にゃー。
「…………」
にゃー。
「………………」
……にゃあ。
「……………………」
…………にゃ。
「…………………………」
「…………………………」
パシ。
「った!? いきなりなにすんの」
部屋でなぜかにゃあにゃあ言うゆめを呆れ顔で見ていたあたしはいきなりそのゆめに頭を叩かれた。
「……私が猫の真似してあげてるのに、彩音が私のことバカにするから」
「別にしてないっつの」
「……そういう目、してた」
……つか、するでしょが。
「はいはい、ごめんなさい。で、それはそれとしてなんで猫の真似なんかしてたん?」
面倒なので謝りながらも内心では、あれで猫の真似のつもりだったのかと、バカにするというかあきれる。
「……美咲が、彩音は猫の方が好きって言ってたから真似してあげた」
「…………どうも」
……猫の方?
何その、よくわからない言い方は。猫の方って何と比べてんのよ。
「……でも、おかしい」
(おかしいのはあんただ、あんた)
「……彩音は猫苦手って言ってた。昔、猫にひっかかれて苦手になったって」
うん。それはその通り。
子供の頃、美咲と猫を追い回してたら気に触ったのかおもいっきりひっかかれた。それ以来猫はちょっと怖い。
「……でも、美咲は猫好きって言ってた……にゃ」
にゃ。ってあんたは……
ゆめはいまだに初志を貫徹しているつもりなのか、語尾ににゃとつけて、猫をアピール……してんの? これで? 語尾ににゃをつけりゃいいってもんじゃないでしょが。
ゆめってたまに、っていうかこういう「おまけ」だと特にかもしれないけど扱いに困るよ……
「……そういえば、猫が似合うとも言ってた…にゃ」
似合う? あたしが、猫? ……ネコ?
「……私はあんまりそう思わない…にゃ」
ネコの方が好き? ネコが似合う?
(……わけわかんない)
ま、いいやそのことは。
あたしはわかんないことはひとまず置いておいて、ゆめに向き直る。
「え〜と、まぁ、ね。ゆめ。美咲ってたまに変なこというじゃん。あんま、気にしないで、さ」
「……猫、嫌い…にゃ?」
「いや、嫌いっていうか」
あんたは猫じゃないでしょうが。
(……でも)
あたしはにゃーにゃーうるさいゆめを改めて考える。
「……どうかした……にゃ?」
この恥ずかしそうに一拍置いてからにゃって猫を演じてくれるゆめ。
しょーじき
(超可愛い)
このままハグして、ベッドに押し倒したいくら……じゃない! それは冗談として。
「猫はともかく、猫の真似をするゆめは大好きだから、今日はそのままで」
「……わかった、にゃ」
何を思っているのか知らないけど、こーんな可愛いゆめを拒絶することはないしね。
って、思ったんだけど……
「……代わりに、あとで私の言うこと聞いてもらう…にゃ」
「…………やっぱいい」
「……もう遅い…にゃ」
そうして、結局あたしとゆめの思う猫と美咲が言ったネコの齟齬に気づくことなく、不利な約束だけをすることになるのだった。