それは月の綺麗な夜だった。

 シンと静まった世界の中、窓から差し込む月光が病室を照らしていて。

 何かが起こりそうだった、なんて言い方は後付けだったかもしれないけどそんな幻想的な夜に、私は出会ったのだ。

 

「私に恋を教えて」

 

 私の世界を変える悪魔に。

 

 ◆

 

 その日を私は退屈に過ごした。

 一日のほとんどを病院のベッドの上で、いつものように。

 カーテンのついた窓辺のベッド。真っ白な壁に囲まれたこじんまりとした病室。窓から見えるわずかな外の景色。

 それが私の世界のほとんど。

 人生の多くを私はここで過ごしている。

 毎日毎日、することはほとんど変わりなく本を読むか、ゲームをするか、動画をみるか、寝るか、勉強も一応しているけれど果てして何のためなのか。

 友人はなく、話すのは医者か看護師か親か。

 本当に退屈な人生だと齢十五にして思う。

 奇跡でも起きない限りはこのままということも決まっている人生。

 なんのために生きてるのかもわからないそんな毎日。

「……ほんと嫌になるね」

 気が塞ぎ、こうして眠れぬことも多い。

 眩しいくらいの月明かりで本を読みはしたものの気は晴れず、ぼーっと窓の外を眺め、

「……月、綺麗だ」

 見飽きてるはずの月を見て何故か今日はそんなことを零した。

 直後、

「え?」

 意味もなく月を眺めていた私は思わず声をあげた。

 だって、窓の外は空があるだけで、そこに。

「人……?」

 浮いている人影を見てしまったから。

 月を背にしながら何もない空中に確かに人が、女の子がいて。

「っ!」

 目が、あった。

(え……?)

 遠くてよくわからなかったが笑ったような気がして、こっちに近づいて……

「っ!!?」

 窓をすり抜けて、病室へと入ってきた。

「へぇ、驚いてるってことはやっぱ見えてるんだ」

 そう口にする人は、よく見ると人ではなかった。

 月光を受けて映える長い銀糸の髪、幼さを感じさせる顔立ちの中、深紅の瞳は妖艶に光っている。

 それだけなら浮いてることや、壁を抜けたこと以外少女と変わらないが、人間にありえないものが二つ。

 背中には蝙蝠のような形状の翼と、細長く先端がハート型をした尻尾と思われるものがついている。

(夢でも見てるの?)

 さらに恰好も異常だった。トップスはフリルのついたチューブトップブラのようなものなく、ボトムスはショートパンツに露わになった太ももにガーターリング。

 それはまるで、ある西洋の悪魔を想起させる姿。

「うん、いい感じ」

 彼女は恰好に似つかわしくない無邪気な声としながら値踏みでもするように私をみて言い放つ。

 

「あたしはサキュバスのユニ。あなた、私に恋を教えて」

 

 ◆

 

 恋とは何か?

 ラブソングに小説、映画、漫画にドラマにゲーム。

 世の中には「恋」が溢れているのにその問いに明確な答えを出せる人間はいない。

 それはもちろん私、八神楓恋にとっても例外じゃない。

 本や、歌や、セリフや詩や行動や様々なことで恋を示すことはできるのだろうけど、それがどんなものかなんて説明はできない。

 きっと人類が存在する限り、恋や愛なんてものはこれまでもこれからも謎であり続けるんだろう。

 実際に恋をする人間ですらそう。

 まして、「人間以外」にはなおさら。

 

 ◆

 

 サキュバスを名乗った少女。ユニと出会ってから一年半ほど。

 高校二年の春。

「あの、八神さん」

 放課後、校舎の廊下を歩いていた私は見知らぬ相手に呼び止められる。

「……………」

 私はその相手を見ては顔をしかめる。

 そこにいるのはコルセットベルトのジャンパースカートに白のブラウスの制服を見に付けた少女。胸元の赤いリボンが同じ学年であることを示しているが、話した記憶はない相手。

