夏樹ちゃんは予選を通過できたけど、結局準決勝で負けちゃった、
もう夏樹ちゃんが出ないんだから用なんてなかったけどどうも先輩が決勝まで残ったみたいなんとなく最後まで見ていた。
「帰ろ」
その先輩も入賞どまりで、とにかくも大会は終わった。
まだ明るい空の下、私は何もすることがなかったけど充実した時間を過ごして競技場を出て行く。
(帰ったら、夏樹ちゃんとちゃんと話しよ)
あんまり私から謝りたくないけど、でもやっぱり夏樹ちゃんと仲直りしたいから。夏樹ちゃんが好きだから、ちゃんと話しないと。
なーんて私はおもしろくないことって思ってるくせにちょっとわくわくしながらバス停へと向かおうとした。
「梨奈!!」
そして、その途中背後から夏樹ちゃんの声が聞こえてきたのだった。
「夏樹、ちゃん?」
空耳なんかじゃなくて夏樹ちゃんは小走りに私のところに向かってきていた。
さっきまでのユニフォームじゃなくて青色のワンピース型の制服に着替えた夏樹ちゃんはスカートを揺らしながら私の前にやってくる。
「よかった。もう帰ったかと思ってた」
(……帰ったかと思ってた?)
私は突然の夏樹ちゃんの登場に驚きながらも夏樹ちゃんの言葉の言い回しに気づく。
それってつまり……
「応援、来てくれたんだ」
夏樹ちゃんは私がいるのに気づいてたってこと。
「……うん」
それともう一つ気づくことがあった。
それは夏樹ちゃんがいやに元気っていうか積極的なこと。昨日、ううん、今朝まで私にまともに話しかけられてなかったくせに。
「とりあえず、かっこ悪いところは見られなかったからよかったかな」
「……うん、かっこよかったよ」
反対に私はさっきまでは早く夏樹ちゃんと話したいって思ってたくせに昨日までよりは素直に話せるものの、らしくはない。
「ありがと。梨奈のおかげ」
「おかげって……私は別に何もしてないよ」
「ううん、梨奈が見てくれてるってだけで頑張れる。それに……」
言いながら夏樹ちゃんはごそごそと鞄の中に手を入れた。
「これ」
「あ……」
思わず顔がほころぶ。
それは中学のときに渡したお守りだった。
ついでにいうなら、ううん、こっちがメインかも。夏樹ちゃんがスタートする前に持ってるかなと思ったもの。持ってて欲しいなって思ってたもの。
私が夏樹ちゃんのことを想って作った手作りのお守り。
「これがあったから、頑張れたんだ」
「……うん、とってもかっこよかった。きらきらしてたよ」
「あ、あんまり恥ずかしいこと言わないでよ」
「だって、本当にそう思うんだもん」
いつのまにかするいつもの会話。
喧嘩してたことなんて忘れちゃいそうなほどだったけど、
「ところで、さ……梨奈」
ここでうやむやにしないのは夏樹ちゃんらしいことって思う。
私はそれを察して私も、言わなきゃいけないことをいう心構えをする。
「今日のこと……っていうか、色々ごめん。試合のことはやっぱ、仕方ないけど、明日のはあたしが身勝手だった」
「…………」
私は私で言いたいこと、言わなきゃいけないことがあるけど今は夏樹ちゃんの言葉に耳を傾けた。
「明日、さ。断っておいた」
「え……?」
「今さらになっちゃうけど、今日の埋め合わせさせて。二人でどっか遊びいこ」
「…………」
一度した約束を断るなんて簡単なことじゃないのに。
私はそんな夏樹ちゃんに想いの強さを感じて、こんなことくらいでちょっと目を潤ませた。
「あ、も、もしかして……やだ? もう他の誰かと約束しちゃった、とか?」
けど、夏樹ちゃんは私が黙ってるのを怒ってるって思ったみたいですぐにおろおろとしてきた。
そういえば、正式に仲直りしたってわけじゃなかったもんね。
「ね、夏樹ちゃん」
私はわざと踵を返して夏樹ちゃんに背中を向ける。
「な、何?」
それが夏樹ちゃんを不安にさせるのはわかってた。っていうよりもわかってるからこそちょっといじわるしたくなったの。
「私夏樹ちゃんのこと、好きだし。夏樹ちゃんが私のこと好きなのも知ってるよ。でも、私って我がままだから、それだけじゃ物足りないんだ。そういうの、もっと言葉にしてもらったり……行動にしてもらったりしてもらいたいの。だから……」
くるってまた夏樹ちゃんに向きなおって背の高い夏樹ちゃんを上目遣いに見つめる。
「好きって、言って欲しいな。じゃないと、許してあげないんだから」
それは遠まわしに、仲直りの言葉。
「梨奈……」
夏樹ちゃんは嬉しそうな声で答えて私に視線を返した。
そして、その形いい唇から私への想いを……
「……って、こ、こんなところでいえるわけ、ないじゃん」
「あ、ひっどーい。私は言ったのに、夏樹ちゃんは言ってくれないんだ」
「だ、だって……恥ずかしいじゃん……」
「あーあ。夏樹ちゃんの気持ちってその程度なんだ……悲しいなぁ……泣いちゃうかも」
「ったく、もう〜〜……………………大好きよ」
夏樹ちゃんの口からこぼれる、小さい声の大きな気持ち。
「ん?」
聞こえた気はしたけど、もっとはっきり言って欲しかった私はもう一度言って欲しいっていう意味を込めて上目遣いのまま首をかしげるけど
「はい! 言ったからね! じゃ、帰るよ!」
「あ、ま、待ってよー夏樹ちゃん」
でも夏樹ちゃんは顔を赤くしたまま歩いて行っちゃって結局私はちゃんと聞けないまま夏樹ちゃんの背中を追いかけていく。
昔から数えて何度目かわからない喧嘩。でも、それと同じ回数の仲直り。
そのたびに私たちは絆を強めていく。
これからもきっと喧嘩して、また仲直りするんだろうななんて思いながら、恥ずかしがる夏樹ちゃんと無理矢理手をつないで私たちの場所へと帰っていくのだった。