うちの好きな人は綺麗な金髪とアイスブルーの瞳が特徴的。

 いじっぱりで不器用で頑ななところもあるけど、みんなのために頑張れるとても優しい人。

 絢瀬絵里。えりち。

 うちの初めての親友で、好きな人。

 どこが好きとか、どうして好きになったとか。

 そんなん聞かれても困るんよ?

 いつの間にか好きになってて、えりちの全部が好きって思えるんやから。

 好きってそういうもんやろ?

 理由なんかなしにその人を求めずにはいられない。

 好きだからもっと一緒にいたい。

 好きだからもっと声が聞きたい。

 好きだからもっと触れていたい。

 好きだから笑っていて欲しい。

 好きだから……幸せになって欲しい。

 

 

 ……好きってそういうもんやろ?

 

 

「希、今日の放課後少しいいかしら?」

 えりちがそんなことを言ってきたのはある放課後。

 ちょうど練習のない日やったから、誰も来ない部室で二人になって何やら深刻そうなえりちの話に耳を傾けようとする。

「で、どうしたん? そんな顔して」

「あー、うん……」

 えりちはうちに約束を取り付けてから、ずっとこの調子。

 歯切れは悪く視線を散らせて落ち着かない様子を見せるだけ。

「もう、時間取って欲しいってゆうたのはえりちやろ? 話がないんならうちも帰らせてもらうで?」

 ちょっと意地悪に言ってみた。

 こうでもせんと話しが進まなそうやし。

 けど、それをすぐ後悔することになる。

「そう、ね……ごめんなさい。ちゃんと、話すわ」

「ん。それならよし」

「えっと……」

(……………)

 えりちのらしくない様子。

「その……こんなことを言われても困るって思うんだけど……」

 頬を染め、照れと恥ずかしさを合わせた顔。

「けど、希にならって思うから……」

 部室に流れる空気とえりちの雰囲気に【都合のいいこと】も考えられるんやけど……

(なんか……そんな気はせぇへんのよ)

 むしろ

「……昨日、穂乃果に告白されたの」

(ほら、な)

 楽しい話やないってなんとなく思っとった。

「おぉー、さすがえりち、モテモテやなぁ」

 うちはすかさずそう返した。

 あ、びっくりはしとるよ? すごく驚いた。びっくりして、驚いて、一瞬固まって……それでからかうような言葉が出てきちゃったんやと思う。

「もう、茶化さないでよ。こっちは、真剣なんだから」

「そう…………やね」

 あ、思いのほか落ち込んだ声が出ちゃったなぁ。

【真剣】。

えりちは深く考えないでいったんやろうけどえりちにとって穂乃果ちゃんからの告白は真剣に考えなきゃいけないって意味やろ? 

 もうそのことがうちを落ち込ませるんよ。

(せめてえりちに気づかれてないとええな)

「……………」

 沈黙。

(胸がズキズキするなぁ)

 何か言わなきゃないんだろうけど、何も言いたくない。何を言うのも自分を傷つける刃になるような気がする。

 でもうちはえりちの親友やから。親友として……振る舞わなきゃいけないから。

「えりちは穂乃果ちゃんのこと、どう思ってるん?」

「穂乃果のことは……」

 あぁ、耳を塞ぎたい。……言わせようとしたんはうちやけどな。

「好き、よ」

 ズキン。

 こういうのを胸が引き裂かれるっていうんやろか。

(……痛いなぁ)

「単純に可愛いって思うし、頑張る姿も、周りを引っ張っていく前向きな姿勢も、眩しい笑顔も魅力的。それに放っておいたらどこかいっちゃいそうな危なっかしいところも守ってあげたいって思うし、一緒にいて楽しいし、嬉しい」

 やめてよ。うちにそんなこと聞かせんといて。

「それに……私を救ってくれた一人でもあるから」

 うちが冷静だったら、えりちの言葉の意味をきちんと理解できたかもしれんけど、今のうちにはそんな余裕なんかない。

 えりちが穂乃果ちゃんのことを好きって言った時点で、心がそれ以上考えることを拒絶しているような気がする。

「けど、穂乃果のことをそういう風に考えたことはないの。だからどう応えていいのかわからなくて。希は、どうしたらいいと思う?」

(……そんなんうちに聞かんといて)

「……相談してくれるのは嬉しいけど、そういうことは他の誰かが決めることやないんやないの?」

 どう答えたくもなくてうちはそんな当たり前のことを言った。

「それは……そうかもしれないけど………けど、ほら希の言うことって的を射てることも多いし、今までだって希の言うことを聞いてうまくいったことだってあるから」

「学校とか、生徒会をどうしようとか、μ'sの活動についてとか、今夜の晩御飯はとかやったらカードが教えてくれるんやけど、そういうことは違うやろ」

「そ、それも、わかってるけど、でも、希……」

(……なんで、うちに言わせようとするん?)

 うちは反対も賛成もしたくないんよ。

 反対には理由が必要だけどその理由なんてうちが嫌だから以外になくて言えないし、賛成なんてしたいわけないやん。

 うちは何にも言いたくないんよ。こんな話したくないんよ。

「ただの感想とかでもいいのよ。希がどう思うかとか、そんな程度で」

 なのにどうしてえりちはうちに言わせようとするん?

「………………………相談するって言うことは、そういうことなんやない?」

 勝手にそんな言葉で出ていた。

「っ。そういうこと、って?」

「えりちに穂乃果ちゃんに応えようっていう気持ちがあるってこと……やない?」

 あぁ、うちなにいっとるんやろ。

 こんなのは一番言いたくないことのはずなのに。

 けど……そういうこと、やん? だって穂乃果ちゃんのことをそういう風に考えられないんだったらその場で断ってよかったはず。なのにえりちはそうしなかった。つまりそういうことやん?

「……………………そう、なのかしら?」

「少なくても嫌ではないんやろ?」

「それは……そう、かもしれないけど」

「……なら、きっとそういうことや」

 【そういうこと】

 さっきからこんな言い方ばかりやな。

 えりちが穂乃果ちゃんのことを好き。

 そう表現したくないってことやろか。

「あとは、えりちが考えることや。うちは邪魔にならないように退散させてもらうわ」

「あ、希!?」

 えりちが呼ぶのも構わずうちは部室を出て行った。

(何であんなこと言っちゃったんやろうな?)

 えりちの背中を押すようなことを言ってしまったことを後悔しながら、けど親友としては間違ってなかったはずだって自分に言い訳をしながら。

 

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