ガタンガタンと心地いい振動が体に響く。

 窓の外を見ると周りを囲む山々とここまでせせらぎが聞こえてきそうな穏やかでそれでいて雄大な川が見える。

(せつな先輩に聞いてた通り、綺麗なところみたいね)

 私はあまり人気のない電車に揺られながらそう感想を持った。

 それから携帯電話に目を移して、画面を確認する。

 駅で待ってる。

 表示されている画面には簡素にそうあり、私はそれを見ただけで思わず頬が緩んでしまう。

(早く会いたい)

 心からそう思う。

 何せ今日は久しぶりにせつな先輩に会えるんだから。

 先輩が大学に進んで寮を出てから一か月。週末には必ず電話していたし、メールのやりとりはほとんど毎日してたけど、声が聞けても、意志の疎通ができても直接会うこと以上に好きな人を感じることはない。

(最悪夏休みになっちゃうかと思ってたけど)

 もちろん、五月の連休に会いたいとは思ってた。けれど、まだ大学が始まって一か月だしせつな先輩も環境になれるのに大変で五月は会えなくても仕方ないって考えた。

 けれど、連休前の金曜日の夜。せつな先輩の方から会いに来れないって聞いてきた、うんというよりもあれは会いたいから来てほしいっていうのを隠してるのがわかって思わず行きますと大きな声で答えてた。

(嬉しかったんだからしょうがないわよ)

 部屋の外で電話してたけど、あとで陽菜に嬉しそうだねなんてからかわれちゃうし。

 ……実際嬉しかったけど。

 こんなに日々を待ち遠しく感じたのは生まれて初めてかもしれないわね。

 遠距離恋愛の方がいいとか言うつもりはないけど、出会った時からずっと一緒で顔を合わせない日なんてほとんどなかったから、こうして焦がれる時間が新鮮に思える。

 会えない時どうしてるかと考えて、会いたいと思って、せつな先輩も同じように考えてくれているかなと勝手な想像をしたり会えない時間も想いは募って、より相手を愛しく感じるようになった。

(もっとも)

 体が慣性にしたがって引っ張られる感覚。

 電車が止まった。

(会えた方が嬉しいに決まってるけれど)

 私はそう思い直して大きなキャリーバッグを引きながら電車を降りて行った。

 周りの雰囲気からして木造の駅舎でもおかしくないと思ったけど、ちゃんとした鉄筋コンクリートの近代的な駅舎を通りながら、改札を出ると。

「渚」

 人気のまばらな駅に響く凛とした声。けれど、どこか喜色を隠せない上ずった声。

「せつな先輩」

 私も同じ声で答える。

 世界で一番好きな人に会えた幸せを隠せない声を。

「久しぶりね、渚」

「はい。お久しぶりです」

 ガラガラとバッグを引きながらせつな先輩のもとへ寄っていく。

「遠かったし疲れたでしょ?」

「いえ、大丈夫です」

(………………)

 答えながら私は一か月ぶりの好きな人の姿をまじまじと見つめる。

 たった一か月って言っていいのにすごい久しぶりに感じる。そして、久しぶりに見る好きな人の姿は思った以上に嬉しかった。

 春らしい明るい色のワンピースに黒パンツの姿はかっこいいし、雰囲気もなんだか大人っぽい。

「何? じろじろ見て」

「あ、い、いえ。久しぶりだったんで……その……」

 思わず見惚れてたとかさすがに言えないわよね。

「嬉しくて言葉に詰まっちゃったというか」

 ……これじゃ言い訳になってない。

「っぷ。渚がそんなこというなんてね」

(む)

 恥ずかしいこと言ったっていう自覚はありますよ。けど、

「一か月ぶりに恋人にあったんですよ。このくらい普通です」

 笑われるのは癪。こういう時は子供扱いされてる時だし。

「それともせつな先輩は嬉しくないとでも言うつもりですか?」

「っふふ。ふふふ」

 またこらえきれないような笑い。

「今度はなんなんですか」

 どうせ私のこと子供だって思ってるんでしょうけど。

「渚らしいこと言うなって思ったの」

「……それは、褒めているんですか? それともけなしているんですか。っ……」

 頭を撫でられる。

「可愛いって言ってるのよ」

「……やっぱりバカにしてるじゃないですか」

 口では不満を言いながらも、このどこかでしたような、何気ない幸せが嬉しくて私たちは笑顔になれた。

2

ノベルTOP/S×STOP