「……話したいことがあるんだけどいい?」

 だが、その『見知らぬ相手』の顔が火照り、私を見る瞳には熱を帯びている。

「…………」

 こちらは名前もわからないのに、まるで恋するのような様子で私に声をかけてきている。

(……あの子、また)

 と、心で毒づくと。

「ごめん、行くところがあるんだ」

 邪険にしないで程度にあしらって、見知らぬ相手の前から去って行った。

 廊下で足音を立てながら向かったのは校舎の隅にある図書室。

 ドアを開けると学校では珍しい絨毯の床を早歩きで進み、奥の人気のない席へとたどり着く。

「ユニ」

 目的の相手が見えた瞬間に私はその相手の名を呼ぶ。

 一年半前に病院で出会った彼女の名を。

「あれ、楓恋ってばもう来ちゃったの?」

「さっきのはユニの仕業だよね」

「バレちゃった?」

「話したこともない相手があんな顔してくるなんておかしいと思うに決まってる」

「今日の子も好みじゃなかった?」

「そういう話じゃない。いつも言ってるはず。ユニの力で無理やり好きにさせても『恋』じゃないって」

 私がさっき顔をしかめたのはこういうこと。

 ユニはサキュバスという悪魔で、私はその契約者。

 先ほどの少女はユニの力で私に好意を抱かされていた。

「早く戻してあげて。ここまで追われちゃ困る」

「はーい」

 言うと、ユニはその場で浮き上がり浮いたまま窓をすり抜けていった。

「はぁ……」

 その様子を見てため息をつく。

「全く、いつになったら学ぶんだか」

 毒づくもこのこと自体には慣れている。だが、これからの事を思うとため息も出ようというもの。

 この後起きることは大体決まっているから。

「かーれん」

「っ……」

 いつの間にか再び窓をすり抜けてきたユニが私の目の前に立っていた。

「戻してきたよ」

 言いつけを守ったユニに冷めた視線で苦労様、と告げる。

「あーあ、無駄に力使ったからお腹減っちゃった」

「人間の言葉じゃそういうのは自業自得って言うね」

「ふーん? ま、いいや。言う通りにしたんだし、とりあえずご飯頂戴」

 さっきのは自業自得で……これはマッチポンプだ。教えても意味はなく、

「……好きにして」

 諦めた私は視線で回りに人がいないことを確認するとそう告げ、

「じゃ、いただきまーす」

 次の瞬間には唇を奪われていた。

「ん、ちゅ…んぁ」

 唇が合わさった瞬間、言葉にはできないような感覚が身体を駆け巡る。

 頭には靄がかかったようなのにユニの柔らかな感触は鋭敏に感じ、何より

(力、ぬけちゃ…う…っ)

 強烈な恍惚感と脱力感に襲われる。

「ふ……んん、っ」

 快楽の海をふわふわと漂っているような幸福と、少しの恐怖。

 何度しても慣れないこの感覚。

 もっと続いて欲しいような、早く終わってほしいような矛盾の中。

「ん。はぁ……ごちそうさま」

 時間にすれば長くはなかったはずなのに、実態以上に感じたサキュバスの食事……キスによる生気の吸引が終わると、ユニは濡れた唇を舌で舐めとる。

「はぁ…はぁ……学校ではあまりするなって言ってるはずだよ」

 体が重く今にも横になりたい気分だが、憎まれ口をたたく。それは定期的にキスをさせられる抵抗のようなもの。

「しょうがないじゃん。お腹すいちゃったんだから」

「余計なことをするからだと思うけど」

「だって楓恋がいつになっても恋を見せてくれないんだもん。教えてくれるって契約なのに」

 ユニのいう契約というのはあの病院での夜に結んだもの。

 対価の代わりに願いを叶えてもらうという悪魔との定番の契約。

 私が支払うべき対価は、今ユニが言った通り恋を教えること。

 それが何をもって果たされるのか知らない上に、そもそも言葉を尽くしたところで教えられるようなものじゃない。

(恋はするもの、じゃなくて落ちるものなんて言うし)

