外国の大学を思わせるような美しい幾何学的な校舎に、背の高い塀に囲まれた広大な敷地。各校舎に囲まれた中庭には大きな鐘楼。
歴史とともに時代の先端を感じさせる校内を徒行するのは白いワンピース型の制服に包まれた少女たち。
輝きを見せる学校指定のブーツに、腰を絞めるベルト、学年ごとに異なる色のスカーフを身に着けるその姿はまさしく乙女という印象だ。
まだ制服に着られているような初々しさを持つ少女たちをこの春に加え、毎日勉学に努め、部活動に精を出す。
そんな少女たちがここにもいた。
真新しく小奇麗な校舎や部活棟から少し離れた場所。
趣を感じさせる二階建ての木造の建物。今ではほとんど使われなくなった古い部活棟。
その二階の一室に久遠寺玲菜はいた。
古めかしい建物にはあまり似つかわしくない大きなソファの端に座り文庫本を手にしている。
玲菜は一言で言うなら美しい女性だった。年齢からすれば少女と表現するのが正しいだろうが、見た目から呼称を決めるのであればやはり女性と言った方がいい。
濡れ烏という言葉がふさわしい流れるような黒髪、凪いだ湖面のように落ち着いた切れ長の瞳。背の高い鼻にふっくらとした唇。制服のスカーフは二年生を表す薄い青だが、いい意味で年相応には見えなかった。
「………………」
しかし、その表情には曇りがある。
本来玲菜がここでしたいことは今手にしている本を読むことだった。
だが、玲菜はここ最近その目的を果たせたことはほとんどない。
その原因は視線の先にいくつもある。
「玲菜ちゃん。これなんだけどー」
ソファの隣に座り、薄いプリントを見せてくる大きなリボンをした少女。
「久遠寺先輩。部費の申請って通ったんでしたっけ?」
正面の机で、書類とにらめっこをする黒タイツの少女。
「玲菜先輩。ここ、見てもらえませんかぁ」
玲菜の隣で立って甘えるような声で玲菜を誘う小柄な少女。
「ねぇねぇ、ぶちょー」
ソファの後ろに立ち玲菜を部長とよぶ背の高い少女。
「……あ、あの、久遠寺、さん。この前の続き、書いてみたらから後で読んでもらってもいい?」
玲菜を囲む三人から一歩さがった場所から声をかける気弱そうな少女。
五人の少女に囲まれ玲菜は本を読む暇はない。
本来こうして声をかけられる立場ではないにも関わらず。
「結月、こういった申請は部長であるお前が書くべきだろう。なんでも私に頼ろうとするな」
「はーい」
ソファにいる少女をあしらい
「予算は一つだけ修正もあったが、対応しておいたよ。姫乃」
「ありがとうございます」
机にいる少女に、報告をして
「天音、かまわないが、君自身よりも他のものと合わせる方が先じゃないか」
「むぅ……はぁい」
不満そうに返事をする少女に少し困った顔をしてから、
「何か用か、香里奈。というよりも私は部長ではないとなんど言ったらわかるんだ」
「みんなが部長に話しかけてるから呼んでみただけー」
悪びれることもなく玲菜が嫌がる呼称を続ける少女にあきれ顔をして、
「受け取っておくよ。神守」
手を伸ばして、USBを受け取る。
「ふぅ………」
そうして、五人の少女とのやり取りを終えた玲菜はその長い髪を垂らして一度うつむく。
が、少しすると周りから離れた少女たちを見回しかすかに笑みを作ってから、もう一度ため息をついて
(まったく、なぜこんなことになったんだ)
とここ数週間のことを思い出すのだった。