真冬の冷たい風が私たち二人の間を吹き抜けていく。
晴れるけど一段と冷えるなんて昨日の天気予報で言っていた。
けれど、私は今日寒いと感じることはなかった。
一日中外にいたけど、寒くはない。むしろ、暖かった。
今もこの手にある先輩のぬくもりが寒さなんて忘れさせてくれたから。
「ふぅ。にしても、二年連続で学校サボらせないでくださいよ」
今日一日せつな先輩とのデートをしてた私は最後の場所に来るとそんなことを口にした。
「なによ、今更。ちゃんと確認とったでしょ」
せつな先輩はあきれたようにそう言ってくる。
「それはそうですが……こうして改めて学校見ると罪悪感というか、なんというか……」
ずっとつないでいた手を離して私は、デートの最後の場所、寮の屋上のフェンスに寄って校舎を見つめて少しやるせない気分になる。
「なら、別に休みの日でもよかったのよ」
それはもっともな意見。
でも、それを了承するわけにはいかない。
今日じゃなければダメなのだから。
そう、今日は
「恋人の誕生日なんです。デートくらい付き合いますよ」
せつな先輩の誕生日なのだから。
そして、私たちが恋人になった記念日なんだから。
「ふふ、ありがと」
せつな先輩はいつものように素敵な笑顔をして私の隣に並ぶ。
(ほぁ……)
せつな先輩はまっすぐに前を見つめていて、その横顔があまりに美しく感じて私は思わず見とれる。
もともとせつな先輩は綺麗な人だけれど、見た目の問題じゃなくて、その清々しい横顔がより魅力的に見せている。
「もう一年経ったのね」
そんな私に気づかず独白のようにつぶやいた。
「そうですね」
その一言に私は嬉しくなる。
当たり前だとしてもこの日を覚えてもらえていた嬉しくて。
「ここで、いろんなことがあったわ」
それからくるりと回って屋上を一望する先輩。
「渚とだけじゃなくて、涼香ともね」
以前の私なら友原先輩の名前が出てくるとそれだけで複雑な気分にさせられていた。
でも、今は。
「っ、渚」
私は何も言わずにせつな先輩に体を寄せた。
今は友原先輩の名前を聞いても、嫉妬したり後ろ向きな感情を抱いたりなんかしない。
あ、けれどやっぱり嫉妬はするかも。
腕をとって頭を預けた私はそう思う。
それは私がせつな先輩を好きっていう証でもあるから。
「……屋上だけじゃない。この三年間、本当にいろんなことがあった」
三年間の想い出に浸るようにせつな先輩は前を見たまま口にする。
「楽しいこと、嬉しいこと、笑ったこと、はしゃいだこと……」
まだ二年しか過ごしていない私には本当の意味では理解できない重み。
「それだけじゃなくてつらいことも苦しいことも、泣いちゃうことだってあった。いっぱい、いっぱいね」
私も来年になれば、ううん、ほとんどの人が三年間を過ごせばわかるものかもしれないけど、
「……はい」
今はまだ届かなくてただ頷く。
「けどね、苦しかったけど、たくさん泣いたけどそれすらも輝かせてくれたことがあった」
「あ………」
腕を取られて、腰に手を回される。まるでダンスでもしているような恰好にさせられた。
「渚。貴女に会えたことよ」
(ふ、あ………)
こうされることは二回目で、抱かれるのも何度かあって、綺麗だっていうのは十二分に知っていたけれど………
「貴女に会えて、好きになってもらって、今こうしている。だから、この三年間が全部大切だったって思えるの」
今のせつな先輩はこれまで見たどんな表情よりも綺麗で、まるで……ううん、形容できる言葉が見当たらないほど眩しくて、輝いた素敵な顔をしてる。
「私は渚が好き、大好き。私の今までは貴女こうなるためにあったんだって思うくらい貴女が好き。ううん、愛してる」
それが嬉しかった。私のことを想ってくれるから、私がこんな素敵な先輩にさせているから。
「だから、渚。改めて言うわ」
私も同じ。同じです。
「貴女を、頂戴」
私も貴女と出会うために、
「今の貴女だけじゃない。一年後、十年後、二十年後……渚のこれからを全部、私に頂戴」
朝比奈せつなのプロポーズを受けるために今までがあったんです。
「はい………っはい!」
潤んだ瞳と、声で私は大きくうなづいて、そのままゆっくりとせつな先輩は私を引き寄せた。
これは二人きりの結婚式。
世界には私たちだけ。
他には何もない。
冬の冷たさも、まぶしい太陽も、想い出の詰まったこの場所も何も感じず、言葉すらいらない。
ただ、
繋いだ手に愛する人の熱を、
合わせた胸に愛する人の鼓動を、
見つめあう瞳に愛する人の優しさを、
重ねた心に愛する人のすべてを感じて、
私たちは
『んっ……』
永遠を誓い合った。
FIN