暗い、真っ暗な世界。

 何も見えることはなくて、代わりに頭の辺りをもぞもぞとされる。

 あたしはそれがくすぐったくて身を震わせるけど

「……動いちゃ、だめ」

 我がままなゆめお姉ちゃんからお叱りの言葉。

 一人で来いとゆめに要請されてゆめの部屋に来たあたしはなぜかいきなり目を閉じろといわれてベッドの上でそうしてるんだけど。 

 もぞもぞ。

 頭に何かされているみたい。

 なんだろ? カチューシャかな?

 あんまカチューシャを人にされるのとか経験ないけどたぶんそうだと思う。カチューシャにしては微妙に重くて確信はもてないけど。

なんでこんなのするのに目を閉じろなんていわれるんだか。

「もういい?」

 カチューシャをされ終わったみたいだからそう聞いたんだけど。

「……まだ、ダメ」

「はいはい」

 まだ何かするのか。

 チリン。

「?」

 ゆめがダメといってからすぐなにやら鈴の音。

 んでもって今度は首に何かを巻きつけられる。

 まぁ、首にするって言ったらチョーカーくらいしかないだろうけどね。音は首の辺りでしてるから、鈴のついたチョーカー?

 カチューシャに鈴のついたチョーカー……こんなことつけてどうするつもり?

「……んしょ。…ん、うん。」

 付け終えたと思われるゆめはその後に何か得心したようにうなづいた。

「……もう目、開けてもいい」

「はーい」

 と、まぁ目を開けたところで自分の姿が確認できるわけじゃないからとりあえずはまずはチョーカーと鈴を手で確認。

 やっぱ思ったとおりだ。

 んで、次は当然カチューシャを確認しようと……

(ん?)

 手を頭に持っていったあたしは何か妙な感触に首をかしげた。

 なにこれ? カチューシャはカチューシャでしてるみたいだけど、なんか上にふさふさしてて……三角っぽいのがついてる? しかも、左右? 両方に。

(これ……これって)

 やな予感ってわけじゃないけど……ぞわぞわとした感じが……

 あたしは今思っていることを確信に変えるためにベッドから降りるとゆめの机の傍にある鏡へと歩いていく。

「っ!!!

 そして、それを見た瞬間あたしの中にあったビジョンが視界と重なった。

「こ、これは………」

 長い髪の上に猫耳のカチューシャ、首には鈴のついたチョーカー。

 平たくのべるとまさに猫見たいな格好をさせられていた。

「……彩音」

「ちょっと、ゆめ……」

 ピロリロリン。

 なんでこんなものを付けさせられているのかと文句を言おうと振り返った瞬間なぜか携帯を構えているゆめが目に入った。

 ケータイに……今の音。

「ちょ、今、シャメしたの?」

「……うん」

 うん。じゃないっての!! こんなの美咲にでも見せられたら……

「ちょ! 消して!

「……ダメ。待ちうけにする」

「いやいやいや。やめてよ恥ずい」

「……すごく可愛いから大丈夫」

「話聞け」

 可愛いとかそういう問題じゃなくて恥ずかしいっていってんの! ま、まぁちょっと新鮮っていうか……ちょっといいかなって。ゆめに可愛いって言われれば悪い気はしないし……じゃなくて! 

「つーか、なんでそもそもこんな格好させんの」

「……この前は私がネコになってあげたんだから、今度は彩音がする」

「っ……」

 ネコになったってあんたはにゃあにゃあ言ってただけじゃん。こんな耳も鈴もつけてなかったでしょうが。

 あぁ、そういえばあの時今度は私の言うこと聞いてもらうとか言ってたっけ。これがそうってこと?

(………………)

 あたしは回れ右をしてネコになった自分を見つめてみる。

(んー)

 まぁ、この鈴はともかくこの耳はちょっといいかも。別に見られるゆめだけなんだし。これが美咲だったら色々からかわれそうだけど、ゆめだし。

 それに、ゆめのお願いがこれですむのなら変なことさせられるよりはいいか。

「はいはい。わかった、ここいる間はネコになってあげる」

 あたしはあきらめた、ってわけじゃないけどネコになるのを受け入れてゆめのところに戻ってベッドに座る。

「……よしよし」

 それが嬉しいのかゆめはあたしの頭をなでなでする。

「っていうかさ、チョーカーはともかくこの耳はどこで手に入れたわけ」

 パシ。

 何が気に食わないのか撫でていたのが一転してはたかれた。

「……ちゃんとにゃっていう」

「はいはい、わかったよ」

 パシ。

「わかった、にゃ。んで、どこで手に入れたの……にゃ?」

「……澪がくれた」

「って、み、澪が!?

 パン!

 忘れるとゲンコですか。

(あー、めんどうな子だ)

「み、澪がくれたのにゃ?」

「……うん。代わりに写真とってきてって」

「さっきのはそういうわけ、にゃ。み、澪だけにしてにゃ。美咲には絶対に見せないでにゃ」

「…………考えておく」

「って、確約してよ……確約してにゃ」

「……ちゃんと私の言うこと聞いたら黙っててあげる」

「にゃ〜……」

 あぅ。なんか今自然ににゃ〜ってうなだれたような。

「それで、何すればいいのかにゃ?」

「…………………」

 なんでそこで首をかしげる。

「まさか考えてなかった、のにゃ?」

「……………………………………」

 図星なんだろうけどそれを認めるとあたしにバカにされるってわかってるのか、ゆめは何やらふかーく考え込む。

 そして、考え出した結論は

「………………お手」

「……………」

「……………」

「……………」

「…………………………………お手」

(続けるんかい!

