「……ねぇ、玲菜?」
事がすんだ二人は下着だけを身に着けた姿でベッドに並んで座り体を預けあっていた。
火照りの収まった体だが、触れあう肌が妙に暖かく不思議と心を落ち着かせていた。
「なんだろうか?」
茉利奈も玲菜も相手を見てはいない。ただ、体を預け、心をまじ合わせている。
「……香里奈ちゃんのこと好き?」
その瞬間一瞬茉利奈は玲菜に視線を送り、自分の腕を玲菜の腕に絡ませた。
「………あぁ」
玲菜は間があったものの迷いなく答える。
「……そう」
自分以外の相手を好きという、その答えに満足を覚える自分を不思議に思いながら茉利奈は玲菜を見つめた。
「私のことは?」
「好きだ」
「…………………私も、貴女が好き」
香里奈の姉ではなく、一人の人間として茉利奈は自分の気持ちを伝えた。
それは短な言葉だがこの十年以上茉利奈が諦めていたこと。その秘めた気持ちを開放することは茉利奈にとってなによりも尊い出来事だった。
その自覚が玲菜への気持ちを高め、すべてを託すかのように好きな人へ体を預け、安心したような笑顔を見せる。
「玲菜はこれからどうするの? 香里奈ちゃんとのこと」
「香里奈との関係を終わらせるつもりない。私を救ってくれたのは香里奈なんだ。幸せにしたい思っている」
「……そう。それなら安心だわ」
寂しさを抱えながら姉の顔に戻る茉利奈。その答えは予想し、望んでいたものでもあったから。今が過ちであるという認識が茉利奈にはある。
(……結局ここまでかぁ……)
初めて好きになった相手。初めてキスをした相手。初めてを捧げた相手。
それが優しさにすがった結果だとしても、茉利奈にとっては大切な思い出で、何よりの歓びをもらったのだから。
「………………………」
瞳の奥が熱くなり、涙が溢れそうになるが必死にそれをとどめる。
ここで泣いてはまた玲菜に甘えてしまう。玲菜の優しさを入りこませる隙を作ってしまう。
「だが……貴女のことも失いたくはない」
「え?」
「貴女を守りたいと、幸せな笑顔をして欲しいと思う気持ちにも偽りはない。香里奈を大切にしたい思うのと同様に貴女のことを私は思っている」
二股かけると宣言されているようなものだったのに、玲菜の言葉には不純が一切見当たらない。
どちらも同じように愛していると本気で玲菜は言っている。
「このままの関係を続けたいと願うのは…………貴女への背信になるのかもしれない。だが、私は貴女を……繋ぎとめたいんだ」
それは通常であればとても許されるべきことではない。
だが、それを望むのが玲菜でそれを受け止めるのが茉利奈であるという一点が普通でない結果を開く。
「……玲菜………」
茉利奈は自分の中で玲菜への想い傾斜が深くなるのを感じながらも、それでも頷けずにいた。
自分の欲を一番に考えていいということを知らずに生きてきたから。すべてを抑え込み妹のために生きてきたから。
「茉利奈……」
そして、玲菜には茉利奈の気持ちがわかってしまう。同じではないが、玲菜もまた自分以外の相手のことを優先して生きてきたから。
茉利奈の気持ちをわかるからこそ玲菜は
「っ……! れ、な……?」
再び茉利奈を強く抱きしめた。茉利奈が自分から離れて行ってしまわないように。
「好きだ。茉利奈。これからも私の隣にいて欲しい」
触れあった肌の温もり以上に暖かな言葉で愛を伝え、頑なな茉利奈の心へと手をかけた。
「……………玲菜……」
茉利奈は別れるためにこの場所に来たはずだった。だが、玲菜に心を見抜かれ閉じ込めようとしていた心の扉に手をかけられてしまった。
姉としての矜持が固く鍵をかけていたはずの心は玲菜の想いによりほだされ想いを解き放とうしていた。
「……私も、貴女が……好き。貴女の隣にいたい。これからもずっと貴女と一緒に……」
「あぁ……」
想いを伝え合い、見つめあう。
愛しい相手を映す瞳は互いに潤みながらも喜びに輝いている。
「愛しているわ、玲菜」
「私もだ。愛している、茉利奈」
自然と相手を求めた手と手が絡みあい、茉利奈はゆっくりと瞳を閉じ玲菜から距離を縮めていく。
「……ん」
そして再び二人が重なった。
許される関係ではないかもしれない。背徳に満ちた関係かもしれない。
だが、間違いなくつながった心が二人を祝福していた。