暗闇の中、私は上を見上げる。
二段ベッドの上段であるここはすぐ天井がある。カーテンを閉め切っているのでその天井すらうっすらとしか見えないけれど、そこには天井がある。
うっすらとしか見えなくても、そこには……ある。
(せつな、先輩……)
せつな先輩の裏に隠していた気持ちを見つけたけれどその正体がわからない私は、悔しそうに心でつぶやいてシーツをぎゅっと握る。
(……あれは、何……?)
お風呂で見たあの表情が忘れられない。
いつもクールでかっこよくて、強くて、優しくて、私にはいつも笑顔を向けてくれていた先輩。それは、きっと私が【子供】だったからせつな先輩はそうならざるを得なかったんだと思う。
私はそれに甘え、見てこなかった。せつな先輩の笑顔の裏にある気持ちを。
【あの表情】を見るまでは、単純にそう思っていた。
だけど、先輩が心の奥に秘めているのはそんなものじゃない。もっと、先輩の根幹にあるもののような気がした。
それはつまり
(……友原先輩に、関係あることだ)
確証はなくても確信はある。
だって、それ以外には考えられないから。
この世のすべての悲哀を秘めているようなあの表情。
私はそれを知っている。せつな先輩が友原先輩を想っていたときにしていたもの。
私が惹かれたせつな先輩の姿。私が手を伸ばしたかったせつな先輩だ。
それがまだ……いた。もう一年以上経っているのに、私と付き合い始めてからだってもうこんなに経っているのに。
せつな先輩の心には…………友原先輩がいる。
「っ…………」
悔しい。痛いほどに歯を食いしばらなければ、溢れそうな涙を抑えることすらできない。
……泣きたくはない。泣いたら何かに負けたような気になるから。
せつな先輩が私より友原先輩が好きだなんて微塵にも思っていない。間違いなくせつな先輩は私を一番に想ってくれている。
でも、そういうことじゃなくて友原先輩との【何か】がせつな先輩をまだ苦しめている。
「先輩……」
あえて声に出して先輩を呼ぶ。
今はまだわかららない。
先輩が何を苦しんでいるのか、なぜキスの話題から逃げたのか、その裏に何があるのか。今はまだわからない。
でも、私は先輩の恋人で、誰よりも先輩が好きで、大好きで……心から……本当に……あいし……だ、大好き、だから。
はっきりとは分からなくても、そこに先輩が苦しむ何かがあるのなら、私はそこに手を伸ばそう。
先輩の力になりたい。
それが私が先輩を好きになってからずっと思い続けたことなのだから。