コツン、コツンと足音を立てながら廊下を歩いていく。

(……けど、音を表現するならとぼとぼやろか?)

 うちの気持ちを表現するって意味じゃ多分それが一番あっとる。

(……覚悟はしとったつもりやけどね……)

 思った以上にこたえるなぁ……

 こういうのを胸に穴が空いた様って言うんかな。

(普通こういう時は泣いたりするもん何やろうけど……)

 どうしてかそんな気分でもない。

「………ふふ。なんでやろね」

 どこか現実感を失ったままうちはとぼとぼと歩いていき部室に戻ってきた。

「あ……にこっち」

 するとそこには決意を持ってここを出た時と同じようににこっちの姿がある。

「まだ、おったんやね……」

「……希」

 にこっちはうちのことを小さく呼んでこっちに近づいてきた。

 うちはドアを閉めるとそこから一歩前に出て

「あはは……ふられちゃった」

 乾いた声をだした。

 表面上は笑っていたと思う。

 ……なんでか笑えちゃってたって思う。

「…………そう」

 にこっちは少し間を置いた後それだけを言うと

 ぎゅ。

 正面から抱きしめてきた。

「……お疲れ。よくやった」

 すぐに体を離してじっと目を見つめられながらそう言われた。

 にこっちの言葉は少ない。言葉を選んで、うちが言われて嫌じゃないことを言ってくれてるのがわかる。

「あはは、なんやにこっち優しいなぁ。さっきはあんなにうちのこといじめてたくせに」

 ふられたばっかりで、人生で一番落ち込んでるはずやのに軽口は叩けるんやなぁ。

「頑張ってきた相手に冷たくするほど冷血じゃないわよ」

「……そか。にこっちは大人やね」

「……あんたが子供なのよ」

「あ、ひどいなぁ。少なくても体の方はにこっちよりも大人のつもりやで?」

 にこっちなんていくらわしわししても全然成長ないしな?

(そんなにこっちに子供だなんて言われるとは妙な気分やね……っ)

 心の中で軽く笑おうとしたけど、にこっちの表情に息を飲んだ。

「……希」

 今までにない表情。優しさとせつなさと、暖かさを持ってうちのことを見つめてる。

「……強がってんじゃないわよ」

「な、何言うとるん? うちは別に」

「素直に泣けってことよ」

「っ………」

 ぐらぐらと心の中で何かが揺れた。

「こんな時まで自分を抑えてるんじゃないわよ。言ったでしょ、素直になれって」

「う、うちは別に……そういうわけじゃ」

 うちかて不思議、なんよ。ずっと思い続けたえりちへの想いが砕けて、本当は泣きたいって思うんよ。けど、なんでかそうしたくないって思う。

 泣くのが怖いって思っちゃうんよ。

「………みっとなく泣きなさないよ。かっこ悪く泣きなさいよ。いいじゃない、ここにはにこしかいないから」

「あぅ………」

 泣きたいって思うし、その一歩手前まではきてる。瞳の奥が熱くて、声もうまく出せないほどせつなくて

 けど……泣きたくない。

「……じゃないと、きっと【終わらない】わよ」

「――っ」

 にこっちの言葉を聞いた瞬間。

 涙が頬を伝った。

(……あぁ、そっか)

 納得する。

 泣きたくなかった理由。わかったわ。

(……終わっちゃうから)

 本当に恋が終わっちゃう気がしたから。もう終わってはいるけど、泣いたら……えりちにふられたことを自分で認めたような気がして、本当に終わっちゃうから。

 うちの恋が。三年間毎日想いつづけた恋がここで終わっちゃうから。

 だから、泣きなくなかったんや。

「っあ、は……」

 それを実感した瞬間、一瞬だけ笑って

「っ…っく、ぁ、あう…あぁ……うぁあああああん」

 にこっちにすがりつきながら大粒の涙を流していった。

「ひっぐ……うぁああ、あぁああ」

 さようなら。

「ぅ……ひっく……うっぐ……」

 ……さようなら。

「ぁう……あ、あぁあああぁあん」

 

 

 さようなら、うちの恋。

 

 

If2

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