(これで……よかったの、よね………?)

 私は帰り道を歩きながらぼんやりとそう思っていた。

 なんだかまだ現実感がない。

 呆然と希を見送った後、しばらくはその場を動けずにいた。

 希が見えなくなっても希の去っていった方向を見つめて、けど何にも考えられなくて気づけばこうして帰路についていた。

(……どうして、引き留められなかったのかしら?)

 頭の中は希のことでいっぱい。希の切なげな姿ばかりが浮かんでは、寂しそうな笑顔で消えていく。

(キス、できなかったから?)

 じゃあ、どうしてキスできなかったの?

 希のことを好きじゃないから?

(違う)

 希のことは好き。恋人としてかどうかはともかく、私にとって最も大切な人の一人だって言える。

(じゃあ、どうして?)

 わからない。結局は答えが出ない。

 ううん、出たところで

(希が……そうして欲しいっていったのよ)

 このことが頭をよぎる。

 希は終わりにしたいって言っていた。もう別れようと。

 希がそれを望んでいるのに今更私に何ができるの? 何をする権利があるっていうの?

 好きな人がそうして欲しいって言ったのよ。

 ならに応えることは何もおかしいことじゃないわよね?

(だから、これでいいのよ)

「………………………」

(……………本当に?)

 何だったの? 私たちの関係って。

 冗談だった告白。

 冗談だってわかってたのに、期待をした希。

 私はそれに応えようとして、希の恋人になった。

 希を悲しませたくないって思ったから。

 けど、そんな関係がうまくいくはずなくて、偽りの告白は偽りの関係しか作れなかった。

希のためって思ってたはずなのに、気づけば希を傷つけていた。

 そして、そんな私に愛想を尽かされて私たちの関係は終わりを告げた。

(……終わって、いいの?)

 こんな何もない、お互いを苦しめるだけの時間を作って、挙句に最後まで希を傷つけて。

 いいって思う自分もいる。

 もともとは希のためにと思って始めた関係。希がこれ以上を求めないのなら終わりにするのは自然な流れだもの。

(けど……私は?)

 希は別れを望んだかもしれない。でも、私は? 私は希と終わっていいって思っているの?

 三年間ずっと一緒にいたのに、一つの過ちを犯したばかりにもう一緒にはいられなくなる。これからの私たちはどうなるの? 恋人じゃなくなって、その後は? 友だちに戻るの? 親友になれるの?

「……無理、よね」

 帰宅路を行っていた私の足が止まる。

 中途半端な優しさで希を傷つけたのに、そんなものに戻れるはずはない。

(つまり……ここで終わりっていうこと?)

 恋人としてだけじゃない。希とはもうおしまいってこと?

 三年間ずっと一緒にいたのに、今の私があるのは希がいてくれたおかげなのに。

 もう希と一緒にいられないの?

 ……そんなのは。

(……絶対に、嫌!)

 胸に穴が空いたような絶望的感覚の中でそれを叫んだ瞬間。

「……っ!!」

 心の中で何かを見つけた。

「ふふ……そういうこと、ね」

 私は自分を馬鹿にしたように笑う。ただ自虐的ではあってもどこか明るく。

(もっと早く気づきなさいよ)

 希に応えなきゃって思うばっかりで、私はもっとも身近にある気持ちを見ていなかったらしい。

(……こんなの、今更だけど)

 本当に今更すぎるけど、いいわよね。希。

 やりたいことをする。

(貴女がそうしろって言ったんだから)

 そう心に思った瞬間。

 私は駆けだしていた。

 希に、私の望みを伝えるために。

 

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