それは、突然のことでした。

 私、神岸清華と、恋人である高倉深雪さんは当然のことながら一緒にいることも多く、会えば話し込んでしまうことも多いです。

 今も、放課後偶然教室で会って、取り留めもないことを話していました。

 こんなことはいつでもあることで、そのまま下校時間となるまで話し込んだり、そこそこで切り上げて二人で寄り道デートをしたりするのが常でした。

 しかし、今日深雪さんは……

 

「もう、我慢できない」

 

 話している最中、何度も私の体を見つめ、この言葉が飛び出す前にはじっと神妙な顔で私の見ていていました。

 私は、それが何を意味するのか分からず伸ばされた手をどうすることもできず

「あ、あの……深雪、さん」

 いつのまにか、カーディガンのボタンをはずされ、シャツのボタンへと手をかけられていました。

「だーめ、動かないで」

「ぇ……」

 胸元のボタンをはずされて、しまいました。

(え? え?)

 私は、何がおきたのか、何をされているのかわからず混乱してしまいます。

 な、なぜこんなことをされているのでしょう? いきなり制服を、ぬ、脱がされています。

(ど、どういう意味だったんでしょうか)

 我慢できないというのは。

 その直前の言葉と、今の状況を思えば、そ、【そういう意味】にもとれます。

 い、いえ、でもそんなことはあるはずありません! わ、私たちは恋人ではありますけどまだまだ清い交際ですし、キス、だってそれほどの数があるわけではありません。し、しかもいきなりこんなことをされるなんて、ことは……

 た、確かに深雪さんはそういう人ではありますよ? でも、告白したときそういうのは演技だったみたいなことを言っていましたけど、付き合い始めてからも誰にでもいい顔をしますし、演技というよりも素に違いないとは思うのですが、でも、こ、んなことは

「っ!!」

 頭の中をぐるぐるとさせていた私は、肌にあたる空気の冷たさに現実へと引き戻されました。

「あ、ぁあ……あ」

 いつのまにか、シャツのボタンもすべて外されていて、もう開けば下着すら見えてしまいます。

「み、深雪、さん」

 私はあまりのことに顔を真っ赤にして、深雪さんのことを呼ぶことしかできませんでした。

(う、嘘……)

 こ、こんな、こんなことは……深雪さんは

「ちゃんとしてあげるから」

 思考がまとまらぬまま深雪さんはまたシャツへと手を伸ばしました。

「っ!!!」

 ちゃ、ちゃんとというのはどういう意味なのでしょう。そ、そんな、深雪さんはこんな、……こんなことする人では……

 だ、大体ここは教室です。確かに他に誰もいませんけれど、いつだれが来てもおかしくない学校の教室なのです! ここは、あくまで勉学に励む場所であって、決してこんなふしだらなことをする場所ではなく、そもそも私たちにはまだこんなこと早すぎて

(あ………)

 緊張のあまり目を閉じていた私は、彼女のにおいを感じてしまいました。

 甘いシャンプーの香。彼女に抱きしめられたときにいつも感じる匂い。私を包み込んでくれるような、大好きな深雪さんの香り。

 焦る心をほんの少しだけ、落ち着かせてくれる深雪さんの……匂い。

 体の緊張も、心の緊張もまるで解けたわけではないですが、頭が真っ白になっていたさっきまでよりも少し落ち着けた私は

(あれ?)

 いつのまにか、先ほどまで感じていた肌の冷たさを感じなくなっていることに気づきました。

「はい、おしまい」

 深雪さんも先ほどまでの密着状態から一歩距離を置いたところに立っていて、にこっと楽しそうに笑っていました。

「やー、清華がシャツのボタン掛け間違ってたからさー。黙ってようかと思ったんだけど、我慢できなくなっちゃって」

「え? しゃ、シャツ?」

 反射的に視線を下に向けた私は確かに、シャツが綺麗に整えられているのを見つけます。

「だめだよ、清華。ボタンくらいちゃんとしなきゃ」

「………………」

 つ、つまり、どういうこと、でしょうか?

 え、えっと深雪さんが我慢できないといっていたのは、私のシャツのボタンが掛け違っていたからで……? ボタンをすべてはずされてしまったのも、ただボタンをかけなおすためなだけで……? 

 そ、そう、ですよね。それならシャツのボタンを一度外すのは当たり前ですし、いくら深雪さんといえど、いきなり、しかも教室でそんなことするわけはありませんし。

 すべては、私の勘違いで早とちりで……

 って!

「そ、それならそうと口で言ってください!」

 なんでわざわざ妙な言い回しをしたりして、ボタンをはずしてきたりする必要なんてまったくなかったのです。

「ごめんごめん。言うよりもしたほうが早いかなって」

「まったく!」

 初めから、ボタン掛け違えてると口で伝えてくれれば、自分でしましたし、へ、変な勘違い、など………

 最初は羞恥で、次に怒りで赤くなっていた私は、またそれを思い返しかぁっと頬を熱くします。

「でさ、清華」

 それを知ってか知らずか、深雪さんはにこにことした顔で上目使いに私を覗き込んできて余計にドキドキさせられます。

「な、なんでしょうか?」

「何を考えてくれたの?」

「っ〜〜〜〜〜〜〜〜!!!」

 その一言に、私が何を考えていたのかばれていることを知って

「し、知りません!!」

 逃げるようにその場を後にしてしまうのでした。

 

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