(……………………)
彩音の部屋でゆめは珍しく首をかしげていた。
あまり見ることのない光景が広がっていたから。
「彩音」
「ん?」
「呼んだだけ」
「そ、そう?」
ベッドに座って本を読む彩音とその彩音の腕を抱きしめて体を寄せる美咲。
これまでそういうことが皆無だったわけではないが、ほとんど見ないものだったしそもそも美咲の雰囲気がこれまでとはまるで違うように見えた。
笑顔の質が違うと言えばいいのだろうか。いつもは表情の中にどこか冷めたものがあったのに今はそういうものが一切感じられなく彩音への好意が余すことなく表現されている。
「……むぅ」
二人にはたまにこういうこと、自分の知らないところで二人の絆が深まっていることがあるということは経験していたが今までとはわけが違う気がした。
「彩音……」
「ん?」
「す〜き」
「っ……ちょ、いきなり」
「何? 何か問題あるの?」
「問題は、ないけど……」
「ならいいじゃない」
言って美咲は彩音を抱く腕に力を込めて、彩音の頬に自らの頬をこすりつける。。
「……………」
それを見つめるゆめの心中は当然ながら穏やかではない。
もともとゆめは美咲とは違う形で独占欲が強い上に、寂しがりだ。これまでも二人の絆が強くなるたびにやきもちを妬き自分にもそれを要求してきた。
そんなゆめが今の状況を虚心になって受け入れられるわけはない。離れろとは言わないのでゆめではあるが、不機嫌になりながらベッドに近づく。
「……なんで今日は二人ともいちゃいちゃしてる」
「あー、いやなんでっていうか……」
「私がしたいからしてるのよ。彩音はいつでもいいって言ってくれるし。彩音だって私にこうされたら嬉しいわよね?」
「ま、まぁ、ね」
若干戸惑い気味の彩音に、どこか得意げにすら見える美咲。
(??)
美咲がこれまでにない感じだというのはゆめも気づいたがその理由はわからず、ただ目の前の現実のみを見つめることにした。
「……なら、私もそうする」
「へ?」
珍しくはっきり頬を膨らませてゆめは美咲の反対側から彩音の腕を取ってぎゅっと握りしめた。
「いや、あの……動けないんですが……」
彩音の言うことはもっとも。二人にしっかりと腕を抱きかかえられてはまともに動けるはずはない。
「そんなのどうでもいいじゃない。彩音は私とこうしてる方が幸せでしょう」
「……私に抱きしめられてるんだから嬉しく思え」
「いや、幸せとか嬉しいとかそういうことじゃなくてだね。……あー、まぁ、いいや」
言いたいことはあるのだろうが彩音はなぜこうなっているかを理解し、満足に動かせない腕で読んでいた雑誌を閉じる。
「好きにしてよ」
そして諦観して二人に身を任せて行った。
その夜。
「……ふむ」
彩音は深夜のベッドで両脇で寝息を立てる二人の恋人を見て小さく頷く。
(さすがに今日は疲れたな……)
まさか美咲があそこまで変わるとは……一時的なものかもしれないけどここまでになるとは思わなかった。
ゆめが来る前からほとんどくっついたままだったし。
いや、もちろん嫌じゃないというかむしろ嬉しいんだけどさ。大変と言えば大変。
ましてゆめが対抗していたりするから今日はかなり疲れた。
「ったく、こんなんじゃ色々もたないって」
あたしは口ではそう言いながら笑顔で二人のことを交互に見つめた。
「…………」
それから二人には見せないような真面目な顔になる。
「……あんたらが思ってるほどあたし……バカじゃないつもりなんだけどね。……けど、そうしないと………ね」
抑揚を抑えながらそれを言ってからまた二人を見つめると
「………おやすみ」
と二人にキスをした。