「ん、ふぁ……あぁ」

 声が、漏れる。

「あ…ぅ、ん……ふぁ…っあんっ……」

 頭の中が痺れて思考がおぼつかない。

「っ……ぁむ…あちゅ……じゅちゅ……ちゅう…あはぁ、のぞみ! ……っのぞ、み」

「えりち…あ……ちゅ……ぢゅ、ふあ……あはぁ…ああっっ…ああ、えりち……ん」

 激しく交わらせた唇から、喘ぎと唾液が零れ肌を濡らしいく。

「っは……ぁ……のぞみ」

「んっ……ふぅ…えりち」

 キスを終えると私と希は互いに蕩けた表情で見つめあった。

 一糸まとわぬ姿でベッドの上で体を重ねながら。

「希……綺麗よ」

「ん……えりちも」

 肌を合わせ、いつものようにそう口にすると再び希の唇を奪う。

「っぁ……っぁふっ」

 キスをしながら片手ではおさまりきらない希の乳房に手を当て、すでに固くなっている乳首を手のひらで転がす。

「っも、う……えりち…」

 希も負けじと私の胸に触れて激しく責めたてる。

「っあ、あぁ、っ、そこ…のぞみ…んっ、もっと、強く……そう。それ……っ」

「ふぅ……ん、あっ…あふ…あぁあ。うち、にも……っぁ……っ」

 胸を責め合いながら再び唇を重ねて、自然と二人の手体を滑っていく。

「希のここすごい、手がびしょびしょになっちゃうわ」

「えりちだって、人のこと言えないやん。シーツに染みができとるよ?」

 もうお互いにこれ以上ないほどに官能が高まっている証拠を手で濡らして、それをさらに高めるために動かす。

「ぁあ、っ…ふ……そ、れ……っ、あかん、って……いって、る、やん……ぁっああ」

 私は手のひらを押し付けて、さっき胸にしたみたいに手のひら全体で固くなった希の陰核を転がすと希がその高まりにあられもない声をあげてくれる。

「あっ……あぁ、っ、希……そこ…ぁ、あぁっ」

 希は二本の指を私の中に突き入れ、膣肉をかき回してくると全身の毛が逆立つような快感が体を包んでいく。

「のぞみ……むちゅ…んっぁっ……ぁぁ」

 自然と再び唇を重ねて、希の口内へと舌を進めた。

「っ…あぁ、ぢちゅ……じゅる……ん…く…んぐ」

 熱い舌と舌を絡め合いながら、時折まじりあった互いの唾液を喉に通していく。

『っ…はぁ……っは、ぁ……』

 もうベッドに入ってからかなり時間も経っていて二人とも余裕がなくなっている。

 好きな人を感じたい、好きな人に感じてほしいという思考に突き動かされ、私たちは胸を押し付け合いながら秘所を弄る手の動きを激しくする。

 ぐちゅぐちゅと卑猥な音が響き、その音の大きさと共に快感が高まっていく。

「っぁ……っあ、ぁあ希………希! あっぁああ、んっ」

「えりち……んっ……ああァ…っ……ふ、ぁああくぅ、ん」

 重ねる胸と、唇と、秘所からそれぞれ別の快感が伝わり頭を白く染めていく。

「ぁあ、っ……ぁ、ぁっえりち……っきもち、……いっ……い」

 ふと視線を重ねる希の顔はいやらしく蕩け、希の瞳に映る私もきっと同じ顔をしている。

「うち、……も、う…」

「えぇ……いっしょ、に、いきま、しょ……っ…」

 それを合図にして私たちは互いへの責めを激しくしていって

「っ……ぁぁ、希………ぅつ……ぁあ、のぞみぃ……っああ!」

「っ…あぁ、んっ……ふぁ、ああんっ……ぁあ」

 声に余裕がなくなっていく。

 全身に微弱な電気が流れるみたいな感覚が広がっていく。

 意識が希のことに染め上げられていく。

 そして

『ぁぁ、…あぁ、っ……んぁあああ!!』

 二人で声をあげながら絶頂に達した。

「っ……ぁっは……ぁ」

 疲労感の中呼吸を整える。

(……希)