「私が恋をした所で恋を教えられるわけじゃないって、何度も言ったはず」

「そんなのわかんないじゃん」

 人間に期待できる理性や常識が通じないことも多く。

「一回の恋じゃ教えられなくてもいっぱいすればわかるかもでしょ? それに楓恋が恋するのを見るのだって楽しそうだし」

「…………ふぅ」

 普通の人間とは違った意味で恋に翻弄されるのが私の日常だった。

 

 ◆

 

 ユニとの契約はしているとは言え、私は人とほとんど変わらない生活を送っている。

 朝起きて学校に行き、一日の大半を過ごして、夕方になれば帰宅をして家で過ごす。

 学校では今日のようなことも起きるが、それも頻繁にというほどじゃない。

 基本的には普通の人間と変わらない。

「あーあ、いつになった『恋』のことがわかるんだろ」

(……普通っていうには無理があるか)

 一日の終わり、入浴を終え自室に戻った私はベッドに横になって漫画を読んでいるユニを見てそう思う。

 自分以外の存在。それも悪魔が部屋にいるというのは普通どころか異常そのものだ。

 さすがに一年以上一緒にいることもあり慣れてはいるけど。

「ほんとそればっかりだね。ユニは」

 自分のベッドということもあり遠慮なく上がり隣に腰掛けるとユニを見下ろし呆れて言う。

「だって、そのために楓恋と契約したんじゃん。病気だって治してあげたんだし」

「そのことについては感謝してるよ」

 私の対価が恋を教えることで、願いは今ユニが口にしたこと。

「けどね、人間なら誰でも恋をするはずだって思い込んで契約を持ちかけたのもどうかと思うよ」

「だって人間とまともに話すなんて初めてだったんだもん。ごはんだって夢に入り込んでしてばっかりだったし。はぁ…人間に騙されるなんて悪魔失格って言われちゃう」

「私のは騙したっていうか……」

 そこについては強くは言えない理由がある。

「あの時の私は入院ばっかりで自棄になってたんだ。それに正直、現実とも思えていなかった」

 悪魔こそ内容や対価を伏せて人間と契約するイメージだけど、この場合はユニは思い込みで、私は現実感を喪失したまま深く考えもせずにおいしい話に飛びついて互いに想定外の契約になってしまった。

「まぁ、互いに間抜けだったってこと」

「むぅ〜〜」

 いつの間にか手にしてた本をほっぽいて頬を膨らませるユニ。

 こういうところは人間と変わらない。それも幼い子供のよう。

(実際、そうだっけ)

 いつだったか生まれて数年とは言っていた。どうやって生まれるかはユニもよくわかってないみたいに言ってたけど。

「っていうか、人間なら誰でも恋するって思ってたのはそうだけど、それだけじゃなくて楓恋がモテそう思ったからだし。薄幸の美少女? って感じで。顔も綺麗だなーって思ったし、目は大きくて眉毛は長いし、手も足も細くて綺麗だし、おっぱいも小さいし。病院のベッドでなんかいかにもって感じだったんだもん」

 要は物語に出てきそうな病弱での女の子だと言いたいようだ。

 何でもサキュバスとか他の悪魔が住む世界があるそうで、ユニはこっちの世界に来るまで人間の恋愛小説を読み漁っていたらしい。

 そして、あの晩に私と出会いイメージと思い込みで契約を持ちかけてきた。

「治ったせいか、育つところも出たけどね」

 ユニのおかげで肉が付きサキュバスと契約したからか果てまたただの成長期か背と胸はそれなりに育ってしまった。

「それはそれでいいけど、性格は悪くなった気がする」

「それは元々だよ。病院にずっといていい子でなんていられない」

「むぅー…」

 どうやらへそを曲げてしまったようだ。唇を尖らせたかと思うと背中を向けた。

(機嫌を損ねたか)

