことを見た。

 完全に重なってはいないこともあり、自分の小さな体では隠しきれない美咲が背中に手を伸ばし、優しく体を洗ってくる。

 恥ずかしくも、くすぐったくもあるものの、美咲にされるのもまんざらではなくゆめはぼぉっとそんな美咲を眺めてた。

「ね、ゆめ」

「……なに?」

「彩音とお風呂入るときはこういうことしないの?」

 口調、というか声の調子がいつもと異なって聞こえるのがここがお風呂なのかなとゆめはそんなことを思いもするが、考えたところで答えが出るものではない。

「……彩音はすぐ変なことしようとする」

「ふーん。たとえば?」

「……胸触ったり、とかしてくる。この前、なんて」

「あぁ、あのスク水には私も驚いたわね」

「……彩音は、変態」

「ほんと、そうよね。私たちにあんな下着着せて喜んでるし、それにすごい馬鹿だし」

「……うん。彩音はバカ」

 今のところ美咲の手つきにも、口調にもし始めたときと変化はない。しかし、正面から美咲を見ていたのであれば、ゆめや彩音なら気づく変化はあっただろう。

「まぁ、彩音の気持ちがわからないわけじゃないけれどね」

「……?」

 背中に当たっていた感触が柔らかなスポンジから、手の平の感触に変わりゆめは不思議に思って体をひねって美咲のことを確認しようとした。

「……美咲?」

「ゆめはほんとに可愛いし、変なことしたくなる気持ちもわからなくはないわよね」

「……っ。別に、可愛く、ない」

 普通だったら、照れるだけだったかもしれないが、このときのゆめはなぜか否定の言葉を発してしまっていた。

「そんなことないわよ。ゆめみたいに可愛い子、ほかにいないわよ」

 背中に触れる美咲の手はどこか冷たくて、ゆめは背筋を走る緊張を感じていた。

「……………??」

「ね、ゆめ」

「っ……ふ、み……」

 美咲が背中を指でそっとなぞった。それがこそばゆくて、少し……変な感じがして

「……可愛く、ない」

 なぜかまた美咲の賛辞を否定していた。

「……………」

(……???)

 ゆめは可愛いといわれたときから頭に浮かぶはてなマークをどんどん増やしていっていく。

 その一方、心の中で意識したことのない気持ちが鼓動をうっている奇妙な感覚を得ていた。

「……ゆめ」

「……み、さき!?」

 少しためらいがちに呼ばれた名前に反応しようと思ったときには、美咲はすでに行動を開始していて、

「っ……」

 ゆめは背中が温かいともつめたいともいえない、すべすべとした浴室の床に打ち付けられるのを感じて、そこに間髪いれず美咲が覆いかぶさった。

 顔と顔、体と体が十センチもあかない距離で美咲はゆめの顔の横に手をついてゆめの体を見下ろしている。

「……美咲……?」

「ほら、こんなに可愛い」

 長い髪を垂らして、ゆめの体を見つめる美咲の瞳には、ゆめの知らない感情がのっていてゆめはそれが何なのか本能的に感じたような気もしたが、

「……はずか、しい」

 今は何よりそれが上回って美咲と自分のことを考えられない。

 小学生といってもいい平坦で、華奢な体ゆめと、年相応の発達を持った美咲。

 美咲は体の下にあるゆめの体を凝視し、ゆめも恥ずかしくてたまらないのになぜか美咲の体から目が離せないでいた。

「ほんと、彩音の気持ちわかるわ。ゆめがこんなに可愛いんじゃ仕方ないかもしれないわよね」

「……そんな、こと、ない」

「……あるわよ」

「……みっ……ぅ……」

 押し倒された形になっているゆめは美咲がしてきた思わぬことにびくっと体を震わせた。

「この、ちっちゃい胸も」

 美咲の細長い指先が声でさした場所をなぞる。

「すべすべなお腹も」

「……ぁ…ん」

「思わず触りたくなっちゃうくびれも」

「……ふぁ…ゃ、ん」

「可愛いおへそも。みーんなたまらない」

「みゅ、…ぁ…や」

 言葉で示した場所を例外なくなぞるたび、ゆめは恥ずかしさからせつない声を上げる。それは今まで美咲には見せたことのない姿で、美咲はそれを楽しんでいるという風でも、ちゃかしているという風でもなく不敵な笑いを浮かべていた。

「……それに」

「…み、さき……だって、すごく、綺麗」

 ゆめのお腹に当てられていた美咲の指が次の動きをしようとしたところでゆめは、何かに迫られるように声を出していた。

「……背も高いし、胸も、脚もすごく綺麗」

 さすがに美咲と違って手は出さないもののゆめは美咲の自分が届かない部分に目を向けた。

「…………そう。ゆめに言われると嬉しいわね」

 美咲はゆめの体に当てていた手を自身の顔へと持ってくると重力にしたがって垂れ下がる髪を掻きあげた。

「…………」

「…………」

 そして、それからしばらくの間無言でお互いのことを見つめあう。

 顔とか、胸とか、脚とか、そういうどこかではなくお互いに、視線を交わす大好きな相手を見つめていた。

「……ゆめ」

「……美咲」

 名前を呼び合うと、今度は互いの瞳の中に移った自分を見つめる。

 お互いに、お互いには見せたことのない表情をしていると同じ感想を抱き。

「…………」

「…………」

 また、二人の間に沈黙が流れるのだった。

 

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 今回のお話はこれで終わりです。どういう意味を持たせるかは考えてません。なので、【どう感じたか】をお教えいただけたら嬉しいです。それによってどうするかも決めてませんけど、よろしければお願いします。

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