 目の前に愛する人の姿があることがとても幸せ。

 こうして恋人となってもう四年近くが経っているのにこうして体を重ねることでそのたびにこれ以上ないほどの幸福を感じて、もっと希を好きになる。

 それは間違いなく私の幸せ。

 けれど、いくら恋人となっても同じことを思えるとは限らない。私が幸せと思っているからと言って恋人である希が同じように思っているとは限らない。

 ……最近、そんな風に考えてしまうのよ。

 希を見ているとそう考えてしまうのよ。

「っ……えりち」

 胸に宿った疼痛に目を細めていると、希がキスをしてきた。

 首に手を回し、私を引き寄せた希は……

「もう一回、しよ」

 そう私を求めてきた。

「…………えぇ」

 その理由を察する私は、不自然にならない程度の沈黙を持ってから頷いて希と唇を重ねて行った。

 

 

 希との関係が始まったのは四年ほど前。ラブライブの最終予選の日。

 ライブが終わった後のこと。

 もし、ライブを成功させることができたら家に来てほしい。そう言われて、訪れた希の部屋。

 その場所での希からの告白。

 いつも飄々とし、自分の気持ちを表に出すことの少ない希が見せたあの顔は今も覚えている。

 最初は不安で一杯という表情。その後、決意を込めた瞳で私に好きと伝えてくれた。

 私も同じ気持ちで、私もずっと隣で私を支え続けてくれた希がずっと好きで、抱擁と口づけで希の告白に応えて、恋人となった。

 同じ大学に進んで、ずっと同じ時間を過ごしてきた。

 朝も昼も夜も。

 春も夏も秋も冬も。

 笑い合って、時には喧嘩もして、そのたびに必ず仲直りをして、四年間を過ごした。

 幸いにも私も希も卒業後の進路も決まって、卒業の単位も卒論の提出も終わり、残り三か月間、最後のモラトリアムを過ごしている。

 希と過ごす幸せの中に一抹の不安を抱えながら。

 

 

「悪いわね希。私の用事に付き合わせちゃって」

「大学に書類持っていくくらいたいしたことやないやん? 謝ることやないよ」

「そうだけど、今日は買い物の予定だったじゃない」

「まぁ、それはそれで残念やけど別にどうしてもってわけやないし」

 今日は希とのデートをするつもりだった。

 でも私が大学に出す予定の書類を提出し忘れていて、大学へ行くことになって今はその帰り。

 音ノ木にいた時代から通っている喫茶店でパフェを食べながらの雑談。

「こうしてちゃんとえりちとデートはしとるんやし、不満なんてないよ」

「……ありがと」

 それは確かにそう。買い物にも行きたいというのは本音でも、それ以上に大切なのは好きな人と一緒の時間を過ごすこと。音ノ木にいたころから大学でもほとんど一緒にいたけれど、一緒に暮らしているわけではないし、デートというのはやっぱり特別なものだから。

 パフェと紅茶を飲みながら、歓談に花を咲かせる。

 それは恋人としてなんの変哲もない幸福な時間。

「にしても、もう一月も終わっちゃうのよね」

 そんな中パフェを半分くらい食べ終えたところで、私は意図をもってそう口にした。

「っ……そうやね」

 希は一瞬明らかに表情を暗くしてから頷いた。

「もう実質通ってはいないけど、後二ヶ月で大学も終わりなのよね」

「……うん」

「長かったような気もするけど、やっぱりあっという間だったわよね」

「……せやなぁ」

「音ノ木坂を卒業する時も、寂しくはあったけど、やっぱり大学を卒業するっていうのは違うわよね」

 高校を卒業するのと、大学を卒業するのはまったく意味が違う。高校と大学では学校というカテゴリは変わらないけど、大学から社会では次元が異なる。

 生きることに対して自分で責任を取っていけなければならない。

 そこには期待もあるのかもしれないけれど……

「あ、うちちょっとお手洗いに行ってくる」

「……えぇ」

 希は話をごまかして席を立った。

「…………」

 その背中を見つめる私は穏やかな気持ちではいられない。

 新しい未来を見据えて希望を持つこともある。けれど、同じ未来を見つめていても同じことを思えるとは限らない。不安をもってしまうことだってありえる。

 それでも私はまだこの時はそこまで深刻に考えてなんてなかった。

 この先が不安だなんて私だって一緒で、でも希と一緒なら大丈夫。希と一緒に生きていけるのなら、どんな不安や迷いも乗り越えていける。

 勝手に私はそう考えていた。

 希が何を考えてしまっているのかも気づかずに。

 

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