 感謝をしてるのは本気なのにと心で付け加える。

 ユニと出会う前の私は自分の人生に絶望していた。

 得体の知れない悪魔と内容もちゃんと聞かずに契約してしまうほどには。

 契約したことで人には見えない同居人が出来たことはそれなりに大変だけど。

 他人には見えない存在との同居の大変さユニへの食事など不都合はあれどあの病室から連れ出してくれたことは感謝してもしきれない。

「申し訳ないとは思ってるよ」

 謝罪になるか知らないが、子供をなだめるように頭に撫でた。

「そう思うなら、恋のこと教えてよ」

「それは……難しいね」

 ユニの望みを叶えるには様々な障害がある。

 まず私は恋に興味はない。

 恋愛小説やライトノベルも読めば、ドラマや映画も見るし、漫画やアニメ、ゲームでも触れる機会はあれど別に私自身恋がしたいわけではない。

 しかも病院生活が長すぎた影響とユニが一緒ということもあって友達すらいない。

 恋を教えるには最悪の部類に入るタイプだ。

「はぁー。恋ってどんなんなんだろ」

 そっけない私を相手にはせず、先ほどまでの漫画の続きを読むユニ。

「そんな気になるものなの?」

「だって、人間の本で初めて「恋」っていうのを知った時、すごく不思議って思ったもん。その人の事しか考えられなくなるってどんな感じ? 恋すると世界が輝くってどういうこと? 好きって想うだけで胸が暖かくなるって何? キスでお腹じゃなくて心が満たされるってどういう意味? 少しも離れたくないってなんで? 恋と愛って何が違うの?」

「……まぁサキュバスには難しいイメージはあるね」

 私も恋をしたことなどないが、ユニが恋を理解できないだろうということは想像できる。

「そうなんだよねー。悪魔同士で恋するなんて聞いたことないし、昔話なんかじゃ神とか悪魔とかが人間に恋したって話ってのもあるけど、ほんとかも知らないし。あたしみたいにサキュバスだと人間に恋なんてできないもん」

 私は契約者ということでユニの力は及んでいないが、サキュバスが人間と恋をできないというのはそうかもしれないという納得はある。

「人間と契約すれば恋のこともっと知れるって思ったのになぁ」

 切なげにそれを口にする姿には思うところがないわけじゃなく、また未知のものに憧れるというのはわからない話じゃなくて。

「んー、何?」

 再びあやすように頭を撫でた。

「……なんでも」

 恩を返したくはあっても具体的には何もできない私は今はただそうすることしかできなかった。

 変化をもたらす出会いが迫ってるとも知らずに。

 

 ◆

 

 ユニとは基本一緒でも常に私の周りに憑りついているわけじゃない。

 一定距離は私から離れることもできて、学校にいる時は授業中など邪魔なので適当に過ごしてもらっている。

 あんまり遠くに離れすぎることはできないらしいから多くはこの前みたいに図書室で気付かれないよう本を読んだり、街中をふらふらとしたりしているらしい。あとは先に家に帰って家族に気付かれない範囲で好きにしていることもある。

「と、いないか」

 放課後の図書室、私は奥まった人気のない席に来て呟く。

 ここはこの前もユニがいた場所。

 放課後は恋のきっかけの宝庫だと、ゲームか漫画のせいか変な知識を身に着けていてここで落ち合うことが多い。

 昨日漫画が途中になっていたし、家で読んでいるのかもなとそんなことを考えながら私は誰もいない席に座ってカバンから文庫本を取り出した。

 ユニがいないのだからこの場に用はないけど、たまの一人時間だし有効に活用させてもらおう。

「ふ、ぁ……」

 一つ欠伸をしてから手にした本を読み始める。

 ユニに勧められたライトノベル。何年か前にアニメもやり今度映画もやるからと予習しておけと言われて読み始めた本だが、これが中々面白い。

(もともとこういうのは私が勧めたのに)

