(……これで……ええんよ)
えりちに背を向けたうちはそう思いながら歩いていく。
後ろ髪を引かれるのに一秒でも早くえりちから離れたくて早足になるのが止められない。
(……本当はもっと早く言わなきゃいけなかったんやろな)
というよりも、【恋人】になっちゃいけなかった。
あの時、冗談を本気にしたのはうちに気を使っただけで、えりちの本当の気持ちじゃないのはわかってたんだから。
でも、わかってても否定することはできなかった。
だって、ずっと……ずっと好きだったんよ。
ずっとえりちが好きで、友達じゃ嫌で、親友でも満足できなくて……もっとって望んでた。
えりちの一番になりたいって思ってた。
(………だから、仕方ないやん)
嘘だってわかっても、うちを悲しませないためだったとしても、突然のチャンスを逃すなんてできなかった。
それに、もしかしたら嘘が本当になってくれるかもなんていう甘い期待してたのかもしれない。
けど、現実はそんなに都合よくいくわけもなかった。
えりちと一緒にいるのは楽しくて、嬉しかったけど……つらかった。
えりちはうちがしてほしいことをしてくれた。手を繋いでくれて、肩を抱いてくれて、優しい言葉をかけてくれて、何をするにもうちのことを一番に考えてくれた。
それは何かが違ったんよ。そんなえりちも好きだけど、違うって思ったんよ。
うちのせいでえりちがえりちじゃなくなってしまうようなそんな気がして、そんなことをさせる自分が嫌になった。
うちなんかのためにえりちを無理させちゃいけない。
(……だから、これでええんよ)
再び自分に言い聞かせるように思う。
えりちの本当の気持ちはうちにないのに、うちのせいでえりちを縛ってはおけない。
そんなんは好きな人にすることじゃない。
ずっと好きだったけど、本当はどんなことをしてもえりちを繋ぎとめたいけど、恋人のふりだとしてもえりち一緒にいたいけど。
(……そんなん……あかんよね)
うちだけが嬉しくても、えりちが無理をしてたら意味がない。
だから、これで………
(よかったはず………なんやけどなぁ………)
そう思いながら頬を伝う涙を止められなかった。