多分、珍しい光景だろう。

 それも彩音すら(彩音だからこそかもしれないけれど)ほとんど見たことないような状態で私たちはゆめの用意したクッキーを食べている。

 どんな状態かと言えば完全に密着した状態。

 ベッドを背にして座り、私の膝の上にゆめを抱えている。

 私からこうしたのだけどなんでそうしたかと言えば、なんとなく。

 この小さなお姫様を愛しく思ったから。

 彩音とは違う甘い香りと子供のように熱を持った体。

「はい、ゆめあーん」

 それらを感じながら私はクッキーを手に取るとゆめの口元に持っていく。

「……あむ」

 ゆめは差し出されたクッキーを頬張ると無表情の中に嬉しそうな色を混ぜて咀嚼していく。

(ハムスターとか、リスっぽいわよね)

 見た目もさることながらその小動物みたいなオーラになおさら愛しく思って抱く腕に力を込める。

「……?」

 ゆめは私がなぜこんなことをしているのかまでわかっていないだろうけど、私に抱かれるのが嫌なわけはなくおとなしく私の腕の中でされるがままとなる。

(ったく。何考えてんのかしらね)

 少し前とは異なり好意的にそれを思う。

「……美咲? なんで機嫌いい? そんなにクッキー好きだった?」

 この何も考えていないような発言を聞く限り私の複雑な心の裡をわかっているとはまるで思えないけれど、そういうところもこの子の魅力ということにしてあげよう。

「それはきっかけに過ぎないわよ。機嫌いいのは本当だけれど」

 いちいち説明するのは恥ずかしく私は言葉を濁すけれど、その中で少しいたずらを思い浮かべ、「そうだ」とゆめに声をかける。

「機嫌いいついでに一つ面白いことを教えてあげよっか」

「……何?」

「私あんたのこと嫌いだった時期があるのよ」

「………………??」

 あっさりと告げた衝撃の事実にゆめは長い沈黙のあと心当たりがないとでもいうかのように首をかしげた。

「……なんで? 私なにかした?」

「さて? けど、あんたのことを好きになったのもその頃ね」

「……話せ」

 ゆめは振り返りながら私を見上げ、強い口調で訴えかけてくる。

 けれど、

「うーん……どうしようかしらね」

 私は焦らすようにそう言った。

 それは私の秘密。彩音にすら内緒の私だけの思い出。

 いつかは話すかもしれない。

(でも……)

「ま、そのうちね」

 今はまだ私の胸の裡のとどめておこう。

 

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