クリスマスといえば一般的には華やかイメージだ。
街が着飾り、家族や、友人、恋人と過ごし交流を深めるイベント。
もっとも日本は過度に騒ぎすぎだとは思うし、そもそもが宗教のイベントなのに無駄に騒ぐ人間がいるという批判もある。
私はどちらかと言えば否定的な人間ではあるけれど、
(……まぁ、たまにはいいかもしれない)
センター試験まで一か月を切ったクリスマス。
寮ではクリスマスパーティーが開かれる。自分たちで企画し、準備をし、年に一回のお祭りを楽しむ。
自分から何かをしようとまでは思わないけれど、それでも受験前最後の息抜きを否定するほど排他的な人間でもない。
(なくなった、って言った方がいいか)
中学までの私は数少ない友人に誘われても、断るような冷めた人間だった。その自分も嫌いではなかったけれど少なくても今の自分の方が好き。
「んー、どしたのなぎちゃん? そんなとこで」
食堂の隅で周りを眺めていた私に、自分を変える最初のきっかけをくれた相手が声をかけてきた。
「なんでもないよ、陽菜。ちょっと感傷に浸ってただけ」
「ふーん、そっか。今回で最後だしね」
「そういうこと」
短い会話の中に卒業を意識する。当然かもしれないけど。
「当たり前って言えば当たり前なんだけどさ、こんな風にみんなと騒いだりするのってもうないんだよねぇ」
「……そうね」
当たり前ことだ。この先人生においてこのようなことはあるかもしれない。けれど、この場所でこの人たちと一緒にクリスマスを迎えることはもうない。
高校三年間だけの特別な時間。
気づこうとしなければあっという間に過ぎていくけれど、立ち止って意識するとそれはとてもかけがえのないもののように思えた。
「あ、でもなぎちゃんは早く来年のクリスマスにならないかなって思ってるんじゃない?」
「なんでよ」
「だって、来年には朝比奈先輩と一緒に住むんでしょ。ロマンチックな夜がすごせるんじゃない?」
「……バーカ」
陽菜の言っていることを真実ととらえながらも、私はそう返した。
「せつなさんと一緒にいるのと、ここでみんなと過ごすのは違うでしょ」
こんなことを言う私をもうらしくないだなんて思わない。
「……うん、そうだね」
陽菜も変わった私のことをちゃかすことなく深く頷いてくれた。
「まぁ、確かに私は来年のクリスマスも楽しみではあるけど」
少ししんみりとした会話に私は空気を和らげるためそういった。
けれど。
「……………だよね」
「?」
茶化し返してくると思ったのになぜか陽菜は元気なく頷くのみ。
「陽菜……?」
「あ、ううんなんでもないよ! あ、そうだちょっと他のところでも回ってくるね」
「う……ん」
言って足早に去った陽菜を首をかしげながら見送ると、私もその場を離れた。
特に目的もなく私は会場を後にすると廊下を歩く。
会場の中だけでなく廊下にも浮ついた雰囲気が漂い、その雰囲気に酔った子たちや、流されてる子たち、利用しようとしている子たちなど数組の相手を見かけ心の中で嘆息する。
同時に
(やっぱりせつなさんと会いたかったな)
流されるもの、無意味に騒ぐことも嫌いだけれど、目の前で見せつけられればうらやましいと思うのも心情で、なんとなく私は人気のない方へ歩いていく。
(…………)
と、気づけば階段を上っていて
(屋上、出てみるかな)
何となくそこに足を向けて扉を開けると
「あ、れ? 水谷さん」
「桜坂、先生?」
思わぬ人の声を聞くのだった。