「ねぇ、夏樹ちゃん」
仲直りの夜。
一緒にお風呂から戻ってきた私たちはパジャマ姿で髪を乾かしていた。
「どうかした? 梨奈」
ショートカットの夏樹ちゃんだけどさすがにまだ乾いてるわけもなくてしっとりとした髪は夏樹ちゃんをいつもと違うように見せて、私の胸をドキドキさせる。
って言ってもここに来てからは毎日見てるんだけど。
「明日のことなんだけど」
「あぁ、そういえば予定決めてなかったか。どうする?」
「んーとね、やっぱりやめよ?」
「え!? ちょ、ど、どうして?」
喧嘩の原因にもなったことを中止しようっていう私に夏樹ちゃんは驚きを隠せない。
「夏樹ちゃん、疲れてるでしょ。さっきもお風呂でくたーってなってたし、御飯のときもうとうとってしてたし。ほんとはゆっくり休みたいんじゃないかなって思って」
「えと、いや、だ、大丈夫よ。今日は試合だったからちょっと疲れてただけで……」
言葉ではこういうものの夏樹ちゃんの声に力はない。多分、自分でも心当たりがあるんだろうから。
「ほ、ほら、約束してた……わけじゃないけどしたようなもんなんだし、今度こそ守るって」
申し訳なさそうにいう夏樹ちゃんに私は優しく首をふった。
「ううん、やっぱりやめておこ。夏樹ちゃんが疲れてるってわかってるのに私だけはしゃいげないもん」
「う……」
夏樹ちゃんと一緒に楽しめなきゃ、意味がない。それは夏樹ちゃんだっておなじはず。
「……ごめん。わかった。そうしてくれるとありがたい。実は結構つらいんだ。なんだかんだで試合に向けては練習頑張っちゃったし……その……喧嘩してたせいであんまりよく眠れなかったし、さ……」
「それは私もかも」
「でも、今日からはゆっくり眠れそうだから、お言葉に甘えさせてもらう」
「うん。どうぞ」
ちょっと残念だけど、さっきも言ったとおり、夏樹ちゃんが楽しんでくれなきゃ私も楽しめないんだから、ね。
残念だけどどこか清々しく思いながら私たちはまただらだらと雑談を交わしながら、就寝時間近くになった。
「そろそろ寝よっか」
まだ完全に就寝時間にはなってないけど、夏樹ちゃんが眠そうにしてるのを見てる私はそう言って、ベッドに戻ろうとした。
「あ、うん……」
と夏樹ちゃんの顔が微妙にすぐれない。
「どうかしたの?」
「あ、どうってわけじゃないけど……本当に明日のこといいのかなって」
「もう〜、それはいいって言ったでしょ」
「あぁ、うん……まぁ、ね。梨奈のいうとおりだし、気持ちも嬉しいけど、やっぱり……」
「いいってば。それに明日は夏樹ちゃんとずっと一緒にいられるもん。遊びになんか行かなくたって私は夏樹ちゃんと二人でいられるのが嬉しいの」
恥ずかしいけど、今日はなんだかあんまり恥ずかしくない。たまには気持ちを言葉にするのも大切なことだって思うし。
「……あんがと」
夏樹ちゃんは私と違って恥ずかしがり屋さんで、今のだけで顔を赤くして私のことすらまともに見てくれなくなった。
「…………」
そんな夏樹ちゃんを見てたらもっと可愛い夏樹ちゃんが見たくなっちゃう。
「ね、夏樹ちゃん。夏樹ちゃんがそれで気がすまないんだった、さ……」
「ん?」
「……キス、して欲しいな」
「へ!? キ、ス……?」
いきなり私から飛び出してきた驚きの一言に夏樹ちゃんは一瞬目を丸くしてからみるみる顔を染め上げていく。
「うん、それで埋め合わせ。昼間も言ったでしょ、もっと言葉にしたり行動にしたりして欲しいって。だから、ねっ」
自分でもびっくりだけど意外に小悪魔のように笑えちゃうの私って。
「ちょ、それは……さすがに……えと……」
ふふふ、夏樹ちゃん可愛い。
多分夏樹ちゃんにキスする勇気なんてないだろうけど、こうやって恥ずかしがる夏樹ちゃんを見るだけでも……
「っもう〜〜」
って、え!?
夏樹ちゃんは急に私に迫ってきたかと思うと、私の肩を掴んで
ちゅ
私の気持ちなんておかまいなしにキスをしてきた。
って言ってもほっぺただけど。
「こ、これでいい」
でも、これだけで夏樹ちゃんは恥ずかしくて泣いちゃいそうになってる。
(初めてってわけじゃないのにね)
なーんて、ことを思うけどやっぱり恥ずかしがる夏樹ちゃんはあんまりにも可愛くて
「だーめ。こっちに、ちゅってしてくれなきゃ」
私はそう言って、人差し指を唇に当てる。
「ちょ、し、知らないわよ!! もう、埋め合わせはしたからね! お休み!!」
だけど夏樹ちゃんはさくらんぼみたいに可愛く怒ってベッドに入っちゃった。
私はちょっとだけ残念な素振りを見せた後、電気を消して
「なーつきちゃん!」
夏樹ちゃんのベッドで無理矢理もぐりこんでいった。