姫乃はクラスでも評判がいい。人当たり、面倒見もよく誰にでも分け隔てなく接し周りには自然と人が集まる。また友人たちには優しさだけでなく厳しさを持ち合わせることで信頼は篤い。
姫乃はそれを演技ではなく素でやってのけている。
もともと悪意という感情そのものが嫌いで、姫乃自身知り合いを嫌いになるということもない。
だが、周りにそう思われ自分でもそう振る舞おうとしても姫乃はまだ十数年しか生きていない少女でしかない。
聖人のように清らかな心だけを持つなど初めから不可能なことだ。
そして、姫乃には今嫌いとまでは言えなくても、負の感情を思ってしまう相手がいた。
人が人を嫌いになるのには様々な理由がある。
それは人それぞれで探せば枚挙ない。
だが、嫉妬という理由は人間が自我を持つようになってから延々と続く嫌いという感情の大きな理由の一つだろう。
「玲菜先輩。今度のお休み遊びにいきませんか?」
夏休みも明け二学期のはじめった部活の終わり。さわやかな秋晴れのこの日も今は夕日が部室を照らしどことなく郷愁を感じる時間。
姫乃は帰り支度を整えめったに抱かない感情を抱えながら天音と会話をする玲菜を見ていた。
「まぁ、かまわないのではないか。部員同士交流を深めるのはよいことだ」
「じゃなくてぇ、玲菜先輩とって思ってるんですけど」
「ん? あぁ、私もお邪魔させてはもらうよ」
「うぅぅ……はい」
相変わらず鈍い玲菜の反応に天音はどこか諦めたようにしながら、それでも休みに約束ができたということを内心喜ぶ。
玲菜は本当に変わった。
最初のころであれば、部員でない自分が行くべきでないと少なくても誘われた時にはそう断る。
そして、結月が一緒に行こうと言えばついてくるというのが普通で、姫乃の知っている玲菜だった。
それが今はあっさりと承諾というよりも、一緒が当然と考えている。
(…………別に、いいことだけど)
それは頭の中ではわかっている。そうなった要因に自分も絡んでいるのは知っているが、自分だけの力ではない。
(……私にはできなかった)
自分一人では玲菜は何も変わらなかった。
ただ、それは落ち込む要因ではあるが嫉妬ではない。
今姫乃が嫉妬しているのは……
「あ、そうだ。玲菜先輩。ついでですしあしたお昼一緒に食べませんか」
「何がついでなのかは知らんが、まぁたまにはいいだろう」
「やった。約束ですよ」
「あぁ。わかっているよ」
(………っ)
二人の会話に姫乃は自然と唇を噛んだ。
その理由を姫乃は自覚していて、だからこそ
「姫乃ちゃん。どうかしたの? なんか怖い顔してるけど」
「……なんでもない」
そんな感情を抱いてしまう自分に嫌気がさすのだった。