 いや、別にやってあげてもいいんだけどさ。なんかこの鈴つけてお手なんかさせられるとゆめの飼い猫って感じがして負けたような気分になる。

 ま、でも今日はゆめの言うこと聞いてあげるって約束だしにゃ。

「にゃ」

 あたしは素直にゆめの差し出した手に右手を乗せた。

「……いい子」

 あたしが素直に言うことを聞くのが満足なのか、嬉しそうにあたしの頭を撫でる。

「ふにゃあ」

 ま、ここはちゃんとネコになっておかないと美咲にばらされちゃうし。

「……おかわり」

「にゃ」

「……よしよし」

 今度は右手で頭を撫でて、左手は首筋をくすぐってくる。

(…………)

「にゃぅ…」

 あ、何かゆめにこうされるのって悪くないかも。

 ナデナデ、ごろごろ。

 ゆめに撫でられたりなんかあんまりないし、首のところもくすぐったいけどそれだけじゃなくてなんか、心地いいっていうか……

「ふみゃあぁ」

 ゆめの小さな手が頭を撫でてくれるのも……細い指であごと首の間をくすぐってくれるのもなんだか妙に気持ちよくて、あたしは自然に甘えた声を出してゆめに体を摺り寄せた。

 顔、赤くなってるかも。何か美咲にいじわるされてるときと似たような気持ちに……

(も、っと……っ!?)

 って違う違う! これはあくまでゆめのお願いを聞いてあげてるから忠実にネコのまねをしてるだけで。

「あ………」

 あたしがよくわからない葛藤をしている間にゆめは手を引っ込めた。

「……?」

 あー、あたしが妙の声を上げたのを明らかに不審がってる………。

「……もっとして欲しかった?」

「う、ううん! んなわけないじゃん! ……にゃ」

 そ、そう。ゆめに撫でられて気持ちいいなんて一時の気の迷いなんだから。

「………そう」

 ゆめはあたしの言い分にはさほど興味がないのかまた黙って考え事。まぁ、さっきのお手でもわかる通りゆめはあたしをネコにはしてもその先は考えてないみたい。

「…………牛乳飲む?」

 不吉な要請が……

「それは……どんな風にかにゃ?」

「……お皿に入れてあげる」

 あー、はいはい。つまりそれはあれでしょ? 本物の猫がミルク飲むときみたく床にはいつくばってなめろとおっしゃるんでしょ?

 あー、そうだよねー。猫ならそれは当然かもねー。だけどさーあたしは猫のまねをしてるんであって猫じゃないわけだからね。

「…………………………」

 以上を無言で訴える。

「…………………………やだ?」

「ぜっっっったいヤダ。……にゃ」

 できることとできないことがあるっつの! いくらなんでもあたしはそこまでプライドを捨てられない。

「……じゃあ」

「つか、考えてないのにゃら無理にしなくていいんじゃないのかにゃ?」

 フルフル。

「あ、っそう」

 何であたしをそんなに辱めたいのよ〜。

「………………」

 あー、またなんか見てるよ……さっきのから考えるにまたろくでもないこと考えてるんだろうなぁ。

「にゃ〜」 

 ベッドの座ってたあたしはゆめの要求を待つのに疲れてベッドに仰向けに倒れこんだ。

 ほんとなんでゆめはこんなにあたしをいじめようとするんだか……

「………………」

 そういや、昔からゆめってあたしのことをいじめるっていうか、妙なことさせようとするの多かったな。お姉ちゃんぶりたいんだから知らないけどさせられるほうの身にもなってよ。……まぁ、猫耳と鈴はともかく猫にはこの前ゆめがなったんだけどさ。

 でも、あんときはにゃって言うだけだったんだからそれを考慮してゆめももうちょっとソフトに

「………………………脱いで」

 …………ソフト、に……。

 聞き違いだと思いたいんだけど……

「……猫は服なんて着ない」

 あぁぁあ、やっぱ聞き違いじゃなかったみたい。

「ってゆめ! 何すんの!?

 あたしが意味不明な要求にうなだれているとゆめは容赦なくあたしの服に手をかけてめくってきた。

「ちょ、ゆめ! や、やめ……」

「……脱がせてあげる」

 ち、力入ってるよ。ほ、本気……?

「……優しくしてあげるから大丈夫」

 あたしはなんとか脱がされないように抵抗するけど、こう覆いかぶさられている上に下が柔らかいベッドじゃうまく反撃できない。

 そうこうしている間に服は徐々にめくれ上がってきて、もう半分くらいは肌が見えちゃってる。

「あ、ん……もぅ……やめ………ろっての!!

 パン!

 仕方のなかったあたしは結構本気でゆめの頭を叩いた。

「……いたい」

 と、ゆめも素直にやめてくれて変わりに恨めしそうにあたしをにらむ。

「……叩くなんてひどい」

「あんたがあんなことしてくるからでしょうが」

「…………冗談だったのに」

「冗談って……」

 だから、よくわからん冗談はやめろといつも……それに冗談にしては力がこもってたような気がするけど。

「と、とにかくこんなことするならもうやめるにゃ!

 あたしは起き上がると乱れた衣服を直しながら一喝。

 ってこんなときまでなんで忠実に猫になってんのあたしは。

「……わかった」

「にゃ? やめていいのかにゃ?」

「……普通にネコになってればいい」

「にゃ〜。わかったにゃ……」

 まぁ、こうやってにゃって言うだけならいっか。

 その後はゆめの言葉通り普通にネコになって恥ずかしい時間をゆめと過ごしたのだった。

 

 

1/おまけ

ノベル/Trinity top