私は聖ちゃんのことをこの学校の誰よりも知ってるつもり。前は本当につもりだけだったかもしれないけど、今は本当にそうだって思うよ。

 けど、私が聖ちゃんの一番だったとしても、聖ちゃんの全部がわかるなんてことないの。

 聖ちゃんが何を考えてるかわからないっておもうことは、あるの。

 それは気持ちを疑ってるとかじゃないけど、おかしいって思うことはどんどん増えて言ってた。

 少し前から聖ちゃんが変……優しすぎるようななったって思ってて、そんな頃に音楽室で一人になる聖ちゃんを見て、その日の帰り道にキスをしてもらって、その時に確信しちゃったの。

 聖ちゃんは何か私に隠してるんだって。

 でもそれを話してくれないのは、きっと私のためなんだって勝手に想像したりもしてたの。

 だって、聖ちゃんが私のことを嫌いになるなんて想像できないし、したくもないし、ありえないって思うもん。

 聖ちゃんのことを信じてる。

 今は理由を話してくれないけど、きっとちゃんとした理由があっていつか私に話してくれる。

 私はそれを信じてるの。だから、恋人として聖ちゃんのことを信じて待とう。聖ちゃんはいつか絶対に私に話してくれるもん。

 ちょっとだけ、やっぱり聞きたいななんて思いもするけど、本気でそれを思ってた。

 けど

 思いもしない形で私は聖ちゃんの理由を知ることになった。

 

 

 

「もう、私の部屋に来たって何もないなんて知ってるでしょ。こんなところにいてもつまらないわよ」

 お休みの日。どこかに出かけてるって言うんじゃなくて、聖ちゃんのお部屋に行きたいってその場所を訪れた私に聖ちゃんは少しあきれたようにそう言った。

「そんなことないよ。聖ちゃんのお部屋私は好きだよ」

「好きって言ったってどこがいいって言うのよ。何度も言うけど、何にもないじゃない」

 見た目のお話をすればその通り。

 聖ちゃんのお部屋には何もない。あるのは必要最低限のものだけ。

 ベッドと机と、テーブルと、クローゼットと、壁掛け時計だけ。

 年頃の女の子の部屋にあるようなものは何にもない。

 余計なものは何にもない部屋。どうして聖ちゃんのお部屋がこうなっちゃったのか最初来た時は全然見当もつかなったけど、今ならわかる。

 ここは聖ちゃんの心の中だったの。何にもなくて、何にも考えないでいられる場所。そうなりたかったから聖ちゃんはこんなお部屋を作ったんだと思う。

 けど、今は何にもなくなんてないよ。

「そんなことないよ」

「撫子さんがそう言ってくれても、実際に……」

「あるよ……大切なもの」

「?」

「聖ちゃんとの、思い出」

「……………」

「聖ちゃんと恋人になれたっていう大切な思い出があるよ」

「も、もう! 撫子さんってば恥ずかしいこと言わないでよ」

「だって、本当にそう思ってるもん」

 あの日のこと、全部覚えてる。

 ベッドに押し倒されちゃったことも、聖ちゃんが泣いたことも、聖ちゃんのお話を聞いたことも、初めて私からちゅうをしたのも。

 全部。

「忘れないよ、私。きっと一生忘れない」

「っ………」

 その時聖ちゃんの表情が一瞬だけ変わった。悲しんでるような、謝っているようなそんな顔に

「ひ……」

「あ、っと。そういえば、飲み物も用意してなかったわね。取ってくるわ」

 私が名前を呼ぶ前に聖ちゃんは思い出したかのように言って部屋を出て行っちゃった。

(なんだったんだろう……?)

 私はその釈然としない気持ちがなんだか落ち着かなくて、なにげなく部屋の中を歩いてみたの。

「あれ?」

 そして、聖ちゃんの机の上であるものを見つけて

「……………なに、これ」

 呆然としながらそんな声を出した。

 私が震える手で見つめるそれは何にもおかしいものじゃないの。

 むしろ私たちの年で、この時期なら当然目にするもの。

 ただ、私やみどりちゃん葉月ちゃん、藍里ちゃんや他のクラスメイトのほとんどが必要のない書類。

 入学願書って呼ばれるもの。

 普通私たちの学校じゃエスカレーターで高等部に進む。もちろん、別の学校を受験する人もいるから聖ちゃんがこの書類を持ってちゃいけないなんてことはない。

 ないよ。けど………

(それに、これって……)

 あんまり他の学校にくわしくなんてないけど、確かこの学校は遠いところだ。それも、ここからじゃ通えないくらいに。

(どう、して?)

 だって、聖ちゃん……別の学校受けるなんて一言も言ってなかった。

 それなのに、どうしてこんなものがあるの? なんで聖ちゃんの名前が書かれてるの?

 大学になったらわからないけど、次はまた三年間一緒にいられるって思ってたのに。

(あ………)

 急に背筋が冷たくなった。理由はよくわからないけど、とっても不安な気持ちになって立ってるのが苦しいくらいに感じちゃって。

 胸の奥が苦しくて、切なくて、寂しくて……

(聖ちゃん………)

 聖ちゃんに会いたくて、お話ししたくて

 けど

(…………………)

 怖いって思っちゃった。

 だって……だって……聖ちゃんと同じ、なんだもん。

 聖ちゃんが【あの人】とお別れしたのと同じ……

 そんなことあるわけないってわかってるけど、信じてるけど……

(でも……)

 全部の不安は消えなくて。

 しかも

「撫子さん、お待たせ」

「……………」

「撫子さん………?」

「……………」

「どうか、し……っ!!」

 聖ちゃんの驚いた姿が私の不安を掻き立てた。

 

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