私は彩音のことを愛してはいる。

 いや、すべてを差し置いて彩音が好きだ。

 もちろん彩音には欠点も多くある。

 節操がなかったり、好き嫌いが多かったり、人の気持ちに鈍感だったり。かと思えば必要以上に敏感だったり。

 けれどその辺は本当に小さい頃から一緒で慣れていると言えば慣れている部分もある。

 今更この私がそんなことで彩音に対して不穏当な感情を抱いたりはしない。

 私が最近気にしてしまう部分と言えば、ゆめに対する態度だ。

 あぁ、別に彩音がゆめにばっかり手を出して〜とかそういうことを言いたいんじゃないわよ。

 まぁ、それはそれで気にはなるけどそういうことじゃなくて、一緒に住むようになってから彩音のゆめに対する節操のなさが若干気になる。

 ゆめもそのこと自体を嫌というわけではないのだろうけど呆れている部分もあるのか最近少し行動に変化が見られるようになった。

 

 ◆

 

 それはよく晴れた日の午後。

 お昼を取り終えた私と彩音はリビングでだらだらと過ごしていると、そこにお昼の片づけを終えたゆめがやってくる。

 私と彩音はソファの端と端に座っていて、ゆめは私達を一瞥し近づいてくる。

 今までだったらゆめは彩音のところに行くことが多かった。そしていちゃいちゃとしはじめて私をいらいらとさせてくれるパターンが多かったのだけれど、

「ゆめ、おいでおいでー」

「…………ん」

 ゆめは呼ぶ彩音の前を素通りして私に腕の中へとやってきた。

「ちょっとなんで美咲のところ行くのー」

 彩音の言葉に私も同じ疑問を持つ。

 これまでなら当たり前のように彩音のところに行っていたのに。

「………彩音はすぐ変なことするから」

(なるほど)

 確かに彩音は本当に節操がなくゆめの言う【変なこと】を特にゆめにはしがちだ。それもゆめが拒絶するわけないことを理解して調子に乗る。

 彩音が自覚しているかまではわからないけれど自分が愛されていることはわかったやり方だ。

 何をされかは知らないけど、彩音は調子に乗ってゆめを怒らせたらしい。

「う……。この前のことはしょうがなかったんだって」

「……あれのどこかしょうがない。いきなりしてきたくせに」

「やー、だってなんていうかさー、流れっていうか、あんまりゆめが可愛かったから抑えきれなかったっていうか、とにかくしょうがなかったんだって」

「……言葉だけ聞くとあんたが最低だって感想にしかならないんだけど」

 わざわざ確認することでもないけど、たぶん二人きりでいたらそういう気分になってゆめの了承なんて取らずにしたってことだろう。

(……最低ね)

 こういうところが彩音はさすがに反省も改善もしてほしいところだ。

「……だ、だからって美咲のところに行くことないじゃん。美咲の方こそ意地悪だしさ」

「心外なこと言ってるんじゃないわよ」

「……美咲は確かに意地悪だけど彩音みたいなことはしない」

(……これは信頼されているのかいないのか)

 素直な性格ではないことは認めるけれど意地悪、とはね。

 とはいえ、ゆめが私の元に来てくれるのはそれはそれで嬉しいことだ。

 彩音への気持ちと同じようにゆめのことも好きなんだし、そのゆめがいつもいつも彩音に取られていては面白くはないものね。

「ま、何があったは聞かないけど、彩音なんて放っておいてたまには私と仲良くしますか」

 私はそう言ってゆめを引き寄せると抱きかかえるようにしてゆめに腕を回した。

「……うん」

 ゆめは私を受け入れるかのように私へと体重をかけてくる。

「むぅ」

 それが面白くないのか彩音はそんな風に唸るけれど、私が彩音の立場になることも多いんだしたまにはそういうのも味わいなさいよ。

 と、心の裡で想いながら彩音に見せつけるようにゆめを抱く腕に力を込めて視線を送る。

 そうして私はゆめを抱きながら適当にゆめが宮月さんに借りたというアニメを流している。

「はい、ゆめあーん」

「……あーん」

 どうやら全話借りたという話でもう何時間か流しながら。お茶をのみお菓子を取る。

 そうしていると

「二人ともいちゃいちゃしすぎなんだけど……」

「そう? これくらい普通よ。ね、ゆめ」

「……うん。だからもっと頂戴」

 私たちは片時も離れず親密にしているのが気に食わないのか彩音が不満を垂れるけどそんなの相手になんてしてられない。

 たまにはゆめを独占するのだって悪くないから。

 ついでに言うのなら彩音が嫉妬してくれるのもね。

「いいよ、二人で仲良くしてればいいじゃん。あたしは出かけてくる」

「あ、ならついでに夕飯の買い物お願いね」

「今日はあんたの当番でしょが」

「だってほら、私はゆめとこうするのに忙しいもの。ねぇ、ゆめ」

「……うむ」

 私がゆめを抱き寄せ頬ずりするとゆめも満更でもなさそうに私の腕を抱いた。

「あっそ! ならずっとそうしてればいいじゃん」

 なんて彩音は怒って出て行ってしまう。

(たまにはこういうのもいいわよね)

 彩音の普段あまり見せない姿に満足して私は優越感のようなものを得る。

 ここまでで終わらせておけばよかったんだろうけれど……

続き

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