寮の管理人室で、見ているほうが赤面してしまいそうなラブラブな時間を送る宮古と八重。 そんな二人をドアの外から見つめる一つの影。 (う、うわぁ〜〜) 絵梨子がいた。 宮古が風邪をひいているということをときなに聞き、授業のない休み時間に様子を見に来たのだが…… 少しだけ空いていたドアの隙間から聞き覚えのある声が聞こえて、好奇心からついのぞいてしまった絵梨子はその場から動けなくなってしまった。 とても二人の時間に入っていける雰囲気ではない。 ノックでもして、何食わぬ顔で入っていくこと事態は可能かもしれないが、そこで何も見なかったふりをする自信はなく、仕方なくドアの前でほんの少し隙間を大きくして覗くしかできないのだ。 もっとも、気づかれずにこの場を去っていくことは問題ないだろうが……なぜかそれは今の絵梨子の頭にはなかった。 「ん、もう……宮古、変なとこ触らないでよ」 「仕方ないでしょ、こんなに密着してるんだから。わざとじゃないわ」 「もう、いつもそれじゃないの」 「そんなことより、もっとちゃんとあっためてよ」 「わかってるわよ」 (わ、わわわ………) ガサゴソと、ベッドの上で衣擦れの音を響かせる濃密な二人の時間に絵梨子は頭を真っ白にさせる。 (ら、ラブラブだなぁとは思ってたけど……) 想像以上の甘い空気に絵梨子は顔が熱くなっていくのを感じる。 思わず、これ以上開かないようにとドアを掴む手にも汗がにじんできて 「っ!!」 ガタン! と、ドアを開け放ちながら部屋の中に倒れこんでしまった。 「っ!!!!???」 ベッドの二人はおそらく絵梨子以上に驚いて、まだ体を起こせていない絵梨子と目が合う。 「………………」 「………………」 まずは、沈黙。 「………あんた、なに、してんの」 それからベッドから仁王のように立ち上がってきた宮古が殺意のこもった目でにらみつけてきた。 手には手近にあった分厚い本を持っているのが恐ろしい。 「え、えーと。せ、先輩が風邪引いたって聞いて……」 「ほぉ〜。それで」 目の前にまで来た宮古はぽんと手にした凶器で自分の手のひらをたたく。 「し、心配だったので、様子を見に来て……」 「はいはい。それで?」 「え〜と……その八重さんの声が聞こえたので……」 「覗いてったってわけかしら?」 パン! と、今度は勢いよく宮古は自分の手を本でたたく。 (こ、怖い………) 本気でそう思うしかない、絵梨子は 「そ、その…………か、カギは閉めたほうがいいと思いますよ!」 と、火に油を注ぐようなセリフを言い残して ガン! 記憶の飛びかねない一撃を食らうのだった。 実際、宮古は角ではなく平たい面での攻撃ではあったが頭に受けた衝撃は軽いものではなく小さなこぶができるほどだった。 「いたたたた………」 頭のこぶを抑えながら職員室に戻ってきた絵梨子。大半の教員は授業中ということもあって、静寂の中絵梨子は自分の席で性懲りもなく先ほどのことを思い出す。 (……でも、いいなぁ。ああいうの) ひどい目にあってきたはずなのに絵梨子はそれを思ってしまう。 (もし、ときながあんな風にしてくれたら………) 痛みはまだ残っているのに、絵梨子は目を閉じながらそれを想像して口元をゆるませていく。 (ひざまくらしてもらったり、暖めてもらったり……) 普段ときなにはいじめられることも多い。その反動かたまにむしょうに甘えたくなる時があるのだ。 宮古と八重の濃厚な時間を見てしまった絵梨子にはそれがふつふつとわいてきてしまって (……よし!) 何かよからぬことを決意するのだった。