好きだと気づいてから、穂乃果のことばかりを考えるようになった。

 好きだと気づいてから、穂乃果のことを目で追うことが多くなった。

 けれど、私の穂乃果との間にある壁の大きさに気づいた。

 壁の前で立ち尽くす私はことりや海未に嫉妬する醜い自分を知った。弱い自分を知った。

 海未やことりと一緒にいる穂乃果を見たくない、ううん私以外と一緒にいて笑う穂乃果を見たくない。

 でもそんなことはもちろん無理で、穂乃果はいつでも誰かと一緒で、楽しそうで嬉しそうで………

 恋をした私はいつしか好きな人を避けるようになっていた。

 

 

「今日はみんなでどこか寄り道していかない?」

 ある日の練習の後。部室で練習着を着替えていると穂乃果がそんなことを言いだした。

 これ自体それほど珍しいことじゃなくて、今日は穂乃果だけど凛やたまにエリーが言って来たりもする。

 スクールアイドルとはいえ私たちはまだまだ遊びたい盛りの年頃で、基本的に断るメンバーはいない。

 まして私からすれば好きな人からの誘いと言ってもいいもので普通なら断る理由はない。

(あくまでも、普通ならよ)

「私はパス」

 皆が口々に参加を口にする中私は一人反対の言葉を述べる。

「えー、真姫ちゃん今日もなのかにゃー」

 こういう時一番初めに行ってくるのは大体凛。天然なのか知らないけど、自分の思っていることをあっさりと口にできてある意味うらやましいと思う。

(……凛の半分でも素直になれたらいいのに)

 そうしたら、穂乃果にだって………

「用事があるの。仕方ないでしょ」

 これは嘘。最近こんな嘘ばっかり。

 用事がある。先生に呼ばれてる。体調が悪い。

 そんな言い訳ばかりをしてμ'sのみんなから、穂乃果から離れようとする。

 情けないし好きな人からわざわざ自分から遠ざかろうとすうなんて滑稽だけど、嫌な自分を見たくなくてそうしてしまう。

「あ、じゃあ他の日にする? 真姫ちゃんの都合のいい日にしよ。みんなもそれでいいよね?」

(っ。人の気も知らないで)

 穂乃果はいつでも穂乃果。

「い、いいわよ。私のことなんて気にしないで。じゃあ、もう行かなきゃいけないから」

 それが今の私にはつらくて、カバンを持った私は早足に部室を出て行った。

 そのまま帰る気にはなれなくて私は結局いつもの場所に足が向かう。

 いつもの場所。

 穂乃果と出会った場所、穂乃果を好きと気づいた場所。

 音楽室に。

「はぁ………」

 ピアノのイスに座ってさっそくため息。

 こういう時こそピアノを弾いて気分を紛らわせたいのに鍵盤の蓋すら開けずに指でなぞって

「……何してるのかしら、私」

 沈んだ声を出した。

 穂乃果のことを好きなくせに、してることは好きな人へするのとは正反対のことばっかり。

 好きなのに一緒にいられない。好きだから一緒にいたくない。

 穂乃果は私の穂乃果じゃなくて、みんなの穂乃果。

 そんなのは今更じゃなくて最初からわかっていること。

 私の穂乃果になって欲しいのに、そのために何もしないどころか穂乃果を避け始めている。

 しかも

(今頃……みんなとどこか行ってるのかしら?)

 穂乃果は、笑ってるの?

 そんな想像が簡単にできてしまって、今度は行かなかった自分に自己嫌悪。

(……穂乃果に会いたい)

 自分が避けておいて結局はそれが本音で

「…………はぁ。穂乃果」

 また癖のようにため息をつく私は

「なーに?」

「うぇえ!?」

 予想外の返事に驚くことになった。

 

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