自分でも馬鹿だったって思ってる。我がままだったっていうのもわかってる。

 わかってても、意地になっちゃうのは多分私の悪いところなんだろうな。

 連休前の祝日。

 この日も午前中だけだけど夏樹ちゃんは部活動で私は部屋の中で手持ちぶさたな時間を過ごしたくなくて友達の部屋に遊びに来ていた。

「やっほ涼香ちゃん」

「梨奈」

 そこは同じ一年生の涼香ちゃんとせつなちゃんのお部屋。

「いらっしゃい。どうかしたの?」

「んーん。なんとなく、よかったら少しお話しない?」

「ん、どぞ」

「うん」

 部屋の入り口にいた私は涼香ちゃんの了解を得てテーブルの前に座り込む。ついで何気なく部屋を見回すけど、内装は同じなのに住んでいる人が違うとやっぱり違って見えるなと一人納得なんかして。

「ん? せつな? せつなはなんか学校で用があるとかで学校行ってるよ」

 それを涼香ちゃんはせつなちゃんを探しているって思ったみたい。

「そうなんだ。なんか珍しいね、いつも一緒にいるってイメージがあるけど」

「まぁ、そうかもだけど……っていうか、こっちの台詞な気も」

「…………そんなことないよ」

 一拍置いてから答える。言葉通りそんなことないって言えばそんなことはない。確かに御飯とかは絶対に一緒だけど、放課後やこうした休みの日には一緒にいないことも多いんだし。

 それでもそういうイメージを持たれるっていうのは普段なら全然嫌なことじゃなかったけど……

「ね、そんなことよりもお茶でもしよ? お菓子もってきたんだ。お茶は……せつなちゃんのがあるよね」

「ありがと。せつなの……まぁ、こんだけあるんだし勝手にもらってもいっか」

 とりあえず、私たちは無造作にテーブルの上にお菓子を広げて、せつなちゃんの紅茶を勝手に使わせてもらう。

 用意が出来たら各自適当にお菓子に手を伸ばしながらはしたなくおしゃべりをしていく。学校の中だと結構こういうことにうるさいけどお休みの日だもん、いいよね。

 話題は基本的には学校や寮のことだけど、必然的に普通は楽しみのはずの連休の話にもなっていって、

「あ、そういえば夏樹って何か選手に選ばれたんでしょ。朝、聞いたけど」

(っ……)

 動揺を見せたのは心だけ。

「うん。そうなんだ」

 持っていたカップに波を立てることすらなく笑顔で答える私。

「陸上のこととかよくわからないけどさ、一年生のこの時期に選ばれるってすごいんじゃないの?」

「私もよくは知らないけど、夏樹ちゃんは頑張ってたし」

「ふーん。でも、おめでたいはおめでたいけどさ、休みがなくなったりするってのは耐えらんないよねー。放課後はいいけど、今日だって早く起きて部活いってんでしょ? ちょっと私には無理かも」

「お休みの日くらい寝坊したいもんね」

「そうそう。その点せつななんてさ、用事なくても平日とほとんど変わらないでおきてんの。信じらんないよねー」

「うわぁ、そうなんだー」

 いない人のちょっとした悪口を言っちゃうのは人間の悪いところかもだけど、それでおしゃべりに花が咲いちゃうのも事実で

「あ、夏樹ちゃんなんてね……」

 お互いルームメイトのちょっとした不満や悪口を言って一握の罪悪感と引き換えに楽しい時間を過ごしていった。

「さ、ってと、そろそろ戻るね」

「ん、そう? わかった」

「うん、じゃあね、涼香ちゃん、楽しかった」

 寮で暮らし始めてすぐくらいはこうして他の部屋に遊びにいくとなかなか帰るタイミングがつかめなかったけど一ヶ月近くも過ごすとなんとなくそういうのを気にしないで変えれるようにもなった。

「んじゃ、またお昼にでも」

「うん」

 一緒に片づけをして私は涼香ちゃんの部屋を出ると自分の部屋に戻るために歩き出していった。

 まっすぐ部屋に戻るつもりだけど、足取りは軽やかとはいえない。

 だって、部屋に戻ったって一人だから。

 ……夏樹ちゃんと喧嘩してるくせにこう思っちゃう私がいるんだからこまる。

「はぁ……っ」

 扉の前でため息をついてからドアを開けると、あるはずのない光景に目をとめる。

「夏樹、ちゃん……」

 そこにいたのは夏樹ちゃん。まだ部活の時間のはずなのに運動着のまま部屋で洋服タンスを漁っていた。

「梨奈……」

「戻って、たんだ」

「タオル……忘れてたから、取りに来た、だけ」

「……そう」

 気まずい。気まずいよ。

 でも、私は当たり前かもしれないけど部屋から出て行ったりなんかしない。わざと夏樹ちゃんの前からいなくなるっていうことはあるけど、こういう時に私の方から出て行ったらなんだか負けてるような気分になるもん。

「……じゃ、行ってくるから」

 私が夏樹ちゃんのことなんか気にも留めてないっていう感じでベッドに上がって本を読んでいるとすぐに夏樹ちゃんがそう言ってきた。

「…………」

 私は答えない。

 パタン。

 答えなくても夏樹ちゃんはそのまま部屋を出て行った。

「……バカ」

 夏樹ちゃんっていうよりも自分に呟く。

 涼香ちゃんの前じゃ、喧嘩なんかしてないっていう風に夏樹ちゃんのこと話したし、夏樹ちゃんも涼香ちゃんに言ってなんかないって思う。

 涼香ちゃんのことが信じられないとかじゃない。まだ友達になって一ヶ月も経ってないけど、涼香ちゃんのことはいい友達って思ってる。

 思ってても、こういう言い方ってよくないんだろうけど涼香ちゃんに限らず、私と夏樹ちゃんのことをとやかく言ってもらいたくない。

 心配されるのは迷惑じゃないけど……夏樹ちゃんとのことは夏樹ちゃんと二人で解決していきたいの。

(……解決、か)

 ふと、手に持ってた文庫本を閉じる。

 解決。それは仲直りっていう選択肢しか見てない。

 喧嘩してても、自分から夏樹ちゃんと距離をとっても、最後にたどり着く場所は仲直りっていう三文字しか考えられない。

 おかしな話かもしれないけど何回喧嘩をしても絶対にそこを目指してる。

 ただ、そこまでたどり着くのは簡単なことじゃなくて私はまだしばらくは仲直りするまでの喧嘩を続けるのだった。

 

2

ノベルTOP/S×STOP