 ユニは基本、直球な恋愛ものばかり見ていたらしいが私がアニメやゲームの恋愛を中心としたものじゃなくても恋はあると教えたら色々見るようになり今や私よりも見ているかもしれない。

 友人のいない私にとってもそういった話ができるのはありがたいことだが。

「くぁ……んっ」

 読み始めてから数ページしかたっていないが私は欠伸を繰り返す。

(……ユニには感謝してるけど)

「ん、ぁ……」

 これは契約の明確なデメリット。今日も昼休みにユニに食事を提供した。

 ユニへ食事の提供は不本意ながら快感ではあるけど、それに伴う疲労は受け入れがたい。

 なんでも契約をしてしまうとその契約者から摂取する決まりらしく、あの感覚とこの疲れとはユニがいる限りは付き合っていかなければならない。

(少しだけ、寝よう…)

 眠気はかなりのもので帰る気力もなく私は目を閉じすぐに眠りに落ちて行った。

 

 ◆

 

 起きたのは数時間は経った頃のようだった。

 自主的に起きたのではなく

「あ、やっと起きた」

 どうやら起こされたらしい。

「ん……ぁ?」

 顔をあげると寝ぼけ眼に少女の姿が映った。

「あぁ……えぇと…」

 制服姿の見知らぬ少女だ。

 ショートボブにリボンのついたカチューシャが印象的な小柄な女の子。

 胸元の黄色のリボンで後輩とはわかるが知らない相手。

「君は…?」

 寝ぼけ眼のまま問いかける。

「しがない図書委員ですよー。もう戸締りして締めなきゃいけないのに先輩が起きてくれないから困ってるだけの」

「う」

 言葉だけをとれば棘があるようにも感じるが、飄々と言ってることもあって嫌な感じはしない。

「ごめん。すぐに退散するよ」

「そうしてくれると助かります」

 名も知らぬ後輩にこれ以上迷惑をかけるわけにもいかず机に置いた本を取ろうとして。

「あ!」

 見知らぬ後輩が大きな声をあげた。

「これ、先輩も好きなんですか!?」

 私が手にしようとした本を取り、目を輝かせる後輩。

「私、アニメから入ったんですけどすごく好きで。ブルーレイも買ったし漫画も原作も集めてて。今度の映画も楽しみにしてるんですよねー」

「そ、そう。私も好きだよ。小説はまだ読んでる途中だけど」

「あー、そうなんですね。原作今すごく面白くなってるから期待していいですよ。にしても初めて好きって人にあったから嬉しいな。私の周り全然そういうの好きな人いなくて。ずっと誰かと話したかったんですよ。先輩…今度私と……あ、ってか何先輩ですか」

「あ、あぁ。八神だよ、八神楓恋」

「楓恋先輩ですか。私、真田小雪です。小雪でいいですよ」

「あ、っと……わ、わかった。こゆ、き」

 小雪と名乗る少女の勢いに押され、思わず言われるがままに返してしまう。

 この学校で名前で呼ぶ相手など一年過ごしていなかったというのに、出会ってわずか数分で名前呼びをしてしまった。

 なんというか私とは人種が違う感じだ。

 見た目もさることながら、人懐こい子犬のようとでも言えばいいのか。快活で人馴れなれしているのが見受けられる。

「それで楓恋先輩、今近くでコラボカフェやってるんですよ。今度一緒に行きません? 友達に誘っても興味ないとかいう子ばっかりで、一人でいってもよかったけどどうせなら話せる相手がいた方が楽しいし。あ、連絡先教えてください」

「ちょ……」

 距離の詰め方に困惑した私は経験のなさのせいもあってか小雪にされるがままにスマホを出して、連絡先を交換してしまった。

「よし、と。あ、そろそろほんとに締めなきゃ。今度連絡しますねー」

「あ……」

 何を返すべきかわからず、先輩も早く出てってくださいねーと言い残す小雪を見送り少し間その場で固まってから。

「……変な子」

 一番の感想を呟いて図書室を去ることにした。

 

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