私、橘悠里は幸せ者って思う。
思うだけじゃなくて実際幸せ。
学校は楽しいし、友達もいっぱいかどうかはわからないけどそれなりにはいるって思うし。親友って呼べる友達もいる。
それに、家族とだって仲がいい。
幸せなのは間違いない。
ただ……
「ん……ん、うっん」
頭の中にもやっとした雲がかかったような気分。
「ん、は……む、ぃ」
それは時間がたつごとに少しずつ晴れていって
「ん……ふ、はぁ…」
私はまどろみの中、どうにか朝の空気に満たされた部屋で目を覚ました。
(ん……今日も、いい天気みたい)
横向きに寝てたから丁度窓が見えて、カーテンの裏からでも強い太陽の光がわかった。
早く起きなきゃ。ベッドから出て、顔を洗って、着替えて、身支度を整えて、それから……
(けど、その前に)
私は背中にぬくもりを感じて……また……って思った。
「美奈お姉ちゃん!!」
私はぐるりって体を回転させて大きな声を出した。
「おはよ、悠里ちゃん」
そこにはくりっとした大きな目とショートカットの髪が特徴の女の子、……私のちょっと困ったお姉ちゃんがいた。
「もぅ〜。また勝手に……」
「違う、違うの」
「もう何が?」
「別に悠里ちゃんのベッドに忍び込んだわけじゃなくて、朝練行く前に悠里ちゃんの顔が見たくなっただけなの」
「……ベッドで寝てるけど?」
「だって、悠里ちゃんが寝てるの見たら我慢できなくなっちゃって」
「……はぁ」
私は困った顔でため息をつくけど、半ばあきらめてもいる。
だって、こんなのよくあることだもん。
美奈お姉ちゃんはいつも勝手に私のベッドにもぐりこんでくる。それが朝だったり、夜だったりするけど私は寝ちゃってたりするから駄目っていえないし、起きてる時でも駄目って言っちゃうと美奈お姉ちゃんはすぐ落ち込んじゃうからあんまり怒ったりしない。
「もう、練習あるんでしょ? 大丈夫なのこんな時間まで……」
呆れたままベッドから出て美奈お姉ちゃんを注意する。
「ん、ちょっとやばい」
「じゃあ、早くしなきゃ」
「わかってるわよー。でも、その前に……」
美奈お姉ちゃんも私のいないベッドに用はないからすぐにベッドから出ると
「ぎゅーーー」
「っ! お、お姉ちゃん!!?」
力いっぱいに私のことを抱きしめてきた。
美奈お姉ちゃんはテニス部で運動してるだけあって、小学生の私じゃお姉ちゃんを振りほどくなんて出来ない。
「悠里ちゃんの体やらかーい」
「な、何してるの、お姉ちゃん!」
「じゅうでーん。悠里ちゃん分を補給しないと部活なんていってらんなーい」
「っ〜〜〜」
抱きしめられるのが嫌なわけじゃないけど、やっぱり恥ずかしいしよぉ。朝からこんな……
「ぎゅーー」
しかももう一分くらいしてるし……
「お姉ちゃん! ほんとに遅刻しちゃうよ」
さすがに注意しなきゃって思った私はしかるようにいった。
「はーい。まだ半分くらいしか補給できてないけど、しょうがないか」
本気にもふざけてるようにも聞こえるようにいって美奈お姉ちゃんは私から離れると、部屋から出て行こうとした。
「あ、悠里ちゃん」
けど、ドアの隙間からぴょこって顔をだして
「行ってらっしゃいのちゅーは?」
「………お姉ちゃん!」
「はーい。いってきまーす」
美奈お姉ちゃんは最後にそういって今度こそ出て行くと、ドンドンを階段を下りていってちゃんと玄関も開く音がした。
「はぁ……まったくもう」
めずらしいことじゃないからもう慣れてるけど、やっぱり……
「はぁ〜」
って感じ。
ただ、いつまでも呆れてるわけにはいかないから気を取り直してまず顔を洗おうと部屋から出て行って
「あ、そうだ」
階段に行くまでにある部屋の前を通りかかった私は思い出したようにつぶやく。
それから軽くノックをして
「紗奈お姉ちゃん? 入るよ?」
返事がないのは予測したまま私は部屋の中に入っていった。
まず部屋の何よりも目に付く二段ベッドに近づいていって、下段に寝ている美奈おねえちゃんの双子のお姉ちゃんが、私の一番上のお姉ちゃんがいた。双子だからほとんど同じ顔なんだけど、髪はスポーツしてる美奈お姉ちゃんと違って、肩くらいまでの私よりも少し長い。
「紗奈お姉ちゃん。朝だよ、起きて」
部活動で早くいく美奈お姉ちゃんと違って紗奈お姉ちゃんは何にも予定がないからいっつもぎりぎりまで寝てて困っちゃう。
だから、こうして私が起こしてあげなきゃいけないの。
「お姉ちゃん。起きてってば」
「ん、ん〜〜。わかってるわよー」
夢の中にいることも多い紗奈お姉ちゃんだけど今日は目は覚めているみたい。
「ほら、早く起きなきゃまた御飯食べる時間なくなっちゃうよ」
「ん〜。だいじょうぶ、だいじょうぶ……」
「昨日もそう言って、食べられなかったでしょ! ほら……きゃっ!?」
ボフン。
もう一回紗奈お姉ちゃんの体をゆすろうとしたけど、近づいた私の腕を捕まれてベッドに引き込めれちゃった。
「お、お姉ちゃん」
美奈お姉ちゃんよりもちょっと小さな胸を体に押し付けられて私はまた恥ずかしさ顔を染めた。
「ん〜、後三分、ううん〜、後二分三十……二十五秒でいいから〜」
「わ、わかったけど離してよ〜」
「やだ〜。悠里と一緒じゃないと意味ないもん〜」
「もぅ〜〜」
ぎゅってベッドの中で抱きしめられた私は観念してお姉ちゃんのしたいままにさせた。
私はお姉ちゃんたちよりも少し遅くていいからこうしても大丈夫だけど、こんなことして困るのはお姉ちゃんのほうなのに。
呆れちゃうけど、こういうのも珍しいことじゃないから慣れちゃってる。それにお姉ちゃんたちって二人ともいい匂いがするから本当はこうして抱きしめてもらうのは嫌じゃないの。
これをお姉ちゃんに言うといつでも抱きついてきちゃいそうだから言わないけどね。
こんな感じで毎日を送ってる私はやっぱり幸せ者だって思う。
思うけど、
「悠里〜。可愛いー」
むぎゅってお姉ちゃんの体に押し付けられながら、やっぱり二人の大好きなお姉ちゃんに困らせられるのも本当だった。