桜坂先生の運転する車に揺られて早数時間。高速道路の時から周りに見える景色は山ばかりになってきたけれど、降りてからもどんどんと自然の深い場所へと入っていく。

 車窓の外には雄大な山の景色。青々とした緑の木々に山の稜線。始めてきたけれど、少し見覚えあるように感じられる。

「へぇ、聞いていた通りなかなかよさそうなところね」

 助手席でそう言ったのはときなさん。

「大学の時部活の仲間と来たけどいいところよ。料理も美味しいし」

 長時間の運転の疲れも感じさせず桜坂先生は当時を思い出したのか明るくいう。それは何もおかしな発言ではないのだけど

「へぇ……部活の仲間、ね」

 ときなさんは何故か意味深に窓の外から桜坂先生へと視線を移す。口調もどこか強く、まるで責めているようにも聞こえた。

「部活って何をしてたんですか?」

 後部座席で私と一緒に座るせつなさんは空気を読んでか読まずか、桜坂先生へと問いかける。

「児童演劇をやってたのよねぇ、絵梨子」

「え、えぇ。そうよ」

「こんな遠くまで旅行に来るなんて仲がよかったんですね」

「……………………」

 なぜか二人とも黙り込んでしまう。

 せつなさんの問いは別におかしなところがあったというわけではないと思うけれど。

「あの、ときな」

「何かしら、絵梨子」

「ど、同級生としか来てないわよ」

 私とせつなさんから意味の分からないやり取り。下級生だった恋人とは来ていないという意味なのは私たちにはわかるはずはない。

「別に何も言ってないけど、まぁそういうことにしてあげましょう」

「うぅ……ほんとなのに」

 何が何だかはわからなったけれど、二人の関係性がなんとなく察せるやり取り。

 それを私は眺めていたけれど

「渚、どうしたの、先から黙ってるけどどうかした?」

 話に加わらず、様子を見ているだけだった私の顔を覗き込んでくる。

「緊張でもしてる?」

「まぁ、それは多少」

 いくらみんな見知っているとはいえ、この中では一番年下であるしプライベートで話したこともあまりない。いくら恋人のお姉さんと、その恋人と言っても学校の外で何を話していいのかわからない部分は少なからずある。

(ただ、それだけじゃなくて………)

「っ!?」

 不意にせつなさんの手が肩に回ってきて体をせつなさんへと引き寄せられた。

「大丈夫よ、お姉ちゃんも絵梨子さんも渚のこといじめたりなんかしないわよ、それに私がいるんだから。ねっ」

 私を安心させるかのように微笑むせつなさん。

(そういうわけじゃないんだけど……)

 もともと言うつもりもないし、ここは

「……はい」

 と、せつなさんへと体重をかけて甘えるのだった。  

 

 

 

 宿泊する旅館の部屋は和室で、窓から見える景色が綺麗な場所だった。一面山に囲まれどこか非日常を感じさせてくれる場所。

 部屋の畳は旅の香りを感じさせ、知らない景色ともあいまり旅行にきているんだという実感がふつふつと湧いてくる。

「それじゃあ、行ってらっしゃい」

 そんな中で私とせつなさんは桜坂先生とときなさんの声を背中に受けて部屋を出ていく。

 ついたのはまだ夕方で夕食までは時間があるからとこの辺を散策するのが目的。言い出したのはせつなさんで部屋に残る二人も誘ったけれど、桜坂先生が疲れがあると部屋に残ると言ってときなさんもそれに付き添う形で残ることになった。

(二人きりになるのが目的かもしれないけれど)

 と勘ぐりはするけれど、私もせつなさんと二人きりになるのは望むところだから大人しく二人で旅館の外へと出た。

 すぐに遊歩道があり、大きな橋へと続いていてその下を穏やかなせせらぎを奏でる川が流れている。

「少し、天原から見える景色に似てるわよね」

「そうですね」

 周りを山に囲まれた自然豊かな空間は確かにあの屋上から見えた景色を思わせる。私たちの大切な思い出のあるあの場所を。

 そう思うと少し心が弾む。

「まだ来たばっかりですけど、私一緒に旅行できてうれしいです。せつなさんと初めての旅行ですし」

「そうね、初めては二人きりでもよかったけれど」

「っ……」

 川のせせらぎに乗せたせつなさんの言葉が私を赤面させる。

「い、いきなり変なこと言わないでください」

「変なことでもなんでもないでしょう」

 変な渚、とせつなさんは余裕を見せて笑う。

 それはその通りなのだけれど、なんといえばいいのか背中がかゆくなるような恥ずかしさが沸き上がって、しかも

「今度は二人できましょう」

 そんなことを言うものだから余計に体が熱くなってしまう。

 かと言って、否定することなんてできるわけもなく「はい……」と頷くしかないのだけれど。

「………す、少し冷えてきましたね。そろそろ戻りましょか」

 ただ恥ずかしさは収まらずそんなことを言ってしまった。

「そう? 暖かいくらいだけれど。もう少し二人で歩きましょうよ」

「……はい」

「でも、そうね、渚が寒いのなら」

「っ……」

「これで少しはましかしら」

 隣へと迫ってきたせつなさんが私の手を取る。つながれた手の先に確かなぬくもりを感じて体が余計に熱くなってしまう。

(……なんか、今日のせつなさんは……)

「なに?」

 かっこよすぎです。といようと顔を見たけれど、余計に恥ずかしくなってしまい

「なんでもありません」

 と手を強く握り返すしかできなかった。